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8.
しおりを挟むそれは所謂デートというやつなのだろう。
私には永遠に縁のないものだ。
「とーのり?なぁにそれ楽しいの?」
「あぁ、楽しいよ。だからごめんね王妃様はパパが独り占めしてしまってるんだ。」
「ずるいわ!!サファも連れてって!!」
またサファが怒ったように頬を膨らませる。
陛下はサファを揶揄うように頭を撫でた。
「すまんな。2人っきりでデートだから。」
その言葉にサファは一瞬驚いてすぐに瞳をキラキラと輝かせた。王妃様は照れたように笑っている。
「デート!!デートするの!?サファともデートして!!」
「ははは、また今度な。行くぞジル。」
はしゃぐサファをそのままに陛下は王妃様の手を取って歩いて行ってしまった。
すごいすごいとサファははしゃいでその背を見送っている。
「行きましょう、サファ。アルとジオが待っているわ。」
「はい!お母様!!………あ、ねぇお母様。」
「なんですか?」
キラキラとした目のままでサファは私に尋ねる。
「お母様はパパとデートしたことあるの?」
繋いでいた手をつい強く握ってしまった。
「お母様?」
不思議そうにサファがこちらをみる。
サファはまだ私の立場や王妃様と陛下がどのように知り合ったのかを教えられていない。
サファの嫁ぎ先が決まっていないからだ。
他国に嫁ぐのならばその国に望まれるように育てなければならない。この国で嫁ぐのならば王家のものとして自我を持って育てなければならない。
自我を持てないのは王太子妃と側室だけなのだ。
王女達は自我を持たなければならない。
「……母は…デートしたことないですね」
「どうして?お母様とパパは恋仲だったのではないの?」
なんて残酷なことを聞くのだろう。後ろに控えている侍女が息を飲んだのが分かる。
「……大きくなったら教えてあげましょう。ほら弟達に会いに行きますよ。」
「えぇー!どのくらい大きくなったら教えてくれるの?」
繋いだ手を振りながら不満そうにサファが尋ねる。
「私の背を追い抜いたら教えてあげましょう。」
「そんなの何年かかるかわかんないよぉぉ!」
無邪気に笑うこの子から笑顔を奪いたくないと思う。私のように自我を否定され続けるのは良い結末を生み出さない。
あと1人、男児を産めば本当に私の存在に無くなってしまう。
その時私はどうやって生きていけば良いのだろう。
いっそ自死してしまおうか。
いや、王家の許可なく側室が命を断つべきではない。
子供はすぐに大きくなり私の元を離れるだろう。今だってほとんどは乳母が世話をしているのだ。
子供たちに私からできることなどない。
では私はどうすれば良いのだろう。
今日も私は存在価値を探しながら生きていく。
fin.
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