ゆうしゃの夏、まほうつかいの空

えんびあゆ

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第4章 まほうつかいの空

最終話 まほうつかいの空[2]

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そして、そんなわたしの隣には、
静かに、でもずっと「まほう」をくれた誰かがいた。

そらたの言葉。まなざし。手のあたたかさ。
目に見えないたくさんの魔法が、わたしの背中を押してくれていた。

ゆうしゃとまほうつかい。
それはきっと、物語の中の名前じゃない。

心のなかで、誰もが持っている“なまえ”なんだ。


「まっててほしいって思った。そらたと一緒に、ここまで帰ってきたよ」

そう言うなつみは、少し誇らしげだった。
そらたも空を見上げ、つぶやいた。

「ただいま、なっちゃん。そして……」
「なに?」
「おかえり」

その声には、優しさと信頼が満ちていた。
なつみはそっとそらたに寄り添い、ふたりは夜空の下で肩を寄せ合った。

「ねえ、なっちゃん。ぼくたち、しるしを探してるうちに、何か大切なものを見つけたんじゃないかなって、思うんだ」
「うん……」

なつみはそっと、胸に手を当てた。
そこには、たしかにひとつひとつの“しるし”が刻んだ想いがあった。

――お姉ちゃんの声。
――寄り添ってくれた手。
――見えない未来を照らす、あの光。
――そして、最後に見つけたのは、「ただいまと言える場所」。

静寂の中で、ふたりの心は確かに繋がっていた。
しるしの冒険は終わったけれど、その心の旅は続いていく。

なつみは深呼吸して、そらたと一歩を踏み出した。

「したい冒険、まだまだあるよね!」
「もちろん。次は、新しい“まほう”探しだってできるかも」

「ねえ、そらた。わたし、“ゆうしゃ”っぽくなれたかな?」

「うん。なっちゃんは、ちゃんと“ゆうしゃ”だったよ」
そらたは、にこっと笑った。

「それなら……そらたは、いちばんすごい“まほうつかい”だね」
「え?なんで?」

「だって、“まほう”って、見えないけど心をあったかくしてくれるものでしょ?そらたはずっと、そういう“まほう”をくれたから」
「……なっちゃんも、ぼくにとっての“まほう“だったけどね」

「えっ……、どういうこと!?」
「なんでもない」
「えー、それってどういうことなのー!」

ふたりは軽やかに笑い、星空が2人を見送るように夜道の先に続く明かりに向かって歩いていく。

「……やっぱり、そらたは私にとっての“まほうつかい”なんだね」

なつみはそらたの背中を見守り小さく笑いながら、空を見上げた。
星が、ぽつぽつと滲むように瞬いていた。

「お姉ちゃん、ただいま。わたし、帰ってきたよ。ちゃんと歩いて、ちゃんと笑って、ちゃんと向き合って……そらたと一緒に、ここまで来たよ」

ほんの一粒だけ、なつみの瞳からこぼれ落ちた雫は、星明かりの中で静かに光った。

「お姉ちゃんはもう居ないけど―――お姉ちゃんが遺してくれたしるしの意味に気がつけたよ」

風がそっと吹き抜けた。
星の光が、まるで返事をするようにきらめいた。

(わたしはもう、立ち止まらない。だって、“しるし”は、わたしの中にあるから)
(わたしは“ゆうしゃ”――誰かの想いを受けとって、歩き続けるひと)
(そして、隣には“まほうつかい”がいてくれる。見えない光を、そっと灯してくれる)

ひと夏の冒険のなかで、なつみは“ゆうしゃ”になり、そらたは“まほうつかい”になった。

それは、誰かに与えられた肩書きじゃない。
ふたりが、ふたりらしく過ごした時間の中で、
そっと心に宿った“なまえ”だった。

強さとは、ひとりで戦うことじゃない。
優しさとは、そっと手を差し伸べること。

ふたりは、それぞれのしるしを胸に、
次の物語へと歩きはじめた——。


そして、それはもう――
「ゆうしゃの夏、まほうつかいの空」の終わりであり、
まだまだ続くふたりの物語の“はじまり”でもありました。

-完-
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