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第3章 ゆうしゃのしるしを巡る冒険
第15話 秘密の地図とゆうしゃのしるし[3]
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そのまま並んで歩きだしていた二人。
風が少しだけ涼しくなっていて、そらたが小さなくしゃみをひとつした。
「寒いの?」
「ううん、ちょっと風が急にきたから……」
そらたは首をすくめながら笑って見せた。
なつみは少し考えて、バッグの中から小さなスカーフを取り出すと、そらたの首元にふわっと巻いてやった。
「な、なっちゃん?」
「風邪引かれたら困るから」
そう言いながらも、自分の手の甲が少しだけ赤くなっているのがわかった。
そらたの首筋に触れたとき、思ったよりもその体温が近くに感じられて、胸がきゅっとなった。
でも、そらたは文句も言わず、ほんの少し照れくさそうに笑っているだけだった。
そのまま、なつみの家のほうへと歩いていくと、空には赤と紫のあいだのような色が混ざり始めていた。
雲の切れ間から金色の筋がすうっと伸びていて、それがまるで、どこかへつながる道のように見えた。
「ねえ、そらた。あの地図、見てみようか」
なつみが足を止めてそう言うと、そらたも立ち止まってうなずいた。
「うん。もうちょっとだけ、今日の冒険、続けていい?」
「もちろん」
二人はそのまま、小さな公園のベンチに腰かけた。
そこは町の中心から少し離れたところで、子どもたちの声ももう聞こえない。
ひとけのない静かな時間が流れていた。
なつみはそっとノートを開く。
地図が挟まっていたページは、ほのかが通っていた近くの通学路について書かれたメモの隣だった。
まるで、「ここから先を頼んだよ」と言われているような気がして、なつみの指先がふるえる。
「……この地図、ほんとうになっちゃんのお姉ちゃんが?」
そらたがつぶやいた。
「たぶん、うん。だってノートに挟まってたんだよ。しかも、すごく丁寧に描かれてるし……たぶん、私か、誰かに見せたかったんだと思う」
地図は、手書きのペンの線で描かれていて、近所のランドマークがいくつか書きこまれていた。
「はなぞの公園」「ガソリンスタンドの裏」「きいろいあじさい」「ふしぎな階段」
──そして、一番端のほうに小さな丸が描かれていて、そこにはこう記されていた。
《なつみへ。ここで待ってるよ》
その筆跡はたしかに、なつみにとって見覚えのあるものだった。
ほのかがよく、誕生日カードに書いてくれた文字に似ていた。
すこしだけ字が丸くて、でも、芯があるような、あの文字。
「これって……」
そらたの声が震えていた。
「うん。やっぱり、お姉ちゃんは、私に……きっと、この地図を見せたかったんだよ。ちゃんと、続きを歩いてほしかったんだと思う」
なつみは自分の胸に手を当てる。
ドクンドクンという鼓動が、夕暮れの空にまで響いていくようだった。
「じゃあ、これは……」
「うん、たぶん、“しるし”だよ。私の、“ゆうしゃのしるし”」
そう言ったとき、そらたが小さく笑った。
「やっぱり、なつみちゃんは勇者だね」
「ふふっ、でもね──」
なつみはそらたの方を見た。
「まほうつかいが隣にいるから、行けるんだよ。私ひとりだったら、ぜったい怖くてムリ」
「……うん、ぼくも、勇者が隣にいてくれるから、まほうが使える気がするよ」
ふたりは顔を見合わせて、そっと笑い合った。
気づけば、空はもうすっかり暮れていた。
街灯がぽつぽつと灯り始め、公園の木々が長い影を落とし始めている。
なつみはもう一度地図を見つめた。
「明日、行ってみようよ」
「うん。どこから行く? この“かこの みずたまり”ってのが、気になるなぁ」
「私も。ここ、前に一回だけ通った気がする。お姉ちゃんと──」
ふいに、風が吹き抜けて、なつみの髪が揺れた。
その感触に、不意にあの夏の日の記憶が蘇る。
姉の手を引かれて走った細道。
笑いながら通った秘密の階段。
あのとき、もっと話しておけばよかった。
もっと、名前を呼べばよかった。
でも──まだ、遅くない。
「そらた、また明日ね」
「うん、なっちゃん。冒険のつづき、絶対に行こうね」
そらたが背を向けて歩き出すのを見送りながら、なつみは空を見上げた。
