指さし婚約者はいつの間にか、皇子に溺愛されていました。

湯川仁美

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第一章 指さし婚約者(ドライ

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「志摩子様。王妃教育はいかがいたしますか?」
パーティー後、元々着替え終わったドレスに着替えた志麻子に淳二は静かに尋ねる。
通常であれば受けないと言う選択肢は与らるないのだが。
そこは、誠一の選んだ"王妃候補"
「辞退します」
私は目立たず、目立たなすぎずをモットーに生きる。
どうせ数週間から数か月で解任される婚約者。
最高級ランクの淑女教育なんて受ける必要はない。

それなりの学園や伯爵家で行われる淑女教育を受けてれば、伯爵令嬢としての礼儀作法は事足りる。
「間髪入れずに辞退ですか?」
淳二は驚いた顔で尋ねた。
今までの令嬢や姫であれば、王妃になるべく必ず名誉や権力、一族繁栄の為に妃教育は受けると答え。
教育を受け為、王宮に通い、誠一に会い取り入ろうとする。
なので間髪入れずに断ったものなど今までいなかった。

「・・・明日。通例でしたら朝一に国王陛下、王妃様に挨拶ですが。・・・どうされますか?」
「通例なのであれば挨拶をいたします」
国王陛下、王妃に会うことは緊張するのでできればしたくはないが王妃候補となった翌日には礼儀として挨拶はするべきだろう。
王妃候補解除後。
つまり。
婚約破棄後は篠田領地を反映、領地拡大、財成アップをして領地愛、領民愛は伯爵領から公爵領にのし上がる時にも有益に働くだろうし。
国王陛下と面識を作っておくいて損はない。
国王、王妃共に息子がすぐに私を解任するのは分かっているだろうし嫌味を言われたり領地を取り潰す、冷遇するなどはしないだろうし。

***
翌朝。
「ご機嫌よう。国王陛下、王妃様」
志麻子は深々と国王夫妻に一礼する。
「志摩子。誠一の申し出を受けてくれて感謝する」
国王は何度となく繰り返された会話だったのだろう。
抑揚のない声で言う国王に志摩子はニッコリ微笑んだ。
「私こそ感謝いたします。昨日の夜会は領地繁栄のさらなる商談ができてとても有意義な場となりました。短い期間かとは思いますが宜しくお願い致します」

“短い期間かとは思いますが”っか。
なんだ、この娘。
面白い。
誠一は丁寧に玉座の間で頭を下げる志麻子を部屋の扉の外から眺める。

ルネサンティカ皇女が一番、誠一の婚約者に近いと言われていたことは知っていた。
そして、彼女が攻撃性が高い皇女であることも把握していた。
自分が指名したことで見ず知らずとはいえ一人の人間が虐められるのは気が引ける。
なので、志麻子を配下の家臣に監視させてはいたが・・・。
昨日の夜会では志麻子は商談に夢中。
ルネサンティカ皇女から攻撃されず、彼女の次に、存在感を示すもう一人の志摩子の幼馴染の少女。清羅と商談で話しっぱなしで喉がカラカラになった志麻子に彼女がお茶を差し出したりと、人間関係は良好そうだった。
憎まれないこと。
やっかまれないこと。
それは才能だ。
そして、王妃教育を断ったが国王夫妻に会う。
何か取り入るかと思えばそんな事は一切しない。

そんな誠一の驚きもつゆ知らず・・・。志摩子は心の中で腕まくりとガッツポーズをしていた。
ふふふ。
今日は良い話し合いが沢山できたわ。
さぁー、お腹すいた。帰るかっ!

志麻子は昨日の商談成立。
国王夫妻に顔を売れた事にるんるん気分で拝謁を終えると玉座の間の前にいる誠一に気が付くことなく王宮の玄関に向かって歩き続ける。

こ、こいつ!
俺を無視!
まさかの無視!
誠一は思いっきり目を見開き、思わず志摩子の腕を掴もうとしたがその手を引いた。
誠一は記憶力が良い。
一度見たものは忘れる事はあまりない。
志摩子の事は自分の取り巻きの1人として見たことがあった。
取り巻きなのだから、誠一にまとわりつき、ぞんざいに扱うという対応をするいつもの展開になるかと思っていた。
「これは楽しみじゃの」
誠一、志麻子の様子に国王の小さな呟きだけが玉座に座った国王の口から溢れ。
王妃は楽しそうに微笑んだ。

***
「おかえりなさいませ。お嬢様」
王宮からでて来た志摩子を出迎えたのは幼少期から世話を焼いてくれる篠田伯爵家のメイド長のアキと執事長の仁。
「ただいま」
志摩子は車の前で待つ2人に頷くと車の中に入る。
そして車の中に入るとカーテンを閉めてペットボトルを取り出した。
「ぷっふぁぁー」
豪快に大好きな炭酸水を飲むと思いっきり声を出す。
「げっぷぅ~」
「お嬢様。げっぷはお止めください」
眉間に深い皺をよせながら志麻子の教育係を兼ねるアキは窘める。
「アキさん。今日はすごーく気を使って、すごーく疲れたの」
大目に見てよっと志麻子は大袈裟に肩をすくめながら言うとアキは多めに見ませんと首を振る。
「王妃候補はいついかなる時も気を抜くことなくふるまうべきです」
「王妃候補?あはははは。アキさん、本気で言ってる?殿下は私を見ることなく指さしで婚約者にしたの。すぐに解任されるわよ」
「・・・それは、そうかもしれませんが」
「それより、夜食を買いたいから。適当にコンビニで車を止めてくれる?」
運転席に志摩子は後部座席から身を乗り出すと、仁は運転をしながらかしこまりましたと答えるのだが。
「次期王妃がコンビニなど・・・」
アキはかしこまりましたっと返事をする運転手とは正反対に止めようとするが志摩子はアキに眉を顰めた。
「平気よ。正式に王妃候補の発表もされてない。誰も私が誠一殿下の指さし婚約者だって知らないわ。アキさん、あなた。冷静に物事を見れてないわ」
アキはそこまで言われると口を閉ざした。
この令嬢は馬鹿ではない。

「いらっしゃいませ。お嬢様」
レジにいた店員は志麻子を見るなり、気軽に話しかける。
「コンビニ名物、ファリチキを一つくださいな。後、エナジーモンスター」
「お疲れですか?お嬢様も大変ですね」
「まぁ。否定はしないけど、立ちっぱなしの店員さんも大変だわ」
志麻子はにっこり笑うとアキはお金を払う。
「昨日から気をつかってずっとニコニコしていたから。顔の表情筋もなんだか引き攣っている気がするわ」
そう言いながら、志麻子は頬を両手で引っ張る。
「お疲れ様でした。じゃあ、これはお嬢様に私個人としてのプレゼントです」
「ありがとう」
志麻子はにっこり10円ほどで売っているチョコを受けとると口の中に放り込んだ。
「美味しい。それじゃあね」

「はい。志麻子お嬢様のおかげで、図書館、美術館が整備され本当に感謝しています」
「どうしたしまして」
ひらひらと志麻子は手を振ると車の中に乗り込んだ。
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