ゆうしゃの夏、まほうつかいの空

えんびあゆ

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番外編:『まほうの手紙、ゆうしゃへの道しるべ ―結城ほのか、3年前の物語―』

第9話 しるしを描く手と思い出の足跡[4]

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その日、ほのかとひよりは、学校の帰り道に静かな公園へと足を向けていた。
ふたりの歩くペースは自然とゆっくりで、まるでこれから訪れる時間を噛みしめるかのようだった。

夕暮れどきの空は、淡く朱色に染まりはじめており、公園の木々は長い影を落としていた。
風に揺れる葉の音だけが、静けさの中でやさしく響いていた。

公園の奥にある、野外ステージ。
木造の簡易なつくりで、観客席といえるほどのものはないけれど、小さな舞台は、今も変わらずそこにあった。

「ここ、まだ変わってないんだね……」

ほのかが立ち止まり、懐かしさと少しの切なさを滲ませて呟いた。

木製のステージは、ところどころ塗装が剥げ、ところどころに苔が生えていた。それでも、幼い頃の記憶の中とほとんど変わらない。朽ちかけた手すり、カタカタと鳴る床板、そして、優しい声が響いたあの場所。

「ここでね、わたし、朗読したの。お母さんが読んでくれた詩集を覚えて、なつみに聞かせたくて……」
「覚えてる。わたし、拍手したよね。なっちゃん、すごく嬉しそうにしてた」

ほのかは微笑みながら、ステージに足を踏み入れる。
踏み出す一歩一歩が、過去と現在を繋げていくようだった。

「声って、不思議だよね」
「ふしぎ?」
ひよりが少し首を傾げる。

「うん。声って、聞こえたその瞬間は消えちゃうのに、ずっと心に残るの。詩も、童話も、歌も……なつみ、ここで膝の上に乗って、すごく静かに聞いてくれたの。あのときの気持ち、きっとどこかに残ってるって信じてる」

それは、ほのかの願いでもあった。
これから先、自分の声が届かなくなったとしても、心のどこかで響いてくれているなら——それで十分だと思えた。

「だから……ここに、声のしるしを残したいの」

ほのかは、バッグの中から小さな紙片を取り出した。
やわらかなクリーム色の便箋。折りたたまれたその紙には、ペンで丁寧に綴られた言葉があった。

──たとえ声が聞こえなくても、心にはいつも“声”があるよ。

その一文は、何度も書き直した末にたどり着いた、たったひとことだった。

「いい言葉だね……」

ひよりは、そっと呟いた。
ふたりは一緒にステージの裏へとまわり、板の隙間を見つける。
誰にも見つからないように、そっと、そっと滑り込ませた。

風がふと吹き抜け、葉がさらさらと揺れた。
その音の向こうに、確かに小さな声が聞こえた気がした。

それは、未来のなつみに届く“まほう”のようなささやきだった。
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