指さし婚約者はいつの間にか、皇子に溺愛されていました。

湯川仁美

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第三章 溺愛する皇子(最終章

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「また頃合いを見てまいります」
淳二は誠一と志麻子を山の頂上で下ろすとは一礼する。
「あぁ」
「志麻子様。もしよろしければお上着をどうぞ」
「ありがとうございます」
淳二は控えているメイドに合図するとメイドは丁寧に志麻子にカーディガンを羽織らせる。
山だけあり辺りは静かで夏だというのに涼しい。

「志摩子様。もう少し厚手の物もございますが?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「礼など不要でございます。志麻子様がお風邪でもひかれましたら、もれなく看病をすると殿下が言い出し公務が滞る。志摩子様の風邪は国の一大事でございますので」

なんだか最近、淳二様も優しいわ。
今までだったら私に声を掛ける事なんてしなかった。
誠一が私を大切にするから、淳二様も私を大切にしているだろうけれど・・・。
本当に誠一に好かれているのかと勘違いしてしまう。
勘違いしていないわよ。
私は今日べたべたして、誠一に婚約者を解任。
さよならする日。
数か月の間、婚約者をして伯爵領は富を得たし。もう十分。

ヘリコプターが去ると志麻子と誠一は山頂から街を見下ろした。
「綺麗だな」
街と遠くには海も見える。
志麻子はそんな誠一の腰の辺りの服を引っ張る。
「これからは私の為に時間を存分に使ってね?」
「言うまでもなくそうするつもりだ」
誠一はそんな志麻子を見下ろす。
ここで期待していた言葉は違う。
“断る"
“そんな時間はない”
そんな拒否の言葉を志麻子は待っていた。

なのに誠一はすんなり承諾する。

「何があったのかは知らないが。志麻子から俺の元に来てくれるのは嬉しい。いつも求められてばかりで志摩子から求められたことはなかった。求めている間に好かれているのだろうかと、不安になっていたから。嬉しい。ありがとう」
志麻子はそんな誠一に顔に思わず顔を伏せた。
これが、本心でなく。
嘘だとしたら。
演技だとしたら、相当に質が悪い。
「どうした?」
誠一は心配そうにそんな志麻子の頬をいつの間にか伝っていた涙を拭う。
「だって・・・。だって・・・。数週間から数か月で婚約者を私も・・・解任されるのに。好きになっちゃってる・・・。最低」
志麻子は顔を覆った。
泣き顔なんて見せたくないし、見られなくない。
この人はこれが・・・作戦・・・?
うんん。
そんな人じゃない。
この人は人の気持ちを弄ぶようなことはしない。
じゃあ・・・。
「好きだ」
小さく呟く志麻子に誠一は膝をついた。

「愛してる」

「馬鹿」
そっと、誠一はそんな志麻子の額に自分の額をつっくける。
「馬鹿?酷いな。・・・俺はいつだって志摩子には真剣に向き合ってきたというのに」
「だって私を見ることなく婚約者に刺したのよ」
忘れたとは言わせないという志摩子に誠一は少し罰のやるそうにするのだが。
「そりゃ、その時は志麻子の事を知らなかったんだから仕方ないだろう」
誠一は開き直るようにいうが、その顔はすまなさそうに志麻子を見る。
「志麻子だって初めは皇子に指示されて拒否権がないから。しゃーなしで俺の婚約者になっただろう?」
「・・・しゃーなしじゃないわ。領地繁栄の為に喜んで婚約者になったわ」
使えるものはなんでも使う。
志摩子は堂々というと誠一は今度は傷ついた顔をした。
「きっぱり言われると傷つくな。俺の取り巻きにいたのに気がなかったのか」
誠一に取り入ろうとする者は数多くいるし、昔からそんなことはわかっていたが。愛する女性には"直感"で愛していて欲しかった。
「だって。私は目立たず、目立たなすぎずがモットーだし。誠一の事を婚約者を取っ替え引っ替え変える男性としか知らなかったんだもの」
口を尖らせながら志麻子は言うと肩を竦めた。

***
山頂から景色を眺めながら、淳二が用意してくれたバスケットの中のおやつを2人は食べる。
「ハイキングじゃなくて歩いていないからピクニックね」
「そうだな」
誠一は頷きながら、志麻子をまっすぐ見る。
「初めの対応は悔やんでいる。きちんと、会話をすればよかった。どの女も同じだと思い込んでいた俺は大馬鹿者だ」
「ふふふ。それは、私もそうよ。領地繁栄だけ考えて、私も仲良くなろうと思っていなかったもの」
「俺も志摩子も打算から始まったのか」
志麻子はそういうと二人は似た者同士だなと笑いあう。

「正式に。俺の婚約者になって欲しい。俺はこれから先、この国を背負って立つ。志摩子には俺が道を踏み外さないように見ていて欲しい。志摩子を大切にする権利を俺にくれないか?」
「喜んで。誠一のたった1人の婚約者にならせてください」
志摩子はそういうとにっこり微笑んだ。
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