41 / 68
番外編:『まほうの手紙、ゆうしゃへの道しるべ ―結城ほのか、3年前の物語―』
第12話 ゆうしゃへの手紙と未来へのまほう[2]
しおりを挟む
それは、秋のはじまりを告げる風が、ゆっくりと街を撫でていった午後だった。
風の音がほんの少し冷たくなり、日差しはやわらかく、窓辺に吊された風鈴が、ちりりと短く鳴った。
結城ほのかは、ひよりに支えられながら、ゆっくりと校舎の階段をのぼっていた。
久しぶりの登校だった。身体が重い。肺の奥がきゅっと締めつけられるように痛む。
けれど、それでも、今日だけはどうしても来たかった。
「大丈夫? 無理してない?」
ひよりが小さな声で尋ねると、ほのかはかすかに微笑み、首を横に振った。
「うん……少しだけ、頑張らせて」
そんな会話を交わしながら、ふたりは図書室の扉をそっと開いた。
中は静かだった。昼休みの名残が、空気にやわらかく残っている。
そのとき——。
「あ……」
書架のあいだから、小柄な男の子が顔を出した。
瀬川そらた。図書委員で、物静かで本好きな少年。
ひとりで整理をしていたのだろう。
慌てて立ち上がると、ほのかに向かって小さく頭を下げた。
「こんにちは」
ほのかは優しく微笑んだ。
「あの時は……ありがとう。あの本、妹がすごく喜んで読んでたよ」
そらたは少し照れくさそうに、頷いた。
「あの本……“しずかな森のともだち”ですよね」
「そう。なつみ、表紙のリスのぬいぐるみを見て、ずっと抱きしめながら読んでた」
「うれしいな。……僕も、小さいころ好きでした」
ほのかはバッグから、もう一冊の薄い文庫本を取り出した。
そのページの真ん中あたりに、小さく折りたたまれた紙をそっと挟む。
「この本、私も大好きだったの。……あの子も、きっと読むと思うから」
そらたは不思議そうな顔をしたが、すぐに目を伏せてその手元を見つめた。
その意味までは、まだ理解できていない。
だけど、ほのかはあえて何も説明せず、そらたにその本を手渡した。
「お願い。……もし、見かけたら、そっと棚の端っこにでも置いておいてくれる?」
「……うん、わかった」
真剣な表情でそらたは頷いた。
ほのかは、静かに図書室を見まわした。
この場所で過ごした時間。大切な人たちと交わした言葉。
そして、未来へと託す小さな希望——。
手紙には、こう綴られていた。
なつみへ
もしこれを見つけたら、“しるし”をさがして。
わたしからの、“たからもの”です。
ゆうしゃになれる道しるべ。
その先で、「ただいま」って言えたら、
わたしはきっと「おかえり」って言える気がするから。
声はない。けれど、そこには確かに“声”が宿っていた。
伝えたかったことすべてが、そのやわらかな文字に込められていた。
風の音がほんの少し冷たくなり、日差しはやわらかく、窓辺に吊された風鈴が、ちりりと短く鳴った。
結城ほのかは、ひよりに支えられながら、ゆっくりと校舎の階段をのぼっていた。
久しぶりの登校だった。身体が重い。肺の奥がきゅっと締めつけられるように痛む。
けれど、それでも、今日だけはどうしても来たかった。
「大丈夫? 無理してない?」
ひよりが小さな声で尋ねると、ほのかはかすかに微笑み、首を横に振った。
「うん……少しだけ、頑張らせて」
そんな会話を交わしながら、ふたりは図書室の扉をそっと開いた。
中は静かだった。昼休みの名残が、空気にやわらかく残っている。
そのとき——。
「あ……」
書架のあいだから、小柄な男の子が顔を出した。
瀬川そらた。図書委員で、物静かで本好きな少年。
ひとりで整理をしていたのだろう。
慌てて立ち上がると、ほのかに向かって小さく頭を下げた。
「こんにちは」
ほのかは優しく微笑んだ。
「あの時は……ありがとう。あの本、妹がすごく喜んで読んでたよ」
そらたは少し照れくさそうに、頷いた。
「あの本……“しずかな森のともだち”ですよね」
「そう。なつみ、表紙のリスのぬいぐるみを見て、ずっと抱きしめながら読んでた」
「うれしいな。……僕も、小さいころ好きでした」
ほのかはバッグから、もう一冊の薄い文庫本を取り出した。
そのページの真ん中あたりに、小さく折りたたまれた紙をそっと挟む。
「この本、私も大好きだったの。……あの子も、きっと読むと思うから」
そらたは不思議そうな顔をしたが、すぐに目を伏せてその手元を見つめた。
その意味までは、まだ理解できていない。
だけど、ほのかはあえて何も説明せず、そらたにその本を手渡した。
「お願い。……もし、見かけたら、そっと棚の端っこにでも置いておいてくれる?」
「……うん、わかった」
真剣な表情でそらたは頷いた。
ほのかは、静かに図書室を見まわした。
この場所で過ごした時間。大切な人たちと交わした言葉。
そして、未来へと託す小さな希望——。
手紙には、こう綴られていた。
なつみへ
もしこれを見つけたら、“しるし”をさがして。
わたしからの、“たからもの”です。
ゆうしゃになれる道しるべ。
その先で、「ただいま」って言えたら、
わたしはきっと「おかえり」って言える気がするから。
声はない。けれど、そこには確かに“声”が宿っていた。
伝えたかったことすべてが、そのやわらかな文字に込められていた。
0
あなたにおすすめの小説
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
Marry Me?
