10 / 11
番外編.
しおりを挟む私はこの国の第一王女として生まれた。
王位継承権は第4位。弟3人の次だ。余程のことが無い限り私が王位につくことは無いだろう。
そのためにお母様は男児を3人産んだのだから。
現在の正妃は前代未聞の男の方だ。そして隣国の方でもある。
幼い頃はその理由がよくわかっていなかったが最近漸くわかってきた。城のメイド達がお喋りしているのを聞いてしまったのだ。
「身体で誘惑した男」
「男に負けた人形」
「生きた愛玩人形」
それらは恐らく正妃様と側室である私のお母様のことだ。
お母様はいつも無表情だ。
何を考えているのか全くわからない。
けれど1度だけ聞いたことがある。
あれはまだ私が5歳の頃、お母様にお父様とデートをしたことがあるか聞いた時。今思えばとても残酷なことを聞いてしまった。
どんな顔をしていたのか覚えていないがその日の夜にわざわざ私の部屋に来てくださったお母様とお話をしたのだ。そんなこと1度もしたことがないのであれから3年経った今でも覚えている。
「サファ。よく聞きなさい。」
「はい。お母様。」
「これから何があっても笑って泣いて、感情を表に出して生きなさい。王族らしくなくても良いからしたいようにして生きなさい。自分で考えて行動しなさい。母のようになってはなりませんよ。」
いつもの様にお母様は無表情にそう言った。控えていたメイド達は驚いていた。
私にはお母様が何を言いたいのかよくわかっていなかったがとりあえず返事はしておいた。
その時にお母様はとても安心したような顔をしたのだ。
初めて母を人間だと認識した日だった。実の母ではあったが私はお母様が苦手だった。
何があっても表情が変わらずいつも背筋が伸びた人間味のない人。いつも王妃様やお父様に頭を下げている。
弟の婚約者の王妃教育が2年前から始まった。まだ3歳の小さな女の子が毎日毎日泣きながら厳しく叱責されているのを見た。最近ではその子も表情が乏しくなっている気がする。
私はこの子が過去のお母様だと思った。お母様もこうして小さな頃から育てられたのだ。それなのに正妃の座を奪われた。私達を産むためだけに側室になった。
私の母の人生の一端を知り絶望した。
お母様はこんな小さな頃からお父様のために育てられたのにお父様は王妃様と幸せになってしまったの?
物語の中の支え合って生きていく王子様とお姫様の理想が崩れ去ってしまった。
同時に王妃様とお父様が恨めしくなった。
3人目の弟が生まれてからお父様はお母様と会わなくなってしまった。お母様も離宮から動かなくなってしまって最近はよく私を抱きしめる。
お母様は私を抱きしめるのがとても苦手だ。妹のチナリィも言っている。とても不慣れでいらっしゃると。きっと抱きしめたことも抱きしめられたこともないのだ。
私はお母様がいつも口にする言葉が嫌いだ。お父様と王妃様も嫌いだけどこっちの方が嫌い。ついでに小さな頃2人に懐いていた自分も嫌い。
でも、
「貴方達は幸せに笑って生きなさい。」
お母様のこの口癖がやっぱり一番嫌い。
私達が幸せになってもお母様は冷たい離宮で不幸になっていくのですもの。
お母様が今からでも幸せになってくれることを私は願うの。
1
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
【完結】その約束は果たされる事はなく
かずきりり
恋愛
貴方を愛していました。
森の中で倒れていた青年を献身的に看病をした。
私は貴方を愛してしまいました。
貴方は迎えに来ると言っていたのに…叶わないだろうと思いながらも期待してしまって…
貴方を諦めることは出来そうもありません。
…さようなら…
-------
※ハッピーエンドではありません
※3話完結となります
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる