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第三章 溺愛する皇子(最終章

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困ったわね。
「あの“超絶多忙星人”は意外に暇人だったのかしら?」
何かと用事を作っては、誠一は篠田伯爵家に来ていた。

本当に・・・。

街を視察する途中に時間があいたからっとか。
隣国からコーヒーに合いそうな菓子を貰ったから。
はたまた・・・。
財務大臣が篠田家に印鑑を新入社員でも派遣して、貰って来いと命じれば誠一自ら印鑑を貰いに訪れるなど。
用事を作って、篠田伯爵家に足しげく通っていた。
初めの頃は、伯爵家の一国の殿下が頻繁に来るなど前代未聞で篠田伯爵家の使用人たちはビクビクしていたが。
ほぼ毎日やって来る殿下に慣れてしまい。
今では丁寧に接するものの。
日常となっていた。

「目立たず。目立ちすぎることなく生きるをモットーにしているのに・・・。目立ちまくりじゃない!」
志麻子は王宮の花壇に綺麗な薔薇が咲いていたと、一凛の薔薇を持ってやって来た誠一を見送ると声を上げた。
「良かったではありませんか」
「なんなの?奴はべたべたする女がいいわけ?そしたら、婚約破棄をしてくれるわけ?」
今のところ、泣いて誠一に婚約破棄を申し出るネタがない。
むしろ、社交の場に同行するたびに貿易を拡大でき。
半年たった今では国全体の貿易にも関与し始め充実しており破談を申し込む気もあまりない。

それと、同時に学校は勿論の事。
国において志麻子の認知度は上がっていった。
「清羅様、門まで同行してもいいですか?」
「ええ。勿論よ。志麻子様」
誠一の取り巻きをしていた清羅は誠一が手に入らないと分かると、違う国の王子と婚約をして誠一の“せ”の字も言わなくなった。
「女は愛すよりも愛される方が幸せ。誠一殿下が篠田家を頻繁に訪問していると、聞きましたわよ」
「・・・否定はしませんが。肯定もしたくありません。いつ、解任されるのだが」
ため息交じりに志麻子は言うと、清羅はクスクス笑う。
「志麻子さんは本当に、目立つのがお嫌いのようですわね。才能がおありなのに勿体ない」
学校の教室から門まで歩きながら、志麻子は清羅と話しているときだった。

「よっ。志麻子、偉く人気になったな」
校門で声を掛けてきたのは1年上の従姉妹である篠田斗真。
「久しぶり」
同じ学園に通うが、在籍生徒は多く会おうと思わなければ滅多に会う事はない。
気軽に声を掛ける志麻子に斗真は箱を開ける。
その箱の中には、シュークリームが8個入っていた。
「今話題の星株式会社のシュークリーム。3時間、うちの執事に並んで買ってもらったんだ」
「あっ!あの幻のシュークリーム?え!私に?食べていいの?あー、でも、ダイエット中」
「1個食べろ」
「このシュークリーム、物凄くカロリー高いのよ?」
っと、言いつつ志麻子が身を引いた時だった。
潤はそんな志麻子に歩幅を縮める。
「もぉー!潤ったら、ダメよ!」
そうなのだ。
剛崎王宮から至急されるドレスは細身でけして、志麻子が太いわけではないのだが。
なにせ、食欲旺盛な女子高生。
「ほれほれほれ」
昔から、潤とは鬼ごっこをしていたこともあり。
高校生になった今でも、屋敷でプチ鬼ごっこをしたりと小さい時からの習慣は怖い物で抜けない。
「もうっ!せっかく、ダイエット成功してるのにデブチンになっちゃう」
逃げる志麻子がそこそこ、足が速いが潤も早い。
遅い。
待てど暮らせど、志麻子が来ない。
誠一は車から降りて、腕を組み志麻子を待つがやってこない。
「あれ、誠一殿下じゃない?」
「ほんとだ。皇太子殿下だ」
「誰を待ってるのかしら?まさか、婚約者の志麻子様?」
生徒達はひそひそと会話をするが・・・。
「誠一殿下と言えば、婚約者に塩対応。女嫌いで有名でしょう?」
「そうそう。数週間から数か月で歴代の婚約者が全員、解任」
そんな会話をする中、校門から聞こえる明るい声に誠一は歩きだした。
遠くから、かすかな声でも分かる。
あれは志麻子の笑い声だ。
校門の中を見ると、少し離れた開けたところでシュークリームの箱を手に持った男がニコニコと笑いながら逃げる志麻子を追いかけていた。
「ちょっとくらい太ったって大丈夫だ」
「その一口がデブブッの元!」
「ふっくらしてる方が、鶏ガラボディーより抱き心地いいらしいぞ」
「いやいやいや!それは、人によりけりでしょ!鶏ガラボディの方が華奢で愛しちゃうっていう殿方も世の中にはいるわ」

なんだ?あの、楽しそうな姿は。
誠一はこぶしを握り締めた。
あの男・・・殺す。
誠一は殺気を滲みだす。
しかし、その瞬間。
志麻子を追う男と誠一は目が合ったのだ。
にやっと笑うそんな姿に、誠一は怒りを封じ込めた。
怒っていても、嫉妬に支配されても目的は果たせない。
志麻子は渡さない。
剛崎学園は要人の子息、令嬢が通うだけに入る際には手続きがいるが。
この国の次期王にどこの誰ですかとは門番も聞かない。
「楽しそうだな」
校内に入ると、走る志麻子に声を掛けた。
誠一は静かに焦ることなく志麻子に近づいていく。
誠一の声に、誠一の存在に気が付いた志麻子は誠一に手を挙げた。
「誠一皇太子殿下。シュークリーム、1つ食べない?凄く人気で潤の家のメイドが3時間も並んで買ってくれたんですって」
明るく言う彼女の笑顔に誠一の真っ黒な心に一点の光がさした。
それは、嫉妬に支配された心を打破するには十分だった。
更に、ニコニコと笑いながら走ってくる志麻子をふわりと抱きしめる。
「ほれほれほれ。シュークリーム」
潤はそんな二人にお構いなしにシュークリームのたくさん入った箱を差し出した。
「駄目よ!」
ふふふっと無邪気に笑う志麻子はくるっと誠一の腕の中で回すと、シュークリームを箱の中から一つとる。
「はい。誠一皇太子殿下」
そう言って誠一の口もとにもっていくと、誠一はそんなシュークリームを一口食べる。
「・・・甘い」
「でっしょ!甘いでしょ!甘いは神!甘いは正義!甘いは愛よ」
ふふふっと声をあげて笑う志麻子は誠一の一口食べたシュークリームをじっと見つめた後、自分もその続きを食べだした。
「美味しい~!1個じゃたらない!」
「だろ?」
仲のよさそうな二人に再び誠一の心は嫉妬に支配される。
こんな風に志麻子とじゃれ合ったことがない。
「どうしたの?ごめん、食べたかったよね」
志麻子はそういうと潤の持っていたシュークリームをもう一つとろうとするが・・・。
「違う」
否定をされ、手を引っ込めた。
どうしたの?っと見上げる志麻子は可愛い。
「甘い物そんなに好きなのか?」
「大好きよ」
“大好き”
その言葉が甘い食べ物ではなく、自分に向けられていたらどれだけ幸せか。
誠一は潤を敵視するように見ると、潤はにやりっと笑うと志麻子の頭を撫ぜる。
「じゃあ、またな」
そういってシュークリームの箱を志麻子に渡すと彼は志麻子の耳に自分の口を近づけた。
「歴代の婚約者は数週間から数か月で解任。はまり込むなよ」
低く唸るように言うと、志麻子は笑顔のまま一瞬だけ固まりシュークリームの箱を抱きしめた。
分かってる。
私も数週間から数か月で解任される婚約者。

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