美凪ましろ
恋愛
――あの日、王子様があたしの目の前に現れた。
仕事が忙しいアパレル店員の彼女と、王子系美青年の恋物語。
不定期更新。たぶん、全年齢でいけるはず。
※ダイレクトな性描写はありませんが、ややそっち系のトークをする場面があります。
※彼の過去だけ、ダークな描写があります。
■画像は、イトノコさまの作品です。
https://www.pixiv.net/artworks/85809405
ネットワーカーな私は異世界でも不労所得で生きたい 悪役令嬢として婚約破棄を狙ったら、王家全員に謙虚な聖女と勘違いされて外堀を埋められました
来栖とむ
ファンタジー
「私の目標は、十七歳での完全リタイア。――それ以外はすべて『ノイズ』ですわ」
ブラックIT企業のネットワークエンジニア兼、ガチ投資家だった前世を持つ公爵令嬢リゼット。 彼女が転生したのは、十七歳の誕生日に「断罪」が待ち受ける乙女ゲームの世界だった。
「婚約破棄? 結構です。むしろ退職金(慰謝料)をいただけます?」
死を回避し、優雅な不労所得生活(FIRE)を手に入れるため、リゼットは前世の知識をフル稼働させる。
魔法を「論理回路」としてハックし、物理法則をデバッグ。
投資理論で王国の経済を掌握し、政治的リスクを徹底的にヘッジ。
……はずだったのに。 面倒を避けるために効率化した魔法は「神業」と称えられ、 資産を守るために回避した戦争は「救国の奇跡」と呼ばれ、 気づけば「沈黙の賢者」として全国民から崇拝されるハメに!?
さらには、攻略対象の王子からは「重すぎる信仰」を向けられ、 ライバルのはずのヒロインは「狂信的な弟子」へとジョブチェンジ。
世界という名のバックエンドをデバッグした結果、リゼットは「世界の管理者(創造主代行)」として、永遠のメンテナンス業務に強制就職(王妃確定)させられそうになっていて――!?
「勘弁して。私の有給休暇(隠居生活)はどこにあるのよ!!」
投資家令嬢リゼットによる、勘違いと爆速の隠居(できない)生活、ここに開幕!
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
Bravissima!
葉月 まい
恋愛
トラウマに悩む天才ピアニストと
俺様キャラの御曹司 かつ若きコンサートマスター
過去を乗り越え 互いに寄り添い
いつしか最高のパートナーとなる
『Bravissima!俺の女神』
゚・*:.。♡。.:*・゜゚・*:.。♡。.:*・゜
過去のトラウマから舞台に立つのが怖い芽衣は如月フィルのコンマス、聖の伴奏ピアニストを務めることに。
互いの音に寄り添い、支え合い、いつしか芽衣は過去を乗り超えていく。
✧♫•・*¨*•.♡。.:登場人物:.。♡.•*¨*・•♫✧
木村 芽衣(22歳) …音大ピアノ科4年生
如月 聖(27歳) …ヴァイオリニスト・如月フィルコンサートマスター
高瀬 公平(27歳) …如月フィル事務局長
ソツのない彼氏とスキのない彼女
吉野 那生
恋愛
特別目立つ訳ではない。
どちらかといえば地味だし、バリキャリという風でもない。
だけど…何故か気になってしまう。
気がつくと、彼女の姿を目で追っている。
***
社内でも知らない者はいないという程、有名な彼。
爽やかな見た目、人懐っこく相手の懐にスルリと入り込む手腕。
そして、華やかな噂。
あまり得意なタイプではない。
どちらかといえば敬遠するタイプなのに…。
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~
伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華
結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空
幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。
割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。
思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。
二人の結婚生活は一体どうなる?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる