君の名前を教えて

夜瑠

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third

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いつもと変わらない夜。

しかし、エルはなんとも言えない違和感を感じていた。

今日は珍しくラルアが王に呼ばれて謁見しに行ってからどこかラルアの様子がおかしかった。

また俺のことで何か言われたのだろうか。
けれどどこか儚い様子の中に諦めも見えた。あいつは何を言われたんだ…?


腹の奥で何かがざわざわと蠢く。エルは中々寝付けなかった。




同刻。

ラルアは戸惑っていた。

毒を飲めと言われたがその毒は誰か従者が持ってくるのか自分が王のところまで取りに行かなければならないのか。
もしくは暗殺は今日ではないのか。

何時まで部屋で待っていても一向に毒らしき物を用意される気配がない。


このまま夜が明ければ良いと思った。


しかし毒を渡し忘れるなんてことあの王がするはずがなかったのだ。



「…………っかは…!?!?」


腹が焼けるように痛い。目の前が回る。頭が鈍器で殴られたように痛い。痛い。痛い。痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、熱い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、熱い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、熱い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。熱い。




嗚呼、これが毒か。




どうせ夕餉にでも混ぜていたのだろう。
痛みで意識を失いそうになりながらもラルアは何とか立ち上がり自分だとバレないような肌を一切見せない服を着て剣を持った。


ただそれだけの行動にどれだけの時間を要しただろうか。



このままエルの元へは行かずここで息絶えてしまいたい。


けれどそれでは駄目だ。王の命令だからではない。

ラルアが最期にエルに看取られたいから。
これはただの我儘だ。最愛の人に殺されたい。あんな下衆の用意した毒じゃなく。


剣を握りしめ覚悟を決める。ラルアの身体を支配する痛みはだんだん強くなっていく。


しかし、目を閉じて一度大きく深呼吸し、ゆっくりと目を開けた顔は闘技場での姿と何ら変わらない落ち着いた剣士の様であった。



激痛をいなし、ラルアは足早にエルの部屋に向かった。

毒が身体を完全に蝕んでしまう前に。






何とか寝ようと努力するもエルは未だ寝付けて居なかった。
それどころか先程よりも謎の不安は大きくなっていく。


目を閉じて何も考えないようにしても胸の奥のざわめきは抑えられない。


煩悩滅殺には素振りが1番だ。

そう考えエルは部屋の入口付近に置いてある刀を取りに行った。木刀が1本、真剣が2本置いてある。どちらを使うかエルは少し考えた。


少し迷ったがエルは木刀を手に取った。

それと言うのも先日部屋で素振りをする際、真剣を使って部屋の物を切り刻んでしまいラルアにこってりと絞られた所だったのだ。



素振りを10回ほどしてエルは足元に真剣を用意しておいた。


何か嫌な予感がする。どんな、とは言いきれないが何かとてつもなく嫌な予感が。



そしてすぐにその予感は当たった。


誰も来ないはずの扉が一気に開き黒服の男が真剣を持って斬りかかってくる。


突然の事で何が何だか分からないままエルは手に持っていた木刀で剣をいなす。

しかし、その一撃で鍛冶屋に特注で作らせた普通の木刀の5倍は硬い木刀が一気にスパッといってしまった。



誰だ、何だと考えるよりも先に無意識にエルは呟いていた。


「……………………………ラルア………?」



ラルアは驚いた。今の一撃で自分だと分かる要素があっただろうか。鏡でもちゃんと見てきた。それでも自分だとわかるところは背丈くらいしかないはずだ。



今の一撃もわざとラルセントの型とは違うものにした。



なのに、何故…?



エルもまた驚いていた。

何故自分は急にラルアだと思ったのだろう。剣の癖も全く違う。第一ラルアが自分を暗殺にくるはず──


そこまで考えてエルは一つ気づいた。

王に呼ばれてからずっとラルアの様子がおかしかったのは暗殺を命じられたから……?



