11 / 11
番外編2.
しおりを挟む今代王家は歴代類を見ないうつけの代だと言われている。
幼い頃から多くの使用人や家庭教師達に「どうか貴方だけは真面に育ってくれ」と懇願されて育ってきた。
留学先で見つけた恋人を正妃にした前代未聞の王の父上。
男の身でありながら正妃の座についた王妃様。
婚約者の座を奪われた常に冷静、無表情の側室の母上。
絵を描くことに人生を捧げてしまったサファ姉上。
植物に魅力されてしまったチナリィ姉上。
料理人になると豪語するアル兄上。
騎士として国に尽くすというジオ兄上。
誰一人として真面に王族としての役目を果たすつもりがないのかと言いたくなるような奴らばかりだ。我が兄弟達は全員が趣味に生きて趣味に死にたいらしい。
全員全力で取り組むから最高水準の知識と技術が伴っていることもまた事態を深刻化させている。
お陰様で普通なら回ってこないだろう王位継承権3位の僕が現在最有力候補として貴族たちに持ち上げられている。
事の始まりはサファ姉上の小さな反発からだった。幼かった姉上は父と正妃を恨み彼らの望まないことをしてやろうと考えた。そのために数々の悪戯を敢行している中で城の廊下にペンキで落書きをした。
それが思ったよりも心に刺さりいつの間にか悪戯心より作品を完成させたい気持ちが強くなった。
もちろん頗る怒られたのだが母上だけが好きなようにやれば良い。ただ壁や廊下は流石にダメだからキャンバスに貴女の思う世界を描きなさい。と仰られてから絵描きにのめり込んでいった。
大体他の兄弟も似たような感じだ。
母上だけが認めてくれた。
母上だけが褒めてくれた。
母上だけが理解して下さる、
そうして母上の許可の元奴らは次々に王族教育を放棄していったのだ。
「キースセリオ。」
不意に母上が僕を呼んだ。
「はい。母上。」
「何か悩みはありますか。」
「……兄上達が趣味に生きていることです。」
ついムスッとして言ってしまうが母上は変わらぬ無表情でそうか、と答えるだけだった。
「貴方の趣味はなんですか?」
「は?僕の?」
趣味。そんなもの特に思いつかない。帝王学や王族としての教養を他の兄弟の代わりに詰め込まれたから他のことをする暇などない。
難しい顔をして考え込んでいると頭にポスっと母上の細く小さな手が乗っていた。
撫でる、というより置いた、という感じがする。
「貴方の好きなように生きればいい。周りの人達と同じように趣味に生きれば良いのですよ。」
「そうは言っても…僕がしっかりしないと……」
「趣味で息抜き出来ないほど切羽詰まった人に民は着いていきませんよ。余裕を持ちなさい。」
その言葉は僕に大きな衝撃を与えた。そんなこと誰も言わなかった。皆押し付けてくるだけで、息抜きなんて教えてくれなかった。
僕も姉上や兄上みたいに楽しく生きて良いのだろうか。僕は真面にならないといけないのではないのか。
チラリ、と母上の目をみると無表情の顏に浮かぶ瞳は不安そうな僕を写していた。
「意志を持って生きなさい。」
その言葉は意志を奪われ続けて生きてきた彼女の無念と憧憬のように思えた。
何年も後、今代王家は歴代類を見ない黄金期だと言われることになる。
国境を越え恋人を愛し続けた王。
多くの差別に晒されながら王を支えた王妃。
天才を育て上げた稀代の才媛の側妃。
芸術家の市民権獲得に貢献した第一王女。
特効薬を幾つも創薬した第二王女。
食文化の向上に生涯を捧げた第一王子。
存在だけで他国が恐れる剣豪の第二王子。
そして、それら全ての兄弟を正しく扱い民の生活を1番に考え善政を敷いた後の賢王、第三王子。
今でも国には第三王子の口癖であったと言われる「意志を持って生きなさい」という言葉が広く知られている。
11
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
【完結】その約束は果たされる事はなく
かずきりり
恋愛
貴方を愛していました。
森の中で倒れていた青年を献身的に看病をした。
私は貴方を愛してしまいました。
貴方は迎えに来ると言っていたのに…叶わないだろうと思いながらも期待してしまって…
貴方を諦めることは出来そうもありません。
…さようなら…
-------
※ハッピーエンドではありません
※3話完結となります
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
側妃さまの救済をお願いします。
番外でも、
子供達が立派に育ってよかったです。
先王と王妃やその他、の理不尽にもざまぁwwwwがあればよかったかな!?
愚王と正妃のざまぁwwwwもあれば、尚良し。
なんですが、
子供達が反抗してくれてるようなので、
ちょっとスッキリしました。
切なくて、感情移入しちゃいました。
感想ありがとうございます!
ざまぁ要素今回は入れられなかったので他の作品で入れられるよう考えてみたいと思います!
今後もよろしくお願いします。