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第三章
去った一難
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「…………帰ります」
「! 待て、テレーゼ」
レオンハルトの呼びかけを無視するように、小走りで部屋の出入口まで向かうと、テレーゼは思い切り扉を開ける。
「!」
「……っ!?」
扉の先にはエーリクが待っていたようで、彼の姿に驚いたテレーゼがバランスを崩し倒れそうになる。そんな彼女を支えようとエーリクは咄嗟に手を伸ばしたたものの、テレーゼはその手を思い切り叩き、その場に尻もちをついた。
「だ――」
「わたしに触らないでよ! 異種族風情が!」
「テレーゼ!」
エーリクを睨み付け叫んだテレーゼを咎めるように、レオンハルトは声を上げた。その大きな声にテレーゼは肩を揺らしたが、それ以上何か言うことなく、さっと立ち上がると走り去っていく。
「……追わせますか?」
「今はそのまま行かせてあげてくださいませ、レオンハルト様」
立ち上がったレオンハルトの袖を掴み、彼がエーリクの問いかけに答えるより早く、そう告げる。
「しかし……」
渋い表情を浮かべるレオンハルトに、ルシアナは穏やかな笑みを向けた。
「彼女に罰を与えなければならないということは重々承知しておりますわ。けれど、今の彼女を呼び止め、何かを言ったところで、彼女はそれを冷静に受け止めることはできないでしょう」
レオンハルトは思案するように数秒視線を逸らしたあと、エーリクに対し軽く首を横に振った。エーリクはそれに短い一礼を返すと、エントランスに向け軽く手を挙げる。
一連の流れに、ほっと息を吐き、袖から手を離すと、レオンハルトはその場に片膝をついて頭を下げた。
「この度は私の身内が大変なご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした」
「いえ、先ほども申し上げましたが、会うことを決めたのはわたくしです。ですから、レオンハルト様が謝罪されることはございませんし、彼女のわたくしへの振る舞いはどうか不問としてくださいませ」
ルシアナは立ちあがると、レオンハルトに向け手を差し出す。顔を上げ目が合ったレオンハルトに、ルシアナはおかしそうに笑った。
「ふふ、昨日もこんなことがございましたね?」
「……ええ」
レオンハルトはふっと表情を緩めると、ルシアナの手をしっかり取って立ち上がる。すぐにレオンハルトの手は離れてしまったが、自身の手にしっかりと残った温もりに自然と顔が綻んだ。
(あら……レオンハルト様とは少しは仲良くなれたかしら)
のんびりとそんなことを考えていたルシアナだが、エーリクを呼ぶレオンハルトの鋭い声に、意識と視線を彼らへ移す。
「今すぐリーバグナー公爵家へ使いを出せ。今日起きたことをすべて伝えろ」
「かしこまりました」
エーリクは深く腰を折ると、すぐにこの場を去っていく。
(わたくしが不問にしたとしても、こればかりは仕方がないわ。けれど――)
「レオンハルト様、どうかギュンターやエーリクたちの責は問わないでくださいませ。わたくしが会いたいと言えば、彼らはそれを止められませんもの」
「……」
厳しい表情で扉のほうを見ていたレオンハルトは、ルシアナへ視線を移すと、何か言いたそうに口を開いて、またすぐに閉じる。口元に手を当て逡巡したのち、小さく頷いた。
「これまでテレーゼの訪問を受け入れていた私にも非がありますので、今回はルシアナ様のご厚意に甘えさせていただき彼らの責は問いません」
(彼は真面目な方だけれど堅人というわけではなく、きちんとお話をすればわたくしの考えにも理解を示してくださる。とてもありがたいことだわ)
「ありがとうございます、レオンハルト様」
心からのお礼を口にしたルシアナだったが、それと被るように、ルシアナのお腹が小さく鳴った。
「……」
「……」
(そういえば、起きてすぐ彼女が来たから今日はまだ何も食べていないのよね。お昼には少し早いけれど……自覚したらとてもお腹が空いてきたわ)
もう一度切なそうに鳴いたお腹を慰めるように、そっと手を添えれば、頭上からふっという小さな笑い声が聞こえた。
ぱっと顔を上げれば、レオンハルトが軽く咳払いをする。
「……よろしければ、一緒に昼食はいかがですか」
(……すでにこれまで通りの表情だわ)
少々もったいないものを見逃したな、と思いつつ、ルシアナは小首を傾げる。
「よろしいのですか? お忙しいのでは?」
「元よりそのつもりでこの時間に帰ってきましたので問題ありません」
(まあ……)
予想もしていなかった言葉に目を見開けば、彼は少しだけ眉尻を下げた。
「ルシアナ様、私と一緒に食事をしていただけますか」
