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愛するつもりならありますから
06. 妙な方向からでも伝わるものはある<1>
しおりを挟むディアナは全くもって納得がいかない。
隣国は、文字どおりお隣である。
辺境伯家同士が隣接しており、ディアナん家の領地から一歩足を踏み出せば、そこは隣国である。
だけど、辺境伯領を走る国境線を越えることはまだ認められていないんだそうで、入国審査など正式な手続きが行える場所を経由する必要があるとか何とかで、隣国に入国するには物凄い遠回りをしなければならないらしいのだ。
すんごいアホらしい。
「技術支援の前に、そっちやるべきじゃない?だって隣だよ?見えてるよ?」
「それはごもっともだが、いつ魔獣に襲われるかもわからない場所に検問所を作れば、その管理は結局のところ辺境伯家がやるしかなくなるぞ?出入国の審査やら検疫やら…やりたいか?」
「ごめんなさい無理でした…」
たった一歩のことなのに、正式な出入国というのは、とてつもなく面倒くさいらしい。あ~やだやだ。
ディアナん家は、勝手に国境線を越えてくる不法入国者が極々稀にいた場合に、問答無用で追い返しとくくらいがちょうど良さそうだ。
そもそも、辺境の国境が壁もなくなあなあになっているのは、魔獣の森の側を通りたい人間がキホンいないということと、魔獣がどっちの国の領土に出没したのかを曖昧にしたい(できれば向こうで倒して欲しい)という、主に隣国側の下心があってのことらしい。
まあ、このへんキチキチやろうとすると、魔獣対応に苦心しているその他各国ともギスギスしてくるらしいので、ディアナん家は全然このままでいい。
ということで、遠回りの長旅をしながら隣国入りしたラキルス・ディアナ一行は、まずは王都に向けて進んでいた。王族の正式訪問ではないので式典や歓迎パーティーは開かれないものの、王族との会食などは予定されているらしい。
入国した瞬間から、待ち構えていた隣国のコーディネータが、必要な手続きやら宿の手配やら手厚くフォローしてくれて、もちろん王都までの道のりも甲斐甲斐しくお世話してくれて、観光名所やおススメスポットの案内も抜かりなく、至れり尽くせりの新婚旅行を満喫していた。主にディアナが。
「これはライン下りと申しまして、激流をカヌーで下るという体験型アトラクションと申しましょうか…」
「やります!」
「そうだな」
「こちらはジップラインと申しまして、高所に張られたワイヤーロープを滑車を使って滑走するアトラクションのようなものと申しましょうか…」
「やります!!」
「…うん」
「こちらはバンジージャンプと申しまして、高所から飛び降りるスリルを味わうというアトラクションと申しましょうか度胸試しと申しましょうか…」
「やりますっ!」
「……やるのかぁ……」
「こちらは」
「やりま~っす!!」
「いや、まずは聞こう?内容を聞こう?」
当初の目論見どおり、ディアナはラキルスを巻き込んでアクティブに動きまわってはいるが、ラキルスの若々しさを引き出そうとしているというより、ただ単に自分が楽しんでいる感が否めない。
「楽しいねラキ!ね!」
ディアナの中では、『ヒヤヒヤハラハラ』は『ウキウキワクワク』と同義語なので、もう、あれもこれも楽しいしかないのだが、もちろんラキルスはそうではない。
「ライン下りは順当に楽しかったし、ジップラインも風を切る感覚が思いのほか心地よかったし、自分が高い場所に恐怖心を覚えないことが分かったのも収穫ではあったけど、バンジージャンプは普通に寿命が縮まったかな……」
ちなみに、レッツバンジーの際、案の定と言えばいいのかラキルスが叫び声をあげることはなかった。「あははは~」と能天気な笑い声をあげる怖いもの知らずな妻の手前、情けないから堪えた…とかいうことでは全くなく、身も心もカッチコチに固まっていて、声にならなかっただけのことだった。
王都のハイスペ・イケメンも、現実はこんなカンジである。
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