白雨の魔女は物語を紡ぐ

こたつでごはん

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闇の魔法と転機

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「くっそ…なんの役にも立ちやしない……」

スズがこの部屋を去って小一時間後、だらしなくベッドにて持ってきてもらった本を読んでいた私はそう呟きながら枕に顔を突っ伏した。口汚く吐き捨てた言葉に関してはこの際許していただきたい。

ついさっき読み終わった御伽噺の本。
闇の魔法について何か手がかりがあると思って開いたものの清々しいほど何も得られなかった、いや普通に面白かったけれど求めてたのはそうじゃない、違うんだ。

放り出した御伽噺の本を軽く睨みつける。
あれの中に書いてあった闇の魔法についてだって他となんら変わらない。危険、悪、死の魔法、既に見慣れてしまった言葉のオンパレード、もうウンザリだ。物語の展開的に絶対悪がいたほうが面白いのはわかる、わかるけどもそろそろ闇の魔法使いが可哀想になってきた。もうやめてあげてくれと何度心の中で叫んだことか。
 
「私も、こうなるわけ?」

物語を読んでいるうちにふと浮かんだ一つの懸念。お話の中の魔法使いたちはほとんどみんな悪さをして、光の魔法使いや騎士様に成敗されている。紅蓮の炎で身を焼かれたり、銀の刃で心臓を貫かれたり、永遠に溶けない氷に閉じ込められたり……本当に徹底しているなと舌を巻いたレベルだ。
ここで私の今の状況を思い出していこう。どんなに快適に感じる生活を送っていたとしてもいまの私は幽閉中の身である。つまりなんらかの罪を犯した…のだと思う。かんっぜんに忘れかけていたけども。

「ほんっと、なにしたのよシルヴィアレイン…!!」

「シルヴィア・レイン!!」

「はぁ!?」

再び枕に頭を突っ伏した次の瞬間、ノックもなしも荒々しく背後の扉が開いた。突然のことに驚いて喉からは女子としてあるまじき素っ頓狂な声が漏れる。

扉から入ってきたのはガタイの良い、武装した複数の男たち。彼らはみんな中世ヨーロッパの騎士のような鎧を身にまとっていて、胸元にはお揃いの紋章が刻まれている。先頭に立っていた男は兜を外し、無駄にうるさく足音を立てながら私が寝ていたベッドに近づいてきた。

「釈放だ、シルヴィア・レイン」

「……はぁ?」

「騎士団長に向かってその態度とはいい度胸だなレイン。
……国の魔力が足りていない、その魔力不足を補うために、貴様は一時的に幽閉を解かれることになった。もちろん監視付きでだ。国王陛下の寛大な御心に感謝するんだな」

「はぁ…」

相変わらず脳の処理が追いつかない私はだらしなくベットに座り込んだまま動くことができない。視界の端ではスズが「シルヴィア様!」と飛び込んできたのが見えた。どうやら彼らの訪問はあまりにも突然だったようだ。

「あの、騎士団長、ご訪問の際は事前に連絡をしていただけると助かります。こちらも準備というものがありますので」

「罪人に会うのに面会予約など必要か?
それに今日で貴様はここを出る、関係ないであろう」

「……」

ダメだこの人引くほど話が通じない。

とりあえず1番に出てきた感想がそれだった。罪人であろうと仮にも淑女の部屋に、寝巻きの、淑女の部屋にノックもなしに入ってくる男が騎士団長とか世も末だなと心底思う。

「準備をしろレイン。2時間後、馬車が貴様を迎えにくる。その後一度実家に戻り、明日から学園復帰だ」

「……随分と急ですね」

「成人してないものが魔力を捧げられるのは学園しかないのだから、仕方ないだろう。一刻を争う魔力不足なのだ。」

そんなこともわからないのか、お前は、とため息をつく騎士団長。実際初耳ですけど。

「とにかく早く支度を整えろ、監視の目を増やされたくなければな」

そんな捨て台詞を吐いて、騎士団長は踵を返す。彼に続いて他の騎士達も踵を返して去っていった。
彼らが残していった絨毯に大量の泥の足跡を見て、初めて、いつの間にか外には雨が降っていることに気がついた。

「嵐が、通り過ぎたようですね」

心臓を押さえるスズの言葉に、私は心の中で激しく同意したのだった。
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