そう言って手を差し出したレオンハルトに、ルシアナは数度瞬きを繰り返すと、満面の笑みを浮かべて彼の手を取った。
「はい。喜んで」
「! 待て、テレーゼ」
レオンハルトの呼びかけを無視するように、小走りで部屋の出入口まで向かうと、テレーゼは思い切り扉を開ける。
「!」
「……っ!?」
扉の先にはエーリクが待っていたようで、彼の姿に驚いたテレーゼがバランスを崩し倒れそうになる。そんな彼女を支えようとエーリクは咄嗟に手を伸ばしたたものの、テレーゼはその手を思い切り叩き、その場に尻もちをついた。
「だ――」
「わたしに触らないでよ! 異種族風情が!」
「テレーゼ!」
エーリクを睨み付け叫んだテレーゼを咎めるように、レオンハルトは声を上げた。その大きな声にテレーゼは肩を揺らしたが、それ以上何か言うことなく、さっと立ち上がると走り去っていく。
「……追わせますか?」
「今はそのまま行かせてあげてくださいませ、レオンハルト様」
立ち上がったレオンハルトの袖を掴み、彼がエーリクの問いかけに答えるより早く、そう告げる。
「しかし……」
渋い表情を浮かべるレオンハルトに、ルシアナは穏やかな笑みを向けた。
「彼女に罰を与えなければならないということは重々承知しておりますわ。けれど、今の彼女を呼び止め、何かを言ったところで、彼女はそれを冷静に受け止めることはできないでしょう」
レオンハルトは思案するように数秒視線を逸らしたあと、エーリクに対し軽く首を横に振った。エーリクはそれに短い一礼を返すと、エントランスに向け軽く手を挙げる。
一連の流れに、ほっと息を吐き、袖から手を離すと、レオンハルトはその場に片膝をついて頭を下げた。
「この度は私の身内が大変なご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした」
「いえ、先ほども申し上げましたが、会うことを決めたのはわたくしです。ですから、レオンハルト様が謝罪されることはございませんし、彼女のわたくしへの振る舞いはどうか不問としてくださいませ」
ルシアナは立ちあがると、レオンハルトに向け手を差し出す。顔を上げ目が合ったレオンハルトに、ルシアナはおかしそうに笑った。
「ふふ、昨日もこんなことがございましたね?」
「……ええ」
レオンハルトはふっと表情を緩めると、ルシアナの手をしっかり取って立ち上がる。すぐにレオンハルトの手は離れてしまったが、自身の手にしっかりと残った温もりに自然と顔が綻んだ。
(あら……レオンハルト様とは少しは仲良くなれたかしら)
のんびりとそんなことを考えていたルシアナだが、エーリクを呼ぶレオンハルトの鋭い声に、意識と視線を彼らへ移す。
「今すぐリーバグナー公爵家へ使いを出せ。今日起きたことをすべて伝えろ」
「かしこまりました」
エーリクは深く腰を折ると、すぐにこの場を去っていく。
(わたくしが不問にしたとしても、こればかりは仕方がないわ。けれど――)
「レオンハルト様、どうかギュンターやエーリクたちの責は問わないでくださいませ。わたくしが会いたいと言えば、彼らはそれを止められませんもの」
「……」
厳しい表情で扉のほうを見ていたレオンハルトは、ルシアナへ視線を移すと、何か言いたそうに口を開いて、またすぐに閉じる。口元に手を当て逡巡したのち、小さく頷いた。
「これまでテレーゼの訪問を受け入れていた私にも非がありますので、今回はルシアナ様のご厚意に甘えさせていただき彼らの責は問いません」
(彼は真面目な方だけれど堅人というわけではなく、きちんとお話をすればわたくしの考えにも理解を示してくださる。とてもありがたいことだわ)
「ありがとうございます、レオンハルト様」
心からのお礼を口にしたルシアナだったが、それと被るように、ルシアナのお腹が小さく鳴った。
「……」
「……」
(そういえば、起きてすぐ彼女が来たから今日はまだ何も食べていないのよね。お昼には少し早いけれど……自覚したらとてもお腹が空いてきたわ)
もう一度切なそうに鳴いたお腹を慰めるように、そっと手を添えれば、頭上からふっという小さな笑い声が聞こえた。
ぱっと顔を上げれば、レオンハルトが軽く咳払いをする。
「……よろしければ、一緒に昼食はいかがですか」
(……すでにこれまで通りの表情だわ)
少々もったいないものを見逃したな、と思いつつ、ルシアナは小首を傾げる。
「よろしいのですか? お忙しいのでは?」
「元よりそのつもりでこの時間に帰ってきましたので問題ありません」
(まあ……)
予想もしていなかった言葉に目を見開けば、彼は少しだけ眉尻を下げた。
「ルシアナ様、私と一緒に食事をしていただけますか」
そう言って手を差し出したレオンハルトに、ルシアナは数度瞬きを繰り返すと、満面の笑みを浮かべて彼の手を取った。
「はい。喜んで」
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