攻撃を続けるか一瞬悩んだラルアだったが完全にバレた訳じゃない。ならば、気づかれる前に殺されたい。

ラルセントの型は基本的に守りの型だ。味方を守るための型。愛する人を守る型。自分を守るための型。

守るための攻撃。何一つとして自分や味方を危険に晒す型はない。それ故に相手と距離をとる戦い型が多い。


しかし、そんなことをしていてはエルに殺されることが出来ない。

(…この戦い方は得意じゃないけど、仕方ないですね…)

ラルアは型を捨て、安全を捨て、一気にエルの懐に走った。



エルは急な刺客がラルアとどこか似ているのに型が違うことに戸惑っていた。

ラルアは呪いについて、例えば真名を言うなってことと同じくらい、ラルセントの型に絶対的誇りを持っていた。もし、こいつがラルアならそこまでして俺を殺しにくるのか?最強の型を捨てて?

親父になんて言われてもあの型を捨てることはないと思うが…



そんなことをぐるぐると考えながら真剣を構えたと同時にそいつが距離を縮めてきた。

ラルアだと思い無意識のうちに接近戦の可能性を捨てていたエルは動揺し反応が遅れた。

(…やばい!!やられた!!)





しかし、近づいた刃はエルに届かなかった。


エルの腹に剣の切っ先を突きつけたまま、ラルアは激しい痛みに朦朧としながらも力を加えることが出来なかった。

6年間ずっと寄り添ってきたのだ。今更殺せるはずがない。


エルは死を覚悟した直後になかなか襲ってこない痛みに確信した。


「…ラルア。…お前ラルアだろ……」


返事をする前にラルアは倒れた。

「おい!?おい、ラルア!!どうした!!…!?お前、なんだこの熱さは…何か飲まされたのか…?!」


エルはラルアを抱き上げ、顔を隠していた布をとる。ラルアの身体は燃えているかのように熱かった。

尋常ではない痛みが身体中に走る。もうエルがなんて言っているかもよく分からない。


「エル様…エルリカ・エルスワード様……」

「なんだ!?どうしたんだ、ラルア!!」


噛み締め確かめるように呟いた。そう、私が身も心も全てを捧げお仕えした最愛のご主人様。

きっとこの名を呼ぶのも最期になる。

楽しくて幸せな6年間だった。


「…エル様は……すぐ油断します……そこ…を治しましょ、う……エル様は…す、ぐに……さぼり…ます…鍛錬あるのみです……エル様は…」

「…もういいよ…喋らなくていい…!!」

「すぐ、好き嫌い…を…しま、す……食料の……たい、せ…つさを…学び、ましょう…エル様、は…」


「…お願いラルア…!!そんな…これで最期みたいな言い方すんじゃねぇよ!!俺が1人前になるまで見届けるんじゃなかったのかよ…!!」

涙なんて久しく流していなかったのに今は次々と溢れてくる。そうして腕に抱いたラルアの顔すら濡らしてしまう。



「エル様、はいつも…私に…しあわせを…くれ、ます…」


「………え……?」


ラルアはふんわりと微笑んだ。

「なか、ないで…私は…あなたの、笑顔がす、きだ…から…」

ほら、笑って?エル様。
いつものような無邪気な笑顔が見たい。意地悪な笑顔が見たい。キスした後の優しい笑顔が見たい。



エルはぎこちなく口角を上げた。笑顔を作ることは得意なはずだった。なのに、どうしてかこんなにもぎこちなく不出来な笑顔になってしまう。

ラルアが望んでいるのに。


それでもラルアは満足だった。エルが笑ってくれた。最期に笑顔を見ることが出来た。


それだけで幸せだった。

死にたくないなぁ。もっとエル様といろんなことしたかったなぁ。……怖いなぁ。



生まれて初めて、少なくとも独りになってから初めて死を怖いと思った。



こんなにも愛しているのに私はこの人のこれからを見ることが出来ない。

それがこんなにも苦しい事だとは思ってもいなかった。



嗚呼、まだ死にたくない。








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