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悔恨編
28.
しおりを挟む初めて街に降りた日から二月が過ぎた。
初めは少し期間をあけて向かっていたが最近では頻繁に向かうようになった。それでもフードを深く被ってという状態には変わりないから街の足元付近しか見えてはいないのだが。
だが俺はそんなものよりも甘味に取り憑かれてしまったのである。
初めて感じる甘い、という味覚。
初めて食べたけぇきは俺の心を鷲掴みにした。
けぇき、くっきぃ、ぷりん、どぉなつ。
あのお店には多くの甘味があった。どれも俺が食べたことも無いもの。ヒルハも食べたことがなかったらしい。2人して初めて食べたけぇきに打ち震えたものだ。
それからはヒルハは一切俺を止めることなく、逆に俺を街に誘うほどに俺たちは甘味にやられた。
「ユルハ様!!とうとうこの日がやってきましたよ!!」
「ああ!!いくぞ!!ヒルハ!」
「はい!ああ、楽しみです!」
頬を朱に染め、満面の笑みを浮かべる青年もまた俺と同じコートを着て、既に玄関前に立っていた。
そう、何を隠そう今日は1週間前から楽しみにしていた新作発売日なのだ。
店主は何故か俺たちのおかげで新作が作れたなどとよく分からないことを言ってくれたりよく代金をまけてくれる。
そして何故か他のお客さんも当たり前のようにその光景を見ているんだ。
普通なら俺達もまけろ!とかなるんじゃないかと心配したがフーレ子爵領の人達はみんな優しくて逆にお菓子をくれたり挨拶してくれたりする。ヒルハに聞くと皆とても笑顔らしい。
俺たちは甘味もだがあの街自体が好きになった。
フーレ子爵は呆れたように「この人たらしが…無意識に愛を求め愛したな…?」とかぶつぶつ呟いていたが最近では何も言わなくなった。ただ絶対フードを取るな、とは厳命されたけれど。
「ああなんだかここまで砂糖の匂いがする気がします…!!」
「はやくいこう!なくなってしまうかもしれない!」
「っああ、待ってくださいよー!」
もう見慣れた門をくぐり抜け跳ねるように店へ向かう。フーレ子爵領はそこまで大きい街ではないらしいので甘味処は一店舗しかない。ただその分とても大きな建物であるし、王都でも有名な店らしい。
何度も訪れた白い扉をヒルハが開くと同時に鼻腔を砂糖の香りがくすぐった。
「あら!妖精様!!よくおいでなさいました!!」
「新作!新作はまだありますか!?」
「ふふふ、もちろんです。それにちゃんもお二人の分を残して置くつもりでしたよ」
「あぅ……あ、ありがとうございます」
まるで子供のように新作の所在を尋ねたヒルハは耳まで真っ赤にして恥ずかしそうにコートの裾をギュッと握った。
その愛らしい姿に店にいたお姉様方がやられた。
フードを被っていないヒルハはやはり深くフードを被っているユルハよりも好感度が高い。
だがお姉様方は二人揃った時の破壊力も知っていた。
今だって──
真っ赤になったヒルハのコートをギュッと握るユルハの姿は街のお姉様方に加護欲を沸き立たさせた。
2人ともおなかいっぱい食べて成長することもぐっすり夜に眠ることもなく、どちらかと言うと夜に活動して朝寝る仕事だったので背が伸びなかったのは必然だろう。
平均身長の女性店主の目の前にいる彼らは店主より頭一つ分背が低かった。それにヒルハはどこか中性的な整った顔をしている。そして藍色の髪のため貴族の血が入ってると分かる。
そのどれもがヒルハとユルハの価値を高めた。
甘味が好きな可愛らしいお忍び貴族の兄弟、のような立ち位置で2人は見られていたのである。2人が来ると幸運が続くのも事実だが街の人達とて本気で妖精だとは思っていなかった。
「はい、こちら新作のチョコレートパフェといちごパフェです」
「「わぁ……!!」」
席に案内され、二人の前に差し出されたのは見たこともない形をした甘味だった。砂糖の匂いはほとんどしない。それなのに甘そうだと分かる。
「これが新作のぱふぇ…」
「…あとで1口頂戴……」
「もちろんです……私にもくださいね」
「当たり前だろ……」
そんな会話をスプーンを握りしめて行う。
ドキドキと逸る気持ちをおさえゆっくりと震えるスプーンをツンとたったソースのかかったくりーむとあいすを救う。
そっとヒルハを見ると同じ状況だった。
俺たちは強い意思に彩られた瞳を交差させたあと力強く頷き、そしてゆっくりとそのスプーンを口に入れた。
甘い
そして柔らかい
なのに砂糖をふんだんに使ったような匂いはしない。
ひんやりとした今までとはまた違った甘さ。
「「ッッッ───!!!」」
フーレ子爵領ほんと最高!!!
一生ヒルハとここに住む!!
応援ありがとうございます!
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