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第一話 運び屋
6.「事務所」
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ヤマトが退出して30分程経つが、未だに戻ってくる気配はない。シオンは彼に言われた通り荷物をくまなく調べていたが、特に進展は無かった。
「ヤマトさん遅いな。何やってんだろあの人…」
まさかまた厄介な依頼を引き受けているのではないか、そんな予感にシオンはまた胃を痛める。
ヤマトは運び屋の仕事は基本的に断らない。
それがどんなに軽かろうが重かろうが危険を伴おうが、頼られれば断らないし、預かった荷物は必ず届けるのが彼の信条だ。
仕事の途中で仕事が増えるなんてのは日常茶飯事である。
そのせいで休む暇も無く働いて、疲労からたまに挙動が怪しくなるのは如何なものだろうかとシオンは半ば呆れているが、ヤマト本人は無自覚のようだ。
たまに運び屋の範疇を超えているような仕事も拾ってくるのは困ったものだが、「慣れてきている自分がいるんだよなぁ…」とシオンは自嘲気味に笑う。
シオンとヤマトはそれなりに長い付き合いだ。
話が長くなるので詳しい部分は端折るが、シオンがヤマトの「助手」をするようになってもう10年近くになるだろうか。
気苦労は絶えないし胃薬は手放せないが、それなりに楽しくやっている。
「それにしても遅いな…」
心なしか下が騒がしい気がするし、そろそろ様子を見に行くか…とシオンが部屋の出口へ近づいたその時であった。
勢いよく開かれた扉、飛びこんできたのはヤマトだ。手には何故かブレードを持っている。
「ぐえっ。」
その下敷きになるシオン。
「よぉシオン、クッションになる趣味でもあったのか?」
「アンタが踏んだんでしょ!ふざけてないで早くどいてほしいんすけど!!」
悪いな、と身体を起こすヤマト。
シオンに手を差し出しつつも、その視線は扉の方を向いていた。
「何かあったんすか…?」
「……。」
階段を登る音がする。
扉はヤマトが飛び込んで来た時に開いたままだ。
そこから大きな影が顔を覗かせる。
現れたのはボロボロのフードを被り、右手に杭打機を持つ大柄な男であった。
ヤマトも大柄な方ではあるが、それより一回り程大きいかもしれない。
「…あんたに、恨みはない。が、荷物を渡さないなら、死んで貰うしかない、な。」
そう言ってヤマトに照準を定める男。
「状況が読めないんすけど、ヤマトさん本当に何したんすか!?」
「知らん。恨みはないらしいぞ。
あの荷物を渡せと言われて断ったらこれだ。」
そう言いながら例のキャリーケースを指すヤマト。
「そこ、か…」
荷物の方へ向かおうとする男をヤマトが制止する。
「渡せない、と言った筈だが。」
「…そう、か。」
男はガシュ、ガシュ、と鉄杭を発射する。
躱わすヤマト。鉄杭は壁や机に音を立てて突き刺さる。
「ウワーッ!!事務所が!!!!」
「片付けは頼んだぞシオン!」
「ふざけんな!!!」
ヤマトは大柄ではあるがその身のこなしは軽やかであり、どこで覚えたのかシオンの知る所ではないが、昔から剣の腕も確かだった。
どうやら軽口を叩ける程度には余裕があるらしい。
「ヤマトさん遅いな。何やってんだろあの人…」
まさかまた厄介な依頼を引き受けているのではないか、そんな予感にシオンはまた胃を痛める。
ヤマトは運び屋の仕事は基本的に断らない。
それがどんなに軽かろうが重かろうが危険を伴おうが、頼られれば断らないし、預かった荷物は必ず届けるのが彼の信条だ。
仕事の途中で仕事が増えるなんてのは日常茶飯事である。
そのせいで休む暇も無く働いて、疲労からたまに挙動が怪しくなるのは如何なものだろうかとシオンは半ば呆れているが、ヤマト本人は無自覚のようだ。
たまに運び屋の範疇を超えているような仕事も拾ってくるのは困ったものだが、「慣れてきている自分がいるんだよなぁ…」とシオンは自嘲気味に笑う。
シオンとヤマトはそれなりに長い付き合いだ。
話が長くなるので詳しい部分は端折るが、シオンがヤマトの「助手」をするようになってもう10年近くになるだろうか。
気苦労は絶えないし胃薬は手放せないが、それなりに楽しくやっている。
「それにしても遅いな…」
心なしか下が騒がしい気がするし、そろそろ様子を見に行くか…とシオンが部屋の出口へ近づいたその時であった。
勢いよく開かれた扉、飛びこんできたのはヤマトだ。手には何故かブレードを持っている。
「ぐえっ。」
その下敷きになるシオン。
「よぉシオン、クッションになる趣味でもあったのか?」
「アンタが踏んだんでしょ!ふざけてないで早くどいてほしいんすけど!!」
悪いな、と身体を起こすヤマト。
シオンに手を差し出しつつも、その視線は扉の方を向いていた。
「何かあったんすか…?」
「……。」
階段を登る音がする。
扉はヤマトが飛び込んで来た時に開いたままだ。
そこから大きな影が顔を覗かせる。
現れたのはボロボロのフードを被り、右手に杭打機を持つ大柄な男であった。
ヤマトも大柄な方ではあるが、それより一回り程大きいかもしれない。
「…あんたに、恨みはない。が、荷物を渡さないなら、死んで貰うしかない、な。」
そう言ってヤマトに照準を定める男。
「状況が読めないんすけど、ヤマトさん本当に何したんすか!?」
「知らん。恨みはないらしいぞ。
あの荷物を渡せと言われて断ったらこれだ。」
そう言いながら例のキャリーケースを指すヤマト。
「そこ、か…」
荷物の方へ向かおうとする男をヤマトが制止する。
「渡せない、と言った筈だが。」
「…そう、か。」
男はガシュ、ガシュ、と鉄杭を発射する。
躱わすヤマト。鉄杭は壁や机に音を立てて突き刺さる。
「ウワーッ!!事務所が!!!!」
「片付けは頼んだぞシオン!」
「ふざけんな!!!」
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