15 / 68
第3章 ゆうしゃのしるしを巡る冒険
第15話 秘密の地図とゆうしゃのしるし[3]
しおりを挟む
そのまま並んで歩きだしていた二人。
風が少しだけ涼しくなっていて、そらたが小さなくしゃみをひとつした。
「寒いの?」
「ううん、ちょっと風が急にきたから……」
そらたは首をすくめながら笑って見せた。
なつみは少し考えて、バッグの中から小さなスカーフを取り出すと、そらたの首元にふわっと巻いてやった。
「な、なっちゃん?」
「風邪引かれたら困るから」
そう言いながらも、自分の手の甲が少しだけ赤くなっているのがわかった。
そらたの首筋に触れたとき、思ったよりもその体温が近くに感じられて、胸がきゅっとなった。
でも、そらたは文句も言わず、ほんの少し照れくさそうに笑っているだけだった。
そのまま、なつみの家のほうへと歩いていくと、空には赤と紫のあいだのような色が混ざり始めていた。
雲の切れ間から金色の筋がすうっと伸びていて、それがまるで、どこかへつながる道のように見えた。
「ねえ、そらた。あの地図、見てみようか」
なつみが足を止めてそう言うと、そらたも立ち止まってうなずいた。
「うん。もうちょっとだけ、今日の冒険、続けていい?」
「もちろん」
二人はそのまま、小さな公園のベンチに腰かけた。
そこは町の中心から少し離れたところで、子どもたちの声ももう聞こえない。
ひとけのない静かな時間が流れていた。
なつみはそっとノートを開く。
地図が挟まっていたページは、ほのかが通っていた近くの通学路について書かれたメモの隣だった。
まるで、「ここから先を頼んだよ」と言われているような気がして、なつみの指先がふるえる。
「……この地図、ほんとうになっちゃんのお姉ちゃんが?」
そらたがつぶやいた。
「たぶん、うん。だってノートに挟まってたんだよ。しかも、すごく丁寧に描かれてるし……たぶん、私か、誰かに見せたかったんだと思う」
地図は、手書きのペンの線で描かれていて、近所のランドマークがいくつか書きこまれていた。
「はなぞの公園」「ガソリンスタンドの裏」「きいろいあじさい」「ふしぎな階段」
──そして、一番端のほうに小さな丸が描かれていて、そこにはこう記されていた。
《なつみへ。ここで待ってるよ》
その筆跡はたしかに、なつみにとって見覚えのあるものだった。
ほのかがよく、誕生日カードに書いてくれた文字に似ていた。
すこしだけ字が丸くて、でも、芯があるような、あの文字。
「これって……」
そらたの声が震えていた。
「うん。やっぱり、お姉ちゃんは、私に……きっと、この地図を見せたかったんだよ。ちゃんと、続きを歩いてほしかったんだと思う」
なつみは自分の胸に手を当てる。
ドクンドクンという鼓動が、夕暮れの空にまで響いていくようだった。
「じゃあ、これは……」
「うん、たぶん、“しるし”だよ。私の、“ゆうしゃのしるし”」
そう言ったとき、そらたが小さく笑った。
「やっぱり、なつみちゃんは勇者だね」
「ふふっ、でもね──」
なつみはそらたの方を見た。
「まほうつかいが隣にいるから、行けるんだよ。私ひとりだったら、ぜったい怖くてムリ」
「……うん、ぼくも、勇者が隣にいてくれるから、まほうが使える気がするよ」
ふたりは顔を見合わせて、そっと笑い合った。
気づけば、空はもうすっかり暮れていた。
街灯がぽつぽつと灯り始め、公園の木々が長い影を落とし始めている。
なつみはもう一度地図を見つめた。
「明日、行ってみようよ」
「うん。どこから行く? この“かこの みずたまり”ってのが、気になるなぁ」
「私も。ここ、前に一回だけ通った気がする。お姉ちゃんと──」
ふいに、風が吹き抜けて、なつみの髪が揺れた。
その感触に、不意にあの夏の日の記憶が蘇る。
姉の手を引かれて走った細道。
笑いながら通った秘密の階段。
あのとき、もっと話しておけばよかった。
もっと、名前を呼べばよかった。
でも──まだ、遅くない。
「そらた、また明日ね」
「うん、なっちゃん。冒険のつづき、絶対に行こうね」
そらたが背を向けて歩き出すのを見送りながら、なつみは空を見上げた。
星が一番星だけ、ぽつんと瞬いていた。
それは、誰かが残した“しるし”のように、夜空に輝いていた。
