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悔恨編
5.
しおりを挟む久しぶりにお日様にあたっていい気分になってしかも今日は俺を愛してくれる人もきた。今日はとても良い日だ。
トップになったのはいいけどそのせいで買われる回数が減ってしまったのは辛い。前にギルにもっと俺に客をいれろ、と抗議したが価値が薄れるとかで許可が貰えなかった。
一緒に朝までいようと誘ったけど男爵はもう帰ってしまうらしい。なんとか引き留めようと着替えの邪魔をしてみたりするけど困ったように笑われあしらわれるだけだった。
困ったような笑顔はなんだか苦手だ。
「そういえば新国家の王ロイ=アドマイヤーと側近のアルフレッド、エリア達に会ったよ。」
それに身体がすこし強ばった。
不安げに男爵の顔を伺う。男爵はニッコリと笑っていた。
「あいつらは光の御子様を探していたようだよ。まさか私たちからこんなに愛らしいミルネスを奪おうとしているなんて許せないね。ミーネもそう思うだろ?」
ここから離れる……?
「っいや!ちゃんと断わってくれた…?」
「もちろん!いいかいミーネ。あいつらはミーネの敵だからね。あいつらは味方の振りをして近づいてきて最後には裏切る最低な奴らだからね、気をつけなよ」
その言葉にあの日聞いてしまった会話を思い出す。そうだ。あいつらは僕の味方だと言いながら結局俺のいないところで俺を貶していた。
「ミーネ。あいつらは碌でもないやつだ。あいつらだけじゃない外は危険だからミーネはずっとここでみんなに愛されていようね。愛してるよ」
「うん…ミーネずっとここにいる。……言われなくてもここより良いところなんてないから。」
そういうと男爵は優しく頭を撫でてくれた。
そうして帰る準備をしていたはずなのにまたさっきまでの行為で緩んでいた俺の後孔をそそりたつそれで穿った。
そうして俺たちは結局朝まで交わった。
「ミーネかわいいね」
「愛してるよ」
「反乱軍は敵だよ」
「ミーネは愛されるべき存在だよ」
「かわいい、好きだよ」
「あいつらを信じては駄目だよ。きっと裏切られる」
ずっと。
ずっと男爵はそう繰り返し続けた。
そうだ。男爵はみんなは俺を愛してくれる。身体の隅々まで愛してくれる。表面だけのあいつらとは違う。あいつらを信じたから俺は裏切られた。
あいつらは───敵なんだ──。
俺に痛みを思い出させ新たな苦しみを植え付けた悪魔。
みんなが俺が協会の帰りに石を投げられたのは石を投げろとロイ達が命令していたのだと教えてくれた。やっぱり最低な奴らだ。
許せない。この俺を愛してくれない存在はこの世に必要ない。ミルネスとして愛してくれる人さえいればこの世はもっと幸せになる。
そしてみんなでこうして愛情行為をするんだ。
そういえばなんでこの職は皆やりたがらないのか。こんなに幸せな仕事ないのに。不思議だ。愛してくれる人を皆は嫌っているらしい。それどころかこの行為すらも。
変なやつらだ。
愛してくれる人はお宝なのに。
「ミーネまたくるからね。さっき教えたこと忘れるでないぞ?」
「うん。大丈夫。覚えたあいつらは俺の敵だ。」
何度も繰り返された。
「ロイ達は俺の敵だ。」
「ミーネはずっとここにいるんだよ」
「信じてはだめ」
だんだんとそれは真実のように感じ出す。
ロイ達は敵……信じてはいけない…
そう考えれば考えるほどロイ達と過ごした日々が偽物に感じ始める。
あの時の笑顔も?あの行為も?あのお話も?
全て偽物……?
「ミルネス様?湯浴みに参りましょう」
お付の禿のヒルハが男爵の帰ってしまった部屋に入ってくる。
こいつは?こいつも信じたらダメなやつ?偽物?
「ミルネス様?」
「お前はどっち?」
「へ……?」
「お前は信じても良い奴か?」
小さく目を見開きヒルハはそのあと悲しそうに笑った。
「……はい。どうか信じてください……」
──やめろ。
その笑い方をするな。それは俺を裏切った奴らの笑い方だ。
お前もやっぱり口だけなのか。
そう思ってるはずなのに。
「……わかった。信じる。」
なんて矛盾した言葉が口から出てしまう。慌てて訂正しようとしたが遅かった。
「ありがとう存じます…」
ヒルハは嬉しそうに笑った。
何故信じるなんて言ってしまったんだ。男爵の言葉の通りに行動しないといけないのに。なんであんな行動を……
困惑する俺とは正反対にヒルハは普段よりも機嫌がよかった。
その様子をみて俺は自分を納得させることにした。
ずっと傍にいる奴なんだからお世辞でも愛されるべきだから。
一人でも多く愛想を振りまいておくべきだから。
まるで言い訳のような理由をつけては満足した。
ちゃんと男爵の言い伝えは守ったし愛してくれる人を増やすこともできた。
完璧だな。
俺はもう、俺と俺を買う人、……一応ヒルハも。それ以外は一切信じない。
俺を裏切る奴は必要ない。
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