ゆうしゃの夏、まほうつかいの空

えんびあゆ

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完結編:『ゆうしゃの誓い、まほうつかいの旅立ち -さよならの向こうにあるもの-』

第15話 ゆうしゃとまほうつかい最後の冒険[5]

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なつみの心の中には、驚きと同時に、ふしぎなあたたかさが静かに広がっていった。
そらたが自分のために用意してくれた“しるし”。
ほのかお姉ちゃんのものではなく、今この瞬間を生きている“まほうつかい”が、
”ゆうしゃ”の自分に向けて、心を込めて残してくれた“想い”。

なつみは、手のひらの上にそっと置いたペンダントをまじまじと見つめた。
細い銀色のチェーン。その先に下がっているのは、
小さな透明なガラス玉――春の光を受けて淡い青色にきらきらと輝くビーズ細工だ。
ガラス玉の中には、ごく細い糸で編まれた四つ葉のクローバーのモチーフがそっと入っている。
その外側は、そらたが自分で細いワイヤーを丸く曲げて作ったという小さな輪で支えられていた。
ガラス玉には、ほんのりと虹色の光が映りこむ。
なつみが指先でゆっくり転がすと、中のクローバーが光を集めて優しく輝いた。

ペンダントの留め具には、小さな星のチャームもついていた。
星の裏側には、そらたの手書きで「なつみへ」と極小の文字が刻まれている。
それは器用とは言えない、でもとても一生懸命に作られたことが伝わる、
世界にひとつだけの“しるし”だった。

なつみは、ふいに、いつもそらたがそばにいてくれたことを思い出していた。

――図書館での最初の冒険。
なつみが勇気を出せずに本棚の影でうつむいていた時、
「何か、困ってることとか……ある?」と話しかけてくれたやさしい声。
そらたは自分のことを“まほうつかい”だと名乗って、
なつみの冒険についてきてくれた。

――ふたりで「ゆうしゃのしるし」を探しに行った日。
「なつみが“ゆうしゃ”なら、ぼくは“まほうつかい”だね」
といたずらっぽく笑ってくれた顔。
図書館の奥でひそひそ話をしながら、ページの奥に隠されたヒントを探した時間。
なつみが夢中になりすぎて転びそうになったとき、
そらたが慌てて支えてくれたこと。

――苦しいことがあった時、なつみがひとりで泣いていた時。
そらたは必ず隣に座って、何も言わずに手を握ってくれた。
「泣いてもいいよ」
その一言が、どれほど心強かったか。

そらたがいたから、なつみは勇気を持てた。
勇者として、前に進めた。
でも本当は、そらたの“まほう”にいつも助けられていたのは自分の方だったのかもしれない。

胸の奥に、あたたかいものが込み上げてくる。

「……ありがとう、そらた」

涙がこぼれそうになるけれど、今はもう泣かなかった。
心の底から、感謝の気持ちでいっぱいだった。

「ふたりで見つけた“しるし”と、ふたりで過ごした思い出が、
私の勇気になってたんだよ」

そらたも少し照れたようにうつむきながら、
「ぼくも……なつみの隣で冒険できて本当にうれしかった」と、
小さな声でつぶやいた。

なつみは、ペンダントの小さなクローバーにそっと指を重ねた。
そらたは「それ、ぼくが作ったんだ」と小さく言う。
「本当は、なつみに渡すの、すごく緊張した。
でも、“しるし”は特別なもので、ぼくたちふたりの“冒険”の証しになったらいいなって」

「……本当にありがとう」

ふたりは見つめ合い、そして同時にふっと笑った。

ペンダントは、これからどんな未来に進んでも、ふたりをつなぐ“しるし”であり続ける――
なつみはそう信じていた。
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