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完結編:『ゆうしゃの誓い、まほうつかいの旅立ち -さよならの向こうにあるもの-』
第13話 ゆうしゃとまほうつかい最後の冒険[3]
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図書館に着くと、春の陽射しが大きな窓から差し込んでいた。
午前の光は天井の高いガラス窓から、床にやさしく模様を描く。
誰もいない朝の児童コーナーには、静かな空気が漂っている。
なつみとそらたは、まるで時間が戻ったかのような感覚で、並んで中へと足を踏み入れた。
「やっぱり、ここに来るとあの夏を思い出すね」
なつみが小さな声で言うと、そらたはゆっくりとうなずいた。
「うん……。全部、変わってないみたいだ」
地図とヒントを頼りに、ふたりは本棚の影、明るい児童書コーナー、懐かしいテーブル――
かつて冒険した場所を一つずつ巡っていく。
最初はどこかぎこちなくて、歩く速度もゆっくりだった。
でも、ふたりで寄り添って歩くうち、少しずつ緊張がほどけていく。
「なっちゃん、覚えてる? この机、昔ふたりで地図を描いたよね」
そらたがぽつりと言った。
なつみは机の木目を指でなぞる。
「うん、あのとき、そらたの字が下手くそで……。いっぱい消しゴムのカス出てたもん」
そらたは小さく肩をすくめて、
「えっ、ひどいなあ。ぼく、あの頃は今より手が小さかったし……」
と言い訳めいたことを呟く。
くすっと笑い合い、二人の距離がまた少し近づく。
「でも、この机も、椅子も、なんにも変わってないよね」
「うん、たぶん十年前からこうなんじゃないかな……」
「そらたは覚えてる? この机の下に、私たちで“しるし”を貼ったこと」
「……もちろん。まだあるかな」
ふたりは思わず机の下を覗き込む。
古いテープの跡が薄く残っていた。
(もしかしたら、そのときから“しるし”を残すことが、私たちふたりの冒険の始まりだったのかもしれない)
次にふたりは児童書コーナーへ向かう。
棚には、あの夏に何度もページをめくった冒険小説や図鑑が並んでいる。
ふと、そらたが手に取ったのは、なつみが五年生のとき好きだった冒険ものの本。
「なっちゃん、これ今でも好き?」
「うん、たまに読み返すよ」
そらたは笑いながら、そっとその本のページをめくる。
何気ないしぐさのなかに、どこか慎重さと、隠しごとの気配がある。
「……このあたりかな」
そらたが急にきょろきょろし始める。
なつみは不思議に思いながら、そらたの後ろ姿を追いかけた。
棚と棚の間――
窓からの陽射しがちょうど斜めに差し込んできて、影が長く伸びていた。
「“ひかりと かげが まざるとき”って、この感じなのかな」
なつみが呟くと、そらたは「うん」とうなずいた。
その声は少しだけかすれている。
ふたりはヒントに従って「ページの奥」を探し始める。
本を何冊も抜き差しし、背表紙に手を触れる。
なつみが手を伸ばすたび、そらたは緊張したように彼女の動きを見守っていた。
本棚の奥の暗がり、手を差し込んでいくうちに、なつみの指先が何か固いものに触れた。
「……ん? これ……」
そらたはすぐに駆け寄り、「なつみ、そこだよ」と声をかける。
その言葉には、ほんの少し“準備していた”ような響きがあった。
棚の奥には、小さな封筒がはさまっていた。
封筒の色は新しく、テープの貼り方も妙にきれいだ。
(あれ、お姉ちゃんのときは、もっと古びていたような……)
それを見つけた瞬間、なつみの胸は高鳴った。
(お姉ちゃん……?)
