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闇の魔法 I
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自分でも気がついた時に、正気かと思った。
見間違いだと信じたかった。
この世界に魔法が存在すると知った時、私は魔法で何かをするのはかっこいいと言う非常に浅はかな思考から手を前に突き出し適当に力を込めたのである。
火属性であれば私の手のひらからは火が舞い上がるはずだし、どこぞの物語の主人公のように貴重とされる光属性であれば私の人生はきっと薔薇色だ。
———しかし私の手のひらから勢いよく溢れ出たのは、鮮やかなオレンジでも薔薇色の人生を連れてくる光でもなく、深い深い黒色だった。
自分の手から溢れ出る黒い靄は私が念じると念じた通りに形を変える。炎のように燃え上がらせようと思えばぶわりと勢いを増し、鞭のようにと念じればしなやかに動き回ってみせる。
変幻自在に動いてくれるそれを始めこそ気味悪く感じたものの、慣れればそこまで危険なものではないとわかった。
しかし聞いた話によればこの屋敷内では魔力の使用が魔術により制限されているらしく、今現在私の魔力から何かを創り出したり、何かに作用させると言うことはできないらしい。……力が封印されているっぽくてかっこいいなと密かに思ってしまったのはここだけの秘密である。
「…そこまで危険なものには思えないけど」
文献から見て取れる印象と、実際に自分が感じたことに対する齟齬にふと、そんな呟きが口から漏れる。
根拠?そんなものはない、ただの勘だ。
「シルヴィア様、失礼いたします」
「あぁ…いらっしゃい、スズ」
「頼まれた本が届きましたのでお持ちしました。…あの、シルヴィア様、本当にこちらでよろしいのですか?」
控えめなノック音と共に、二冊の本を抱えて部屋へ入ってきたのはメイドのスズだった。彼女はシルヴィア付きの使用人らしく、私が幽閉されると聞いた時に自ら世話役を勝手出て共に来てくれたらしい。本当にありがたいことだ。
そして先日倒れた私をベッドまで運び、一晩看病してくれた張本人でもある。あの時はつくづく迷惑をかけてしまったなと頭が上がらない。
そんな彼女がたった今持ってきてくれたのは、古い御伽噺の本。少し色褪せた表紙はまさに私が求めていたものそのもので思わずほおが緩んだ。
「失礼ですが…シルヴィア様、こういうのお好きだったのですね」
「んー?好きよ、とっても勉強になるもの」
この世界のことについての、ね。
微妙に納得していない顔のスズを横目にそんな言葉は心の中にしまっておく。この世界についてはおろか、自分のことについても何もかも忘れてしまったなんて知れたらそれこそ悪魔祓いにでも連れて行かれそうだ。
それだけは絶対に避けたい。
私はまだ、死にたくない。
見間違いだと信じたかった。
この世界に魔法が存在すると知った時、私は魔法で何かをするのはかっこいいと言う非常に浅はかな思考から手を前に突き出し適当に力を込めたのである。
火属性であれば私の手のひらからは火が舞い上がるはずだし、どこぞの物語の主人公のように貴重とされる光属性であれば私の人生はきっと薔薇色だ。
———しかし私の手のひらから勢いよく溢れ出たのは、鮮やかなオレンジでも薔薇色の人生を連れてくる光でもなく、深い深い黒色だった。
自分の手から溢れ出る黒い靄は私が念じると念じた通りに形を変える。炎のように燃え上がらせようと思えばぶわりと勢いを増し、鞭のようにと念じればしなやかに動き回ってみせる。
変幻自在に動いてくれるそれを始めこそ気味悪く感じたものの、慣れればそこまで危険なものではないとわかった。
しかし聞いた話によればこの屋敷内では魔力の使用が魔術により制限されているらしく、今現在私の魔力から何かを創り出したり、何かに作用させると言うことはできないらしい。……力が封印されているっぽくてかっこいいなと密かに思ってしまったのはここだけの秘密である。
「…そこまで危険なものには思えないけど」
文献から見て取れる印象と、実際に自分が感じたことに対する齟齬にふと、そんな呟きが口から漏れる。
根拠?そんなものはない、ただの勘だ。
「シルヴィア様、失礼いたします」
「あぁ…いらっしゃい、スズ」
「頼まれた本が届きましたのでお持ちしました。…あの、シルヴィア様、本当にこちらでよろしいのですか?」
控えめなノック音と共に、二冊の本を抱えて部屋へ入ってきたのはメイドのスズだった。彼女はシルヴィア付きの使用人らしく、私が幽閉されると聞いた時に自ら世話役を勝手出て共に来てくれたらしい。本当にありがたいことだ。
そして先日倒れた私をベッドまで運び、一晩看病してくれた張本人でもある。あの時はつくづく迷惑をかけてしまったなと頭が上がらない。
そんな彼女がたった今持ってきてくれたのは、古い御伽噺の本。少し色褪せた表紙はまさに私が求めていたものそのもので思わずほおが緩んだ。
「失礼ですが…シルヴィア様、こういうのお好きだったのですね」
「んー?好きよ、とっても勉強になるもの」
この世界のことについての、ね。
微妙に納得していない顔のスズを横目にそんな言葉は心の中にしまっておく。この世界についてはおろか、自分のことについても何もかも忘れてしまったなんて知れたらそれこそ悪魔祓いにでも連れて行かれそうだ。
それだけは絶対に避けたい。
私はまだ、死にたくない。
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