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第3章 ゆうしゃのしるしを巡る冒険
第16話 秘密の地図とゆうしゃのしるし[4]
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数日後、夏の陽ざしが西の空に傾きはじめたころ、なつみとそらたは並んで歩いていた。
ノートに挟まれていた「ひみつの地図」は、なつみの手の中でそっとたたまれていた。
何度も開いては眺め、折り目が柔らかくなった紙は、すでに彼女の心の中にしっかりと刻まれたようだった。
「……こっちで合ってると思うんだけど」
なつみが、ポニーテールをふわりと揺らして振り返る。
夕日に照らされた栗色の髪が、やさしい金色の光を帯びていた。ミニスカートの下に履いたスパッツが、彼女の足取りをより快活に見せている。
「うん、たぶん合ってるよ。地図の“水たまりのある公園”って、あの奥のほうのことじゃない?」
そらたが眼鏡を押し上げながら、地図の一角を指差した。
黒髪の前髪がその拍子にふわりと揺れ、白地のTシャツとハーフパンツの組み合わせが、どこか夏の自由さを象徴しているようだった。
ふたりが向かっているのは、図書館の裏手にある小さな公園だった。
古くて人通りも少ないその場所は、いつもならただ通り過ぎるだけの道だったけれど、今日は違った。
地図のすみには、小さな文字でこう書かれていた。
【ここから ゆうしゃのしるしを さがすこと】
なつみの目は、地図のその言葉にずっと引っかかっていた。
――ゆうしゃのしるし。
「そらた。わたしね……」
歩きながら、なつみはゆっくりと言葉を選んだ。
「お姉ちゃんが、“ゆうしゃ”って言ってくれたこと、すっごくうれしかったの。ずっと忘れられなかった」
そらたは黙ってうなずいた。
「でもね、自分がほんとに“ゆうしゃ”なのか、よくわからなかったんだ。ずっと、自信なかった。でも……」
彼女はそっと地図を見つめ、口元を少しだけ引き締めた。
「この地図が、“しるし”を探す冒険のはじまりなら、わたし、やってみたい」
「……うん」
そらたの声は静かだったが、力があった。
「なっちゃんが行くなら、ぼくも行く。だってぼく、“まほうつかい”だしね」
くすっとなつみが笑った。
「それ、すっかり定着しちゃったね」
「うん。でも、まほうって、きっとこういうことなんだと思う。誰かの気持ちを、そっと後押しできるのが、魔法使いなんじゃないかなって」
そらたの言葉に、なつみの足が一瞬止まった。
そしてすぐに、にこっと笑って言った。
「そっか。じゃあわたし、ゆうしゃとして、がんばらなきゃね」
ふたりは、公園の前で立ち止まった。
鉄棒や滑り台がさびついていて、砂場には雑草がぽつぽつと生えていた。
地図には、この公園から始まるような矢印が描かれている。
「ここ……どこを探せばいいんだろう」
「そらた……」
なつみは足を止め、遠くの空を見上げた。
夕暮れの光が漏れる中、ふと彼女の瞳に小さな光が灯る。
「お姉ちゃんと、よくここで遊んだの。覚えてる?」
そらたは驚いたように彼女を見る。
「幼稚園くらいのときのなっちゃん……水たまりを見つけて、かけっこして、泥だらけになったけど、すごく楽しそうで……」
なつみは目を細め、ふっと遠い記憶をたぐるように語った。
「お姉ちゃんが、絵本の真似して“勇者とドラゴンの戦い”って言いながら風車を作ってくれて、わたしは弟役だった。あのとき、“なっちゃん、勇者になれるよ”って言ってくれたんだ……」
その瞬間、いつもの強気な言葉ではなく、ゆっくりとした声で。
「この地図が、“しるし”を探す冒険のはじまりなら、わたし、やってみたい」
彼女は胸の奥に踏み出す決意を灯して言った。
そらたは静かに頷く。
「なっちゃんが行くなら、ぼくも行く。だってぼく、“まほうつかい”だしね」
夕陽の中で、ふたりの影がすっと伸びる。
「まほうって、きっとこういうことなんだと思う。誰かの気持ちを、そっと後押しできるのが、魔法使いなんじゃないかなって」