そらたは少しだけ緊張した表情をしている。
(……なんだろう、そらた、こんな顔、前にも見たことがある気がする)
でも、その違和感はふんわりと心の奥に沈んでいった。
「開けてみて」
そらたに促されて、なつみは震える指で封筒を開けた。
中には短い手紙と、小さなペンダントが入っていた。
手紙には、こう書かれている。
『なつみへ
冒険を終えるその日も、あなたはきっと勇者のまま。
だいじょうぶ、となりにいてくれる人がいれば、どこまでも進めるから』
それは、なつみが何度も読み返した、ほのかの筆跡によく似た文字だった。
けれど、よく見ると、どこか既視感があった。
午前の光は天井の高いガラス窓から、床にやさしく模様を描く。
誰もいない朝の児童コーナーには、静かな空気が漂っている。
なつみとそらたは、まるで時間が戻ったかのような感覚で、並んで中へと足を踏み入れた。
「やっぱり、ここに来るとあの夏を思い出すね」
なつみが小さな声で言うと、そらたはゆっくりとうなずいた。
「うん……。全部、変わってないみたいだ」
地図とヒントを頼りに、ふたりは本棚の影、明るい児童書コーナー、懐かしいテーブル――
かつて冒険した場所を一つずつ巡っていく。
最初はどこかぎこちなくて、歩く速度もゆっくりだった。
でも、ふたりで寄り添って歩くうち、少しずつ緊張がほどけていく。
「なっちゃん、覚えてる? この机、昔ふたりで地図を描いたよね」
そらたがぽつりと言った。
なつみは机の木目を指でなぞる。
「うん、あのとき、そらたの字が下手くそで……。いっぱい消しゴムのカス出てたもん」
そらたは小さく肩をすくめて、
「えっ、ひどいなあ。ぼく、あの頃は今より手が小さかったし……」
と言い訳めいたことを呟く。
くすっと笑い合い、二人の距離がまた少し近づく。
「でも、この机も、椅子も、なんにも変わってないよね」
「うん、たぶん十年前からこうなんじゃないかな……」
「そらたは覚えてる? この机の下に、私たちで“しるし”を貼ったこと」
「……もちろん。まだあるかな」
ふたりは思わず机の下を覗き込む。
古いテープの跡が薄く残っていた。
(もしかしたら、そのときから“しるし”を残すことが、私たちふたりの冒険の始まりだったのかもしれない)
次にふたりは児童書コーナーへ向かう。
棚には、あの夏に何度もページをめくった冒険小説や図鑑が並んでいる。
ふと、そらたが手に取ったのは、なつみが五年生のとき好きだった冒険ものの本。
「なっちゃん、これ今でも好き?」
「うん、たまに読み返すよ」
そらたは笑いながら、そっとその本のページをめくる。
何気ないしぐさのなかに、どこか慎重さと、隠しごとの気配がある。
「……このあたりかな」
そらたが急にきょろきょろし始める。
なつみは不思議に思いながら、そらたの後ろ姿を追いかけた。
棚と棚の間――
窓からの陽射しがちょうど斜めに差し込んできて、影が長く伸びていた。
「“ひかりと かげが まざるとき”って、この感じなのかな」
なつみが呟くと、そらたは「うん」とうなずいた。
その声は少しだけかすれている。
ふたりはヒントに従って「ページの奥」を探し始める。
本を何冊も抜き差しし、背表紙に手を触れる。
なつみが手を伸ばすたび、そらたは緊張したように彼女の動きを見守っていた。
本棚の奥の暗がり、手を差し込んでいくうちに、なつみの指先が何か固いものに触れた。
「……ん? これ……」
そらたはすぐに駆け寄り、「なつみ、そこだよ」と声をかける。
その言葉には、ほんの少し“準備していた”ような響きがあった。
棚の奥には、小さな封筒がはさまっていた。
封筒の色は新しく、テープの貼り方も妙にきれいだ。
(あれ、お姉ちゃんのときは、もっと古びていたような……)
それを見つけた瞬間、なつみの胸は高鳴った。
(お姉ちゃん……?)
そらたは少しだけ緊張した表情をしている。
(……なんだろう、そらた、こんな顔、前にも見たことがある気がする)
でも、その違和感はふんわりと心の奥に沈んでいった。
「開けてみて」
そらたに促されて、なつみは震える指で封筒を開けた。
中には短い手紙と、小さなペンダントが入っていた。
手紙には、こう書かれている。
『なつみへ
冒険を終えるその日も、あなたはきっと勇者のまま。
だいじょうぶ、となりにいてくれる人がいれば、どこまでも進めるから』
それは、なつみが何度も読み返した、ほのかの筆跡によく似た文字だった。
けれど、よく見ると、どこか既視感があった。
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