風が少しだけ涼しくなっていて、そらたが小さなくしゃみをひとつした。
「寒いの?」
「ううん、ちょっと風が急にきたから……」
そらたは首をすくめながら笑って見せた。
なつみは少し考えて、バッグの中から小さなスカーフを取り出すと、そらたの首元にふわっと巻いてやった。
「な、なっちゃん?」
「風邪引かれたら困るから」
そう言いながらも、自分の手の甲が少しだけ赤くなっているのがわかった。
そらたの首筋に触れたとき、思ったよりもその体温が近くに感じられて、胸がきゅっとなった。
でも、そらたは文句も言わず、ほんの少し照れくさそうに笑っているだけだった。
そのまま、なつみの家のほうへと歩いていくと、空には赤と紫のあいだのような色が混ざり始めていた。
雲の切れ間から金色の筋がすうっと伸びていて、それがまるで、どこかへつながる道のように見えた。
「ねえ、そらた。あの地図、見てみようか」
なつみが足を止めてそう言うと、そらたも立ち止まってうなずいた。
「うん。もうちょっとだけ、今日の冒険、続けていい?」
「もちろん」
二人はそのまま、小さな公園のベンチに腰かけた。
そこは町の中心から少し離れたところで、子どもたちの声ももう聞こえない。
ひとけのない静かな時間が流れていた。
なつみはそっとノートを開く。
地図が挟まっていたページは、ほのかが通っていた近くの通学路について書かれたメモの隣だった。
まるで、「ここから先を頼んだよ」と言われているような気がして、なつみの指先がふるえる。
「……この地図、ほんとうになっちゃんのお姉ちゃんが?」
そらたがつぶやいた。
「たぶん、うん。だってノートに挟まってたんだよ。しかも、すごく丁寧に描かれてるし……たぶん、私か、誰かに見せたかったんだと思う」
地図は、手書きのペンの線で描かれていて、近所のランドマークがいくつか書きこまれていた。
「はなぞの公園」「ガソリンスタンドの裏」「きいろいあじさい」「ふしぎな階段」
──そして、一番端のほうに小さな丸が描かれていて、そこにはこう記されていた。
《なつみへ。ここで待ってるよ》
その筆跡はたしかに、なつみにとって見覚えのあるものだった。
ほのかがよく、誕生日カードに書いてくれた文字に似ていた。
すこしだけ字が丸くて、でも、芯があるような、あの文字。
「これって……」
そらたの声が震えていた。
「うん。やっぱり、お姉ちゃんは、私に……きっと、この地図を見せたかったんだよ。ちゃんと、続きを歩いてほしかったんだと思う」
なつみは自分の胸に手を当てる。
ドクンドクンという鼓動が、夕暮れの空にまで響いていくようだった。
「じゃあ、これは……」
「うん、たぶん、“しるし”だよ。私の、“ゆうしゃのしるし”」
そう言ったとき、そらたが小さく笑った。
「やっぱり、なつみちゃんは勇者だね」
「ふふっ、でもね──」
なつみはそらたの方を見た。
「まほうつかいが隣にいるから、行けるんだよ。私ひとりだったら、ぜったい怖くてムリ」
「……うん、ぼくも、勇者が隣にいてくれるから、まほうが使える気がするよ」
ふたりは顔を見合わせて、そっと笑い合った。
気づけば、空はもうすっかり暮れていた。
街灯がぽつぽつと灯り始め、公園の木々が長い影を落とし始めている。
なつみはもう一度地図を見つめた。
「明日、行ってみようよ」
「うん。どこから行く? この“かこの みずたまり”ってのが、気になるなぁ」
「私も。ここ、前に一回だけ通った気がする。お姉ちゃんと──」
ふいに、風が吹き抜けて、なつみの髪が揺れた。
その感触に、不意にあの夏の日の記憶が蘇る。
姉の手を引かれて走った細道。
笑いながら通った秘密の階段。
あのとき、もっと話しておけばよかった。
もっと、名前を呼べばよかった。
でも──まだ、遅くない。
「そらた、また明日ね」
「うん、なっちゃん。冒険のつづき、絶対に行こうね」
そらたが背を向けて歩き出すのを見送りながら、なつみは空を見上げた。
星が一番星だけ、ぽつんと瞬いていた。
それは、誰かが残した“しるし”のように、夜空に輝いていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる