指さし婚約者はいつの間にか、皇子に溺愛されていました。

湯川仁美

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第二章 動き出す関係(溺愛

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志麻子とマイサラン・ディの2人分の驚く声が上がる。

「マ、マイサラン様。私がジュースと間違えてお酒を飲んでしまって、殿下は保護者的な意味で責任感を感じているようなのです。未成年を放置して、酔わせるなんて行為云々を置いておいても褒められないですし。マイサラン様。明日、お時間を書面でもいただけないでしょうか?」
志麻子はマイサラン・ディが今日、コーヒー貿易の発端を作ってくれたこともありまだまだ話したい。
誠一は志麻子を放さない。
そんな様子に男女問わず周囲から視線は集まった。

「あらあら誠一王太子殿下はその女性に好意を持っているのかしら?」
「まぁ。自分のお手元に女性をとどめるだなんて初めての事でございますね」
周囲のからの声に志麻子は焦った。
貿易は広げたい。
領地を反映させたい。
けれども誠一の婚約者としてではない。
一人の伯爵令嬢として、誠一にいつでも婚約破棄をされてもいいように立ち居振る舞いたいのだ。

「誠一は彼女をいつ解放するんだ?いつも、数週間から数か月で解任しているよな?」
マイサラン・ディは誠一をまっすぐ見て言う。
彼も一国の皇子。
そして、この様子からしてきっとマイサラン・ディ殿下は誠一殿下と年齢も近そう。
「黙れ」
誠一と仲がいいのだろう。誠一もフランクに答える。
「解放してやれ」
「解放?まるで俺が志摩子を捕えているような言い方だな」
「違うのか?」
マイサランはフランクに志摩子の顔を覗き込みながら重ねて尋ねる。
「志麻子には俺が望んで側にいてもらっている。俺の婚約者をジロジロ見るな」

そういって脇に置く志麻子をくるっと自分の前に立たせるとくるりと向かい合わせその頬に手を置く。
そしてそっとその額に唇を落とした。
「せ、せ、せ、せ、誠一皇太子殿下っっ」
お酒以上に体中の血液が物凄い勢いで全身を駆け巡るのが分かった。
あまりの緊張、驚き、そして羞恥心から真っ赤になり足が震える。

「大丈夫か?」
誠一はクスリと満足そうに笑うと想像以上の反応に目を見開いた目を細めた。
「そろそろ。解散の時間だ。今日は少し早いが失礼する。俺の婚約者はうぶな未成年だからな」
一度に誠一はにこやかに挨拶をするとそのまま会場を後にした。
確かに夜会の解散までは30分ほどでありそろそろ帰りだす人もいたのだが。
全員が足を止めて2人を見ていた。
志摩子を大切そうに抱き寄せながら歩く。

「なっ、なっ、せ、誠一皇太子殿下におかれましては・・・。酔っ払ってます?」
車に乗るなり志麻子は声を上げたが、涼しい顔で車の中であぐらで座る誠一にその声はどんどん小さくなる。
「何をそんなに驚いている?」
「驚いてます!もちろん、驚いています!あなた、だって、女、嫌いでしょう!あっ・・・。分かったわ」
志麻子は声を上げると、ビシッと誠一を指さした。
「あなたロリコンね!」
「はぁ?」
なぜそうなる。
なぜ俺がロリコンになる。
「そっか、そうなのね。幼女が好きなのね」
「女児が嫌いかと聞かれれば嫌いではないが。性的思考がどうのこうのという話であれば否定する」
誠一は面白そうに今まだに頬を硬直させ、少し震えている志麻子を楽しそうに眺める。
「お前どう見ても幼女には見えないが?胸もしっかりあるし酒飲んだからか今は色気もあるぞ?」
「へぇっ」
真正面から褒められ目をぱちくりさせると誠一は足を下ろして腕を組む。
客観的に見てもドレスアップをして、化粧をしっかりしている志麻子は綺麗だった。
初めて会った時は目立たないように存在感を消してたので、大人しそうな娘だと思ったが。
貿易話をとんとん拍子で進める姿。
自分が塩対応をしてもお構いなしにその場を有意義に過ごす姿には惹かれてしまう。

「直ぐに好きになって欲しいとは言わない。徐々に好意を持てくれると嬉しい。成人するまで3年はある。気長に待つ」
誠一はのんびりというとニコニコとしながら志麻子を眺める。
「な、なんですか」
「寝るなり仕事をするなり好きに過ごしていいぞ?家まで2時間くらいはかかる」
王族車は救急車や消防車同様に一般車両はよけてくれるがそのくらいは時間が掛かる。
「あぁ。そうだ。俺に抱き着くなり、上に座るなりして時間を潰してくれても構わない」
「・・・へ?」
「志摩子は軽いからな。おいで」
誠一は真っ赤になる志麻子に両手を広げる。
「未成年に手を出すゲス野郎ではない。良識の範囲内で愛してやる。おいで」
「い、い、いかないわよ!」
「そうか。世の女は金と財力と権力のある一途なイケメン王子が好きだろう?」

「一途」

「あぁ。俺は一途だ。これだと決めた女には優しいぞ」
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