絶対に笑える作者の日常・爆笑した話集

湯川仁美

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㉟鉄道オタクの小学生

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老若男女問わず、鉄道オタクが存在する。
その日の小学校保健室は暇だった。
「先生さー!なんか集めてるもんある?」
6年2組の佐々木雄大は保健室に頭痛がするという事で珍しく来室していた。

「集めてる物?そうね。うーん。見える物なら熊のぷーさん。見えないものなら、笑顔よ?佐々木君は何か集めている物があるの?」
「名古屋の電車」
・・・名古屋の電車。略して名鉄の何を集めているのだろう?
「プラモデルとかを集めているの?」
6年生で電車のぬいぐるみという可能性は低いだろう。
「電車のパーツ。つり革とか、看板とか」
「へぇ」
「土日に名古屋の名鉄イベント行くねん」
「そのイベントで何か買うの?」
「電車の正面。人間の額の所にくるくる回って行き先が書いてある行先表示器ってあるやん。アレ、5万円くらいするねんけど買いたいねん」
たかっ!しかも5万円。
「5万円はおうちの人から貰うの?」
「お年玉とお小遣いとお手伝い頑張る」
そんな楽しそうな予定を教えてくれたので、週明けの月曜。
月曜日は体育館で全校朝礼があり佐々木は6年生にしては168㎝と背が高く6年2組の最後尾。

「名鉄イベントでお目当ての物は買えた?」
梨乃はまだまだ、児童が揃っておらず小声で話しかける。
「買いたかった物は買えなかったんですけど・・・。まぁ・・・。うん」
ニヤニヤが止まらない佐々木に梨乃は少し首を傾げる。
「そっかー。電車の顔についてるくるくる回るヤツ買われへんかったんかぁ~。でも、良いの買えたんや!何買ったん?」
そのニヤニヤを保健室の先生を代表して突っ込ませていただこうではないか!
どんな素敵な物を買えたのかおばちゃんに自慢するんだ!
ナルシストはお断りだが、自慢話、嬉しい話は聞くのが好き。
「前住んでた家の駅のホームの看板を買ったで」

駅の看板。

あの、駅に置いてあるでかいのか。

「プチプチしたのはまいてんけど、新幹線で抱っこして返って来たので恥ずかしかった」
「全然、恥ずかしくないよ!宝物を抱えて帰ってるんだからさ。どや顔で帰っておいで!」
宅配便にすると送料が高いし、小学生の身分では使えないか。
「オタクに見えませんか?」
「顔が整ってるから大丈夫」
顔とオタクに何の根拠があるのかはさておき、大丈夫と根拠のない太鼓判を押す。
「・・・(看板は)でかいんで、新幹線は抱っこするしかなくて幸せでした」

「最高タイムやな~。家ではどうしてるん?飾てるん」
駅の看板は決して小さい物ではない。
「壁に強力な両面シールでお父さん立て付けてくれます」
「パパっち神だね。すばらしい。そういうのをアツイっていうんだよね」
激アツ、ヤバイ、最高、イカしているなんて昔流行った言葉は今は!アツイ!というらしく30代のオバサンも間違えつつも若者と使う。
まれに「違うっすよ?」といわれ。「あはは。時代ちゃうから分からーん」と笑い飛ばす。

「お家には宝物が沢山あるの?」
「壁が4面あって、まだ2面ですね」

おぉ、、、佐々木家の規模は知らないが・・・4面中2面もあるのか。
「大人になって一人暮らしをしたら家中置かなきゃね」
実家で家じゅう名古屋鉄道で埋め尽くすには家族の理解がいるだろう。
雄大には確か妹もいたし、その妹の持ち物は流行物のキャラクターがあしらわれており趣味を共有してはいなさそうだった。
「名鉄のイベントは段ボールの中から、整理券の番号のくじをひいて。入っていくんで、来年は444番より前の番号を引きます!」
・・・444番。
「何番まであるん?」
1番から始まるとすると、わりと遅めの番号ではないだろうか?
「さぁ?お父さんは一万何番で、ママは982番だった」

ほぉー、なんと大人気なイベントじゃ。

まぁ。日本中、世界中から名古屋鉄道ファンがあるとするとそんなものか・・・。

なんて感心していると、佐々木はでもねっと少し力強く会話を終わらせようと一歩下がる梨乃を見る。

「俺はコレクターじゃなくて、名鉄の社員になりたいねんな」
「12歳で就職したい仕事が決まってるんじゃなくて、就職したい会社まで決まってるって素敵ね。その夢、かなえられると思う!」

NASAの職員になりたいと言われたらどうしようかと思うが・・・。
名古屋鉄道、略して名鉄であれば、アルバイト、フリーター、内勤、車掌と色々な立場やポジションがあるだろう。
なれない事はないだろう。
「また、お話聞かせてね」
梨乃はそう言うと体育館の一番後ろで全校集会にみみを傾けながら、身長は高いものの子供らしく彼が駅の看板を抱っこして新幹線を移動している様子を思い浮かべると微笑んだ。
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