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完結編:『ゆうしゃの誓い、まほうつかいの旅立ち -さよならの向こうにあるもの-』
第5話 ずっと一緒に冒険を[5]
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しばらくふたりは、言葉もなく黙って立ち尽くしていた。
公園の向こうからは、小学生のはしゃぐ声が風に乗って聞こえてくる。
「鬼ごっこしよう!」「もういーかい?」そんな元気な叫びが耳に届いても、
なつみにはそれが遠くの知らない国の出来事のように思えて、まるで自分の世界とは別の場所で起きていることのように感じられた。
ふたりの間を春の風が静かに通り抜けていく。
桜の花びらが舞い降りて、カバンや足元にそっと積もっていく。
さっきまで並んで歩いていたそらたの手のぬくもりが、今はもう少しずつ消えていくような気がして、なつみはどうしようもなく心細かった。
――この日々が、永遠に続くものだと思っていたのに。
いつもなら、何でもない午後のひとときがこんなに愛おしいものだと、
別れの瞬間がこんなに苦しいものだと、思いもしなかった。
明日も、来週も、いつまでもそらたがそばにいる気がしていた。
なのに、もうこの時間は戻ってこない。
「……ずっと、ずっと一緒にいたかったのに……」
なつみは涙がこぼれるのを止められなかった。
何度も袖でぬぐうけれど、ぽろぽろと零れ落ちてしまう。
やっとの思いで絞り出すように、かすれた声で言葉にする。
そらたはなつみの手を、もう一度だけ、強くぎゅっと握った。
その手の中には、これまでの冒険の日々も、ふたりだけの見えない“しるし”も、全部が詰まっているようだった。
「どこにいても、なつみのこと、ずっとゆうしゃだって思ってるよ」
そらたはゆっくり、でもしっかりとそう言った。
その目は、やさしくまっすぐな光でなつみを見つめていた。
「ぼくも、なつみの隣で、ずっとまほうつかいでいたかった」
少しだけ声が震えたけれど、その分だけ本当の気持ちが伝わってきた。
「……ありがとう、そらた」
なつみは、泣きながら、それでもほんの少しだけ笑顔を浮かべた。
涙の奥に、そらたと過ごした日々や、ほのかと過ごした季節がよみがえってくる。
空は変わらず穏やかで、春の雲がゆっくりと流れている。
でも、ふたりの心には新しい季節がまだ訪れないままだった。
名残惜しさと、でもどこかあたたかな思い出の残像だけが、しずかに満ちていた。
やがて、夕暮れが近づくと、なつみとそらたは別れ際の坂道に立った。
そらたの家へと続く道と、なつみの家へと続く道――
今日だけは、まるで世界がふたりのために用意された交差点みたいに思えた。
「……またね」
なつみは、声にならないほど小さな声でそう言った。
そらたも「またね」と返してくれる。
ふたりは、そっと手を振り合った。
指先の先に、ささやかな魔法がきらめいた気がした。
そらたはゆっくりと歩き出し、時折振り返る。
なつみは何度も何度も、その背中を見送った。
坂道の途中で何度も立ち止まり、振り返って手を振ってくれるそらたの姿は、これまでと変わらないけれど、どこか遠く離れていくようにも見えた。
(もうすぐお別れなんだ――)
なつみは胸がきゅっと痛くなる。
けれど、その痛みと同じくらいあたたかなものが、胸の奥に灯り続けていることにも気づく。
坂道の下からは、桜の蕾がほころぶ音が、風にまぎれて聞こえてくるようだった。
新しい季節が、確かに近づいている。
――大切な人が離れてしまう。
その現実を、なつみは初めて強く、痛いほど実感した。
でも、ふたりの心は、きっとずっとつながっている。
それは「どこにいても、心はつながっている」という、ほのかが教えてくれた――
ふたりが分かち合った小さな魔法だった。
その魔法の灯りを胸に、なつみはゆっくりと、前を向いて歩き出すのだった。
公園の向こうからは、小学生のはしゃぐ声が風に乗って聞こえてくる。
「鬼ごっこしよう!」「もういーかい?」そんな元気な叫びが耳に届いても、
なつみにはそれが遠くの知らない国の出来事のように思えて、まるで自分の世界とは別の場所で起きていることのように感じられた。
ふたりの間を春の風が静かに通り抜けていく。
桜の花びらが舞い降りて、カバンや足元にそっと積もっていく。
さっきまで並んで歩いていたそらたの手のぬくもりが、今はもう少しずつ消えていくような気がして、なつみはどうしようもなく心細かった。
――この日々が、永遠に続くものだと思っていたのに。
いつもなら、何でもない午後のひとときがこんなに愛おしいものだと、
別れの瞬間がこんなに苦しいものだと、思いもしなかった。
明日も、来週も、いつまでもそらたがそばにいる気がしていた。
なのに、もうこの時間は戻ってこない。
「……ずっと、ずっと一緒にいたかったのに……」
なつみは涙がこぼれるのを止められなかった。
何度も袖でぬぐうけれど、ぽろぽろと零れ落ちてしまう。
やっとの思いで絞り出すように、かすれた声で言葉にする。
そらたはなつみの手を、もう一度だけ、強くぎゅっと握った。
その手の中には、これまでの冒険の日々も、ふたりだけの見えない“しるし”も、全部が詰まっているようだった。
「どこにいても、なつみのこと、ずっとゆうしゃだって思ってるよ」
そらたはゆっくり、でもしっかりとそう言った。
その目は、やさしくまっすぐな光でなつみを見つめていた。
「ぼくも、なつみの隣で、ずっとまほうつかいでいたかった」
少しだけ声が震えたけれど、その分だけ本当の気持ちが伝わってきた。
「……ありがとう、そらた」
なつみは、泣きながら、それでもほんの少しだけ笑顔を浮かべた。
涙の奥に、そらたと過ごした日々や、ほのかと過ごした季節がよみがえってくる。
空は変わらず穏やかで、春の雲がゆっくりと流れている。
でも、ふたりの心には新しい季節がまだ訪れないままだった。
名残惜しさと、でもどこかあたたかな思い出の残像だけが、しずかに満ちていた。
やがて、夕暮れが近づくと、なつみとそらたは別れ際の坂道に立った。
そらたの家へと続く道と、なつみの家へと続く道――
今日だけは、まるで世界がふたりのために用意された交差点みたいに思えた。
「……またね」
なつみは、声にならないほど小さな声でそう言った。
そらたも「またね」と返してくれる。
ふたりは、そっと手を振り合った。
指先の先に、ささやかな魔法がきらめいた気がした。
そらたはゆっくりと歩き出し、時折振り返る。
なつみは何度も何度も、その背中を見送った。
坂道の途中で何度も立ち止まり、振り返って手を振ってくれるそらたの姿は、これまでと変わらないけれど、どこか遠く離れていくようにも見えた。
(もうすぐお別れなんだ――)
なつみは胸がきゅっと痛くなる。
けれど、その痛みと同じくらいあたたかなものが、胸の奥に灯り続けていることにも気づく。
坂道の下からは、桜の蕾がほころぶ音が、風にまぎれて聞こえてくるようだった。
新しい季節が、確かに近づいている。
――大切な人が離れてしまう。
その現実を、なつみは初めて強く、痛いほど実感した。
でも、ふたりの心は、きっとずっとつながっている。
それは「どこにいても、心はつながっている」という、ほのかが教えてくれた――
ふたりが分かち合った小さな魔法だった。
その魔法の灯りを胸に、なつみはゆっくりと、前を向いて歩き出すのだった。
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