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番外編:『まほうの手紙、ゆうしゃへの道しるべ ―結城ほのか、3年前の物語―』
第13話 ゆうしゃへの手紙と未来へのまほう[3]
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その夜、ほのかの部屋には、やさしいぬくもりが満ちていた。
カーテンの隙間から差し込む街灯の光が、ベッドのシーツをうっすら照らしている。
窓のそばには、毎年夏のはじめに父と飾った風鈴が、微かに揺れていた。
チリン――と鳴ったその音は、まるで夏の終わりを惜しむようだった。
「ねぇ、お姉ちゃん……いっしょにねよ?」
ドアの向こうから、小さな声がした。
間もなく、なつみがぴょこんと顔を出し、両手にお気に入りのぬいぐるみを抱えていた。
その目はどこまでも無邪気で、ほのかを見るたびにぱぁっと笑顔を咲かせる。
「今日はお休み?」
「うん。……なつみが寝るまで、となりにいるね」
「ほんと? やったあ!」
なつみは走ってベッドに飛び込むと、ほのかの腕にしがみつき、頬をすり寄せてきた。
ほのかの腕の中で甘えるなつみは、子犬のように愛らしく、温かくて、ただただ眩しかった。
まるで、この小さな手の中に、夏の最後の輝きが宿っているようだった。
ほのかはその細い背中をそっと撫でた。
その手つきは、まるで記憶をなぞるように、やさしくて丁寧だった。
「ねぇ、お姉ちゃん……“ゆうしゃごっこ”しよ!」
「えっ、いま? もう寝る時間でしょ」
「でもね、今日の夢できっと“モンスター”出てくるの。だから、いまのうちに作戦立てないと!」
なつみはベッドの上に正座して、真剣な顔をして言った。
その瞳はきらきらと輝いていて、今にも何かを倒しに行きそうな勢いだった。
「じゃあ……わたし、ボスでいい?」
「いいよ! お姉ちゃんは“ラスボス”ね! つよいよ!」
「ええっ、わたし負けちゃうの?」
「だいじょうぶ。……ほんとは味方なんでしょ?」
なつみのその一言に、ほのかの胸がじんわりと熱くなった。
——そうだよ、なつみ。
わたしは、いつだって味方。
あなたがひとりぼっちにならないように、いつだってそばで見守っていたい。
「うん。ずっと味方だよ。なつみを、ひとりにしない。
……たとえ、会えなくなっても、心の中でずっと、そばにいるから」
「うん!」
なつみはぎゅっとほのかの手を握った。
その小さな手のぬくもりが、ほのかの胸に静かに染み込んでいく。
ふたりは横になりながら、天井を見上げていた。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なに?」
「お姉ちゃんがいちばん好きなのって、なつみでしょ?」
「ふふ……うん、そうかも」
「わたしね、大きくなったら、お姉ちゃんみたいになりたいの」
「どうして?」
「だって、お姉ちゃんは、やさしくて、すてきで……いつも、わたしのこと、まもってくれるんだもん」
——そんな風に思ってくれて、ありがとう。
でも、なつみにはなつみの“強さ”がある。
きっと、いつか、あなたはあなたの光で未来を照らす人になる。
ほのかは、なつみの額にそっと手を当てた。
「なつみはね、もう“ゆうしゃ”になってるんだよ」
「ほんと?」
「ほんと。だって、こんなに誰かのことを想えるんだもん」
なつみは照れくさそうに笑いながら、またほのかの腕の中に潜り込んだ。
「ねえ、お姉ちゃん、なつみが“ゆうしゃ”なら、お姉ちゃんはなに?」
「わたし? んー……じゃあ、“まほうつかい”かな」
「まほうつかい?」
「うん。ゆうしゃをそっと支える、“まほうつかい”」
「……それ、すてき」
「でしょ?」
「うん……。じゃあ、ずっとそばにいてね、まほうつかいさん」
「もちろんだよ」
しばらくして、なつみの寝息が聞こえてくる。
その呼吸のひとつひとつが、ほのかの心を落ち着かせていった。
(どうかこの子が、これからも笑っていられますように)
(わたしがいなくなっても、まっすぐ、前を向いて生きていけますように)
ほのかは、なつみの髪をやさしく撫でながら、心の中でそっと祈った。
「おやすみ、なつみ」
「……ん……おやすみ、お姉ちゃん……」
その声が、ふたりの間にふわりと浮かび、やがて静かに溶けていった。
それが、ふたりにとって“最後の夜”になるとは、なつみはまだ知らなかった。
カーテンの隙間から差し込む街灯の光が、ベッドのシーツをうっすら照らしている。
窓のそばには、毎年夏のはじめに父と飾った風鈴が、微かに揺れていた。
チリン――と鳴ったその音は、まるで夏の終わりを惜しむようだった。
「ねぇ、お姉ちゃん……いっしょにねよ?」
ドアの向こうから、小さな声がした。
間もなく、なつみがぴょこんと顔を出し、両手にお気に入りのぬいぐるみを抱えていた。
その目はどこまでも無邪気で、ほのかを見るたびにぱぁっと笑顔を咲かせる。
「今日はお休み?」
「うん。……なつみが寝るまで、となりにいるね」
「ほんと? やったあ!」
なつみは走ってベッドに飛び込むと、ほのかの腕にしがみつき、頬をすり寄せてきた。
ほのかの腕の中で甘えるなつみは、子犬のように愛らしく、温かくて、ただただ眩しかった。
まるで、この小さな手の中に、夏の最後の輝きが宿っているようだった。
ほのかはその細い背中をそっと撫でた。
その手つきは、まるで記憶をなぞるように、やさしくて丁寧だった。
「ねぇ、お姉ちゃん……“ゆうしゃごっこ”しよ!」
「えっ、いま? もう寝る時間でしょ」
「でもね、今日の夢できっと“モンスター”出てくるの。だから、いまのうちに作戦立てないと!」
なつみはベッドの上に正座して、真剣な顔をして言った。
その瞳はきらきらと輝いていて、今にも何かを倒しに行きそうな勢いだった。
「じゃあ……わたし、ボスでいい?」
「いいよ! お姉ちゃんは“ラスボス”ね! つよいよ!」
「ええっ、わたし負けちゃうの?」
「だいじょうぶ。……ほんとは味方なんでしょ?」
なつみのその一言に、ほのかの胸がじんわりと熱くなった。
——そうだよ、なつみ。
わたしは、いつだって味方。
あなたがひとりぼっちにならないように、いつだってそばで見守っていたい。
「うん。ずっと味方だよ。なつみを、ひとりにしない。
……たとえ、会えなくなっても、心の中でずっと、そばにいるから」
「うん!」
なつみはぎゅっとほのかの手を握った。
その小さな手のぬくもりが、ほのかの胸に静かに染み込んでいく。
ふたりは横になりながら、天井を見上げていた。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なに?」
「お姉ちゃんがいちばん好きなのって、なつみでしょ?」
「ふふ……うん、そうかも」
「わたしね、大きくなったら、お姉ちゃんみたいになりたいの」
「どうして?」
「だって、お姉ちゃんは、やさしくて、すてきで……いつも、わたしのこと、まもってくれるんだもん」
——そんな風に思ってくれて、ありがとう。
でも、なつみにはなつみの“強さ”がある。
きっと、いつか、あなたはあなたの光で未来を照らす人になる。
ほのかは、なつみの額にそっと手を当てた。
「なつみはね、もう“ゆうしゃ”になってるんだよ」
「ほんと?」
「ほんと。だって、こんなに誰かのことを想えるんだもん」
なつみは照れくさそうに笑いながら、またほのかの腕の中に潜り込んだ。
「ねえ、お姉ちゃん、なつみが“ゆうしゃ”なら、お姉ちゃんはなに?」
「わたし? んー……じゃあ、“まほうつかい”かな」
「まほうつかい?」
「うん。ゆうしゃをそっと支える、“まほうつかい”」
「……それ、すてき」
「でしょ?」
「うん……。じゃあ、ずっとそばにいてね、まほうつかいさん」
「もちろんだよ」
しばらくして、なつみの寝息が聞こえてくる。
その呼吸のひとつひとつが、ほのかの心を落ち着かせていった。
(どうかこの子が、これからも笑っていられますように)
(わたしがいなくなっても、まっすぐ、前を向いて生きていけますように)
ほのかは、なつみの髪をやさしく撫でながら、心の中でそっと祈った。
「おやすみ、なつみ」
「……ん……おやすみ、お姉ちゃん……」
その声が、ふたりの間にふわりと浮かび、やがて静かに溶けていった。
それが、ふたりにとって“最後の夜”になるとは、なつみはまだ知らなかった。
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