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完結編:『ゆうしゃの誓い、まほうつかいの旅立ち -さよならの向こうにあるもの-』
第16話 ゆうしゃとまほうつかい最後の冒険[6]
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図書館の庭へと歩き出す。
春の光の中で、なつみとそらたは静かに歩きながら、これまでの「ふたりの思い出」をひとつずつ心に浮かべていた。
最初の大きな冒険は、あの図書館の夏だった。なつみは本当は全然自信がなかった。
勇者になろうと決意したものの、胸の奥では「できるかな」「失敗したらどうしよう」と不安ばかりが大きくて、勇気の出し方すら分からなかった。
でも、その隣にいたそらたは、ただ「だいじょうぶ」と微笑んでくれた。その声が不思議な魔法みたいに感じられて、なつみは一歩を踏み出すことができた。
「そらたが、まほうつかいでいてくれたから、私は勇者でいられたんだと思う」
そうつぶやいたなつみの声には、あの夏の日の記憶が滲んでいる。
そらたもまた、なつみの勇気に幾度も救われてきたと感じていた。
彼自身、勇者にはなれないと思い込んでいた。
けれど、「まほうつかい」として、なつみの隣に立ち続けることだけは譲れなかった。
幼い頃、なつみが新聞紙の剣で「まおうたいじ」をしていたとき、そらたは木の枝を杖に見立て、ふたりだけの小さな冒険を繰り返した。
それが、今に続く「ふたりの役割」のはじまりだった。
ふたりの冒険の中には、たくさんの大切な場所と「しるし」があった。
図書館の旧館に隠された姉のノート。
幼い頃、丘の上で空を見上げて過ごした時間。
夕暮れの広場で回転遊具の影を追いかけて走り回った記憶。
どのエピソードも、ふたりの心の中で「しるし」として残り続けている。
とくに忘れられないのは、秘密の地図をたどって「まわるかげ」「ひみつのそら」「こえのあるばしょ」など、ひとつひとつ“しるし”を探し当てていった日のこと。
なつみは姉との思い出に泣きそうになりながらも、そらたの魔法のような優しさに支えられて前を向くことができた。
「まほうって、きっとこういうことなんだと思う。誰かの気持ちを、そっと後押しできるのが、魔法使いなんじゃないかな」――そらたのその言葉は、なつみの勇気になった。
そして、“最後のしるし”が、じつはそらたが用意したものだったこと。
そらたは、なつみが本当に勇者として歩き出せるように、彼女の背中をそっと押す役目をずっと続けてきたのだ。
ふたりの間には、「ありがとう」という言葉だけでは言い表せないたくさんの感謝と信頼が積み重なっている。
「勇者って、きっとひとりじゃなれないんだね。わたし、そう思う」
なつみがそう言えば、そらたも静かに頷く。「ぼくも、まほうつかいって、そういうものかもって思いはじめてた」
ふたりの心は、春の光のなかで溶けあいながら、新しい冒険へと歩き出していく。
過去の見つけた“しるし”も、これから先の形の無い“しるし”も、ふたりで見つけていける――そんな予感が、確かに胸の奥で輝いていた。
(まほうつかいのそらたのおかげで、今のゆうしゃである私がいるんだ)
そう思った瞬間、
ふたりの間の気まずさや悲しみ、不安は春の光の中に溶けていった。
庭のベンチに腰掛け、ふたりはしばらく静かに空を見上げていた。
「もうすぐ、そらたは遠くに行っちゃうんだよね」
なつみが小さな声で言う。
そらたは、うなずいた。
「うん。でも……どこにいても、ぼくたちの冒険は終わらないよ」
「うん。私も、どんなに離れても、ずっと“まほうつかい”と“ゆうしゃ”でいられるって思う」
ふたりは、やがてそっと手を取り合った。
心の奥にあの日の夏と同じような高鳴りが、
今、再び湧き上がっていた。
「ありがとう、そらた」
「ありがとう、なつみ」
この瞬間、なつみもそらたも、
“冒険”の本当の意味を知った気がした。
「さよなら」じゃなくて、
「またね」。
そう言える未来を信じて、
ふたりはもう一度、春の光の中に歩き出した。
春の光の中で、なつみとそらたは静かに歩きながら、これまでの「ふたりの思い出」をひとつずつ心に浮かべていた。
最初の大きな冒険は、あの図書館の夏だった。なつみは本当は全然自信がなかった。
勇者になろうと決意したものの、胸の奥では「できるかな」「失敗したらどうしよう」と不安ばかりが大きくて、勇気の出し方すら分からなかった。
でも、その隣にいたそらたは、ただ「だいじょうぶ」と微笑んでくれた。その声が不思議な魔法みたいに感じられて、なつみは一歩を踏み出すことができた。
「そらたが、まほうつかいでいてくれたから、私は勇者でいられたんだと思う」
そうつぶやいたなつみの声には、あの夏の日の記憶が滲んでいる。
そらたもまた、なつみの勇気に幾度も救われてきたと感じていた。
彼自身、勇者にはなれないと思い込んでいた。
けれど、「まほうつかい」として、なつみの隣に立ち続けることだけは譲れなかった。
幼い頃、なつみが新聞紙の剣で「まおうたいじ」をしていたとき、そらたは木の枝を杖に見立て、ふたりだけの小さな冒険を繰り返した。
それが、今に続く「ふたりの役割」のはじまりだった。
ふたりの冒険の中には、たくさんの大切な場所と「しるし」があった。
図書館の旧館に隠された姉のノート。
幼い頃、丘の上で空を見上げて過ごした時間。
夕暮れの広場で回転遊具の影を追いかけて走り回った記憶。
どのエピソードも、ふたりの心の中で「しるし」として残り続けている。
とくに忘れられないのは、秘密の地図をたどって「まわるかげ」「ひみつのそら」「こえのあるばしょ」など、ひとつひとつ“しるし”を探し当てていった日のこと。
なつみは姉との思い出に泣きそうになりながらも、そらたの魔法のような優しさに支えられて前を向くことができた。
「まほうって、きっとこういうことなんだと思う。誰かの気持ちを、そっと後押しできるのが、魔法使いなんじゃないかな」――そらたのその言葉は、なつみの勇気になった。
そして、“最後のしるし”が、じつはそらたが用意したものだったこと。
そらたは、なつみが本当に勇者として歩き出せるように、彼女の背中をそっと押す役目をずっと続けてきたのだ。
ふたりの間には、「ありがとう」という言葉だけでは言い表せないたくさんの感謝と信頼が積み重なっている。
「勇者って、きっとひとりじゃなれないんだね。わたし、そう思う」
なつみがそう言えば、そらたも静かに頷く。「ぼくも、まほうつかいって、そういうものかもって思いはじめてた」
ふたりの心は、春の光のなかで溶けあいながら、新しい冒険へと歩き出していく。
過去の見つけた“しるし”も、これから先の形の無い“しるし”も、ふたりで見つけていける――そんな予感が、確かに胸の奥で輝いていた。
(まほうつかいのそらたのおかげで、今のゆうしゃである私がいるんだ)
そう思った瞬間、
ふたりの間の気まずさや悲しみ、不安は春の光の中に溶けていった。
庭のベンチに腰掛け、ふたりはしばらく静かに空を見上げていた。
「もうすぐ、そらたは遠くに行っちゃうんだよね」
なつみが小さな声で言う。
そらたは、うなずいた。
「うん。でも……どこにいても、ぼくたちの冒険は終わらないよ」
「うん。私も、どんなに離れても、ずっと“まほうつかい”と“ゆうしゃ”でいられるって思う」
ふたりは、やがてそっと手を取り合った。
心の奥にあの日の夏と同じような高鳴りが、
今、再び湧き上がっていた。
「ありがとう、そらた」
「ありがとう、なつみ」
この瞬間、なつみもそらたも、
“冒険”の本当の意味を知った気がした。
「さよなら」じゃなくて、
「またね」。
そう言える未来を信じて、
ふたりはもう一度、春の光の中に歩き出した。
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