その言葉に、なつみはふっと笑った。
「そっか。じゃあわたし、ゆうしゃとして、がんばらなきゃね」
ノートに挟まれていた「ひみつの地図」は、なつみの手の中でそっとたたまれていた。
何度も開いては眺め、折り目が柔らかくなった紙は、すでに彼女の心の中にしっかりと刻まれたようだった。
「……こっちで合ってると思うんだけど」
なつみが、ポニーテールをふわりと揺らして振り返る。
夕日に照らされた栗色の髪が、やさしい金色の光を帯びていた。ミニスカートの下に履いたスパッツが、彼女の足取りをより快活に見せている。
「うん、たぶん合ってるよ。地図の“水たまりのある公園”って、あの奥のほうのことじゃない?」
そらたが眼鏡を押し上げながら、地図の一角を指差した。
黒髪の前髪がその拍子にふわりと揺れ、白地のTシャツとハーフパンツの組み合わせが、どこか夏の自由さを象徴しているようだった。
ふたりが向かっているのは、図書館の裏手にある小さな公園だった。
古くて人通りも少ないその場所は、いつもならただ通り過ぎるだけの道だったけれど、今日は違った。
地図のすみには、小さな文字でこう書かれていた。
【ここから ゆうしゃのしるしを さがすこと】
なつみの目は、地図のその言葉にずっと引っかかっていた。
――ゆうしゃのしるし。
「そらた。わたしね……」
歩きながら、なつみはゆっくりと言葉を選んだ。
「お姉ちゃんが、“ゆうしゃ”って言ってくれたこと、すっごくうれしかったの。ずっと忘れられなかった」
そらたは黙ってうなずいた。
「でもね、自分がほんとに“ゆうしゃ”なのか、よくわからなかったんだ。ずっと、自信なかった。でも……」
彼女はそっと地図を見つめ、口元を少しだけ引き締めた。
「この地図が、“しるし”を探す冒険のはじまりなら、わたし、やってみたい」
「……うん」
そらたの声は静かだったが、力があった。
「なっちゃんが行くなら、ぼくも行く。だってぼく、“まほうつかい”だしね」
くすっとなつみが笑った。
「それ、すっかり定着しちゃったね」
「うん。でも、まほうって、きっとこういうことなんだと思う。誰かの気持ちを、そっと後押しできるのが、魔法使いなんじゃないかなって」
そらたの言葉に、なつみの足が一瞬止まった。
そしてすぐに、にこっと笑って言った。
「そっか。じゃあわたし、ゆうしゃとして、がんばらなきゃね」
ふたりは、公園の前で立ち止まった。
鉄棒や滑り台がさびついていて、砂場には雑草がぽつぽつと生えていた。
地図には、この公園から始まるような矢印が描かれている。
「ここ……どこを探せばいいんだろう」
「そらた……」
なつみは足を止め、遠くの空を見上げた。
夕暮れの光が漏れる中、ふと彼女の瞳に小さな光が灯る。
「お姉ちゃんと、よくここで遊んだの。覚えてる?」
そらたは驚いたように彼女を見る。
「幼稚園くらいのときのなっちゃん……水たまりを見つけて、かけっこして、泥だらけになったけど、すごく楽しそうで……」
なつみは目を細め、ふっと遠い記憶をたぐるように語った。
「お姉ちゃんが、絵本の真似して“勇者とドラゴンの戦い”って言いながら風車を作ってくれて、わたしは弟役だった。あのとき、“なっちゃん、勇者になれるよ”って言ってくれたんだ……」
その瞬間、いつもの強気な言葉ではなく、ゆっくりとした声で。
「この地図が、“しるし”を探す冒険のはじまりなら、わたし、やってみたい」
彼女は胸の奥に踏み出す決意を灯して言った。
そらたは静かに頷く。
「なっちゃんが行くなら、ぼくも行く。だってぼく、“まほうつかい”だしね」
夕陽の中で、ふたりの影がすっと伸びる。
「まほうって、きっとこういうことなんだと思う。誰かの気持ちを、そっと後押しできるのが、魔法使いなんじゃないかなって」
その言葉に、なつみはふっと笑った。
「そっか。じゃあわたし、ゆうしゃとして、がんばらなきゃね」
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