ゆうしゃの夏、まほうつかいの空

えんびあゆ

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第4章 まほうつかいの空

第28話 まほうつかいの空[1]

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「これですべての“しるし”が集まったね」
「うん……忘れかけていたお姉ちゃんの思い出が思い出せて……良かった」
すっかり暗くなった周囲を2人は歩調を合わせながら歩く。

公園を後にし、ふたりはゆっくりと住宅街へと歩き出す。
夜風が通り抜け、夏の終わりを告げる虫の音が優しく重なっていた。

「そらた……」
「うん?」
「この地図の“しるし”巡り、すっごく楽しかった」

そらたは、満ち足りた笑みを浮かべて、答える。

「ぼくも。何かを探して、見つけて、伝えて……そういう冒険が、こんなにじんわり幸せになるんだって気づいたよ」

なつみはコクリと頷きながら、手にした地図をそっと懐にしまう。

「“しるし”って、ただお姉ちゃんのメッセージじゃなくて……私たちの心の向かい合いでもあったね」
「“まわるかげ”では支え合う勇気を、“こえのあるばしょ”では、誰かの声を待つ優しさを、“とおくのひかり”では、見えない先に進む希望を――」

そらたの言葉に、なつみはそっと頷いた。

「そう。全部で“ほんとうの しるし”だったんだ」
「なっちゃん、あの丘のこと覚えてる?」
「……丘?」

「うん!小さいころに一緒に遊んだ"ただいまの丘"。ほのかさんも一緒に遊んでくれたっけ」

そらたはそういうと、ほんの少しだけ離れた公園の丘を指さしていた。

「なっちゃん、行ってみない?」
「うん!」

小さいころにほのかお姉ちゃんと一緒に遊んだ場所。
あの丘でお姉ちゃんやそらたと一緒に遊んだり、話したり、空を見たり―――。

――「ただいま」と言える場所へ。

なつみの胸の奥に、あの夏の日の記憶が静かによみがえる。

まだ自転車にも乗れなかったあの頃。風が強かった日。ほのかはなつみの手を引いて、この丘に連れてきた。
「ほら、ここからだと空がいちばん広く見えるでしょ?」
そう言ってほのかは笑いながら、ふたりで草むらに寝そべって、空を見上げた。

雲がゆっくりと流れていた。ほのかの声は優しくて、どこか少し遠くを見ているようだった。

「なつみはね、ゆうしゃになるの」
そうつぶやいたなつみに、ほのかは目を細めて、ただ「うん」とうなずいた。

それが、ふたりで空を見上げた最後の時間だった。
その年の秋、ほのかは学校を休みがちになり、
あの広い空の下で過ごす時間は、もう二度と来なかった――。

ふたりは幼い頃に遊んだ丘のふもとまで帰ってきた。
あの丘には、お姉ちゃんを思う“ただいま”を告げるシンボルがあった。

「ねえ……」

なつみは背を伸ばし、空を見上げた。

「お姉ちゃん、ただいまって言ってもいいですか?」

夜空には、すでに無数の星が散りばめられている。
その星々は、まるで約束を聞き届けるように、静かに瞬いていた。

「お姉ちゃん、わたし……ただいま」

なつみは声を震わせずに、はっきりとつぶやいた。
その声は夜風に乗って、そらたの耳に届いた。
そらたは、ゆっくりと彼女の隣に立っていた。

「……わたし、“ゆうしゃ”だったんだね」

そう思えたのは、誰かに勝ったからじゃない。
涙をこらえられたからでもない。

怖くても歩いたこと。
失ったものに背を向けず、ちゃんと“ただいま”って言えたこと。

——それが、きっと、ゆうしゃの“しるし”だった。
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