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愛するつもりならありますから
11. いらぬ心配されど心配<1>
しおりを挟むそうこうしながらも、ディアナとラキルスは、隣国の辺境伯領へと到達した。
辺境伯領に広がる景色は、普段ディアナの家から見ているそれと大差はないはずなのだが、それでも何だか印象が異なっている。
魔獣の森も、ディアナが日頃見ているものよりも鬱蒼としているように感じるのは気のせいだろうか。見る角度が異なるだけで、そんなに変わるものなんだろうか。
広大な魔物の森の周囲には、もちろん民家はひとつもなく、ただただ草原が広がっている。
魔獣の森から十分に距離を空けたところから濠的な意味もありそうな水田が出現しだし、その先に監視用の櫓と、防御壁も兼ねていると思しき石造りの建物が出現する。
草原は手入れをされていないことが明白で、草は伸び放題だ。
草が薙ぎ倒されていくことにより何かが接近してきているってことは把握できるんだろうが、迫って来ているものの正体は全く把握できない。
もしかしたら人間が迷い込んでたりする可能性もあると思うのだが、めくらめっぽうに攻撃するつもりなのだろうか。
草原は魔獣の森の一部みたいな扱いで、水田に突入したあたりから迎撃態勢に入るってことだろうか。
でも、水田には鴨か何か住みついているようで、あっちこっちで稲が不規則に揺れているわ、水音や羽音、稲のそよぐ音が鳴り放題だわで、容易く魔獣の接近を許してしまうようにディアナには感じられた。
防御壁もどきもお粗末に見える。せめて隙間なくみっちりと立ち並んでいれば効果もありそうなのに、ところどころ途切れているのだ。ごく僅かに隙間が…とかいうレベルではなく、完全に道と言えるだけの幅がある。ここに魔獣を誘いこんで一網打尽にしたいのなら、その先は袋小路にしておくべきだと思うのだが、そんな小細工もしていない。突破されたら領地の奥に入り込んでしまうだけな気がするのだが、その対策が取られているのかも怪しい。
もしかして、そもそも防御壁的な意味はなく、家が壊れにくいように頑丈に作っているだけのお話なのかもしれない。その方がむしろ納得がいく。
(う~ん…?イマイチここが最前線って気がしない…)
ディアナの家は、攻めの意識が猛烈に強い。
『攻撃は最大の防御』というヤツである。
がっつり守りを固めるよりも、如何に速やかに魔獣の出現を把握して、どう効率よく仕留めるかに重きを置いている。
好戦的なだけという説もあるