Dream of Center Mother

弥代 楓

文字の大きさ
7 / 21
第一話 運び屋

6.「事務所」

しおりを挟む
 ヤマトが退出して30分程経つが、未だに戻ってくる気配はない。シオンは彼に言われた通り荷物をくまなく調べていたが、特に進展は無かった。

「ヤマトさん遅いな。何やってんだろあの人…」

まさかまた厄介な依頼を引き受けているのではないか、そんな予感にシオンはまた胃を痛める。

ヤマトは運び屋の仕事は基本的に断らない。
それがどんなに軽かろうが重かろうが危険を伴おうが、頼られれば断らないし、預かった荷物は必ず届けるのが彼の信条だ。

仕事の途中で仕事が増えるなんてのは日常茶飯事である。

そのせいで休む暇も無く働いて、疲労からたまに挙動が怪しくなるのは如何なものだろうかとシオンは半ば呆れているが、ヤマト本人は無自覚のようだ。

たまに運び屋の範疇を超えているような仕事も拾ってくるのは困ったものだが、「慣れてきている自分がいるんだよなぁ…」とシオンは自嘲気味に笑う。

 シオンとヤマトはそれなりに長い付き合いだ。
話が長くなるので詳しい部分は端折るが、シオンがヤマトの「助手」をするようになってもう10年近くになるだろうか。

気苦労は絶えないし胃薬は手放せないが、それなりに楽しくやっている。

「それにしても遅いな…」

心なしか下が騒がしい気がするし、そろそろ様子を見に行くか…とシオンが部屋の出口へ近づいたその時であった。

 勢いよく開かれた扉、飛びこんできたのはヤマトだ。手には何故かブレードを持っている。

「ぐえっ。」

その下敷きになるシオン。

「よぉシオン、クッションになる趣味でもあったのか?」

「アンタが踏んだんでしょ!ふざけてないで早くどいてほしいんすけど!!」

悪いな、と身体を起こすヤマト。
シオンに手を差し出しつつも、その視線は扉の方を向いていた。

「何かあったんすか…?」

「……。」

階段を登る音がする。
扉はヤマトが飛び込んで来た時に開いたままだ。
そこから大きな影が顔を覗かせる。

現れたのはボロボロのフードを被り、右手に杭打機を持つ大柄な男であった。
ヤマトも大柄な方ではあるが、それより一回り程大きいかもしれない。

「…あんたに、恨みはない。が、荷物を渡さないなら、死んで貰うしかない、な。」

そう言ってヤマトに照準を定める男。

「状況が読めないんすけど、ヤマトさん本当に何したんすか!?」

「知らん。恨みはないらしいぞ。
あの荷物を渡せと言われて断ったらこれだ。」

そう言いながら例のキャリーケースを指すヤマト。

「そこ、か…」

荷物の方へ向かおうとする男をヤマトが制止する。

「渡せない、と言った筈だが。」

「…そう、か。」

男はガシュ、ガシュ、と鉄杭を発射する。
躱わすヤマト。鉄杭は壁や机に音を立てて突き刺さる。

「ウワーッ!!事務所が!!!!」

「片付けは頼んだぞシオン!」

「ふざけんな!!!」

ヤマトは大柄ではあるがその身のこなしは軽やかであり、どこで覚えたのかシオンの知る所ではないが、昔から剣の腕も確かだった。

どうやら軽口を叩ける程度には余裕があるらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...