星が一番星だけ、ぽつんと瞬いていた。
それは、誰かが残した“しるし”のように、夜空に輝いていた。
風が少しだけ涼しくなっていて、そらたが小さなくしゃみをひとつした。
「寒いの?」
「ううん、ちょっと風が急にきたから……」
そらたは首をすくめながら笑って見せた。
なつみは少し考えて、バッグの中から小さなスカーフを取り出すと、そらたの首元にふわっと巻いてやった。
「な、なっちゃん?」
「風邪引かれたら困るから」
そう言いながらも、自分の手の甲が少しだけ赤くなっているのがわかった。
そらたの首筋に触れたとき、思ったよりもその体温が近くに感じられて、胸がきゅっとなった。
でも、そらたは文句も言わず、ほんの少し照れくさそうに笑っているだけだった。
そのまま、なつみの家のほうへと歩いていくと、空には赤と紫のあいだのような色が混ざり始めていた。
雲の切れ間から金色の筋がすうっと伸びていて、それがまるで、どこかへつながる道のように見えた。
「ねえ、そらた。あの地図、見てみようか」
なつみが足を止めてそう言うと、そらたも立ち止まってうなずいた。
「うん。もうちょっとだけ、今日の冒険、続けていい?」
「もちろん」
二人はそのまま、小さな公園のベンチに腰かけた。
そこは町の中心から少し離れたところで、子どもたちの声ももう聞こえない。
ひとけのない静かな時間が流れていた。
なつみはそっとノートを開く。
地図が挟まっていたページは、ほのかが通っていた近くの通学路について書かれたメモの隣だった。
まるで、「ここから先を頼んだよ」と言われているような気がして、なつみの指先がふるえる。
「……この地図、ほんとうになっちゃんのお姉ちゃんが?」
そらたがつぶやいた。
「たぶん、うん。だってノートに挟まってたんだよ。しかも、すごく丁寧に描かれてるし……たぶん、私か、誰かに見せたかったんだと思う」
地図は、手書きのペンの線で描かれていて、近所のランドマークがいくつか書きこまれていた。
「はなぞの公園」「ガソリンスタンドの裏」「きいろいあじさい」「ふしぎな階段」
──そして、一番端のほうに小さな丸が描かれていて、そこにはこう記されていた。
《なつみへ。ここで待ってるよ》
その筆跡はたしかに、なつみにとって見覚えのあるものだった。
ほのかがよく、誕生日カードに書いてくれた文字に似ていた。
すこしだけ字が丸くて、でも、芯があるような、あの文字。
「これって……」
そらたの声が震えていた。
「うん。やっぱり、お姉ちゃんは、私に……きっと、この地図を見せたかったんだよ。ちゃんと、続きを歩いてほしかったんだと思う」
なつみは自分の胸に手を当てる。
ドクンドクンという鼓動が、夕暮れの空にまで響いていくようだった。
「じゃあ、これは……」
「うん、たぶん、“しるし”だよ。私の、“ゆうしゃのしるし”」
そう言ったとき、そらたが小さく笑った。
「やっぱり、なつみちゃんは勇者だね」
「ふふっ、でもね──」
なつみはそらたの方を見た。
「まほうつかいが隣にいるから、行けるんだよ。私ひとりだったら、ぜったい怖くてムリ」
「……うん、ぼくも、勇者が隣にいてくれるから、まほうが使える気がするよ」
ふたりは顔を見合わせて、そっと笑い合った。
気づけば、空はもうすっかり暮れていた。
街灯がぽつぽつと灯り始め、公園の木々が長い影を落とし始めている。
なつみはもう一度地図を見つめた。
「明日、行ってみようよ」
「うん。どこから行く? この“かこの みずたまり”ってのが、気になるなぁ」
「私も。ここ、前に一回だけ通った気がする。お姉ちゃんと──」
ふいに、風が吹き抜けて、なつみの髪が揺れた。
その感触に、不意にあの夏の日の記憶が蘇る。
姉の手を引かれて走った細道。
笑いながら通った秘密の階段。
あのとき、もっと話しておけばよかった。
もっと、名前を呼べばよかった。
でも──まだ、遅くない。
「そらた、また明日ね」
「うん、なっちゃん。冒険のつづき、絶対に行こうね」
そらたが背を向けて歩き出すのを見送りながら、なつみは空を見上げた。
星が一番星だけ、ぽつんと瞬いていた。
それは、誰かが残した“しるし”のように、夜空に輝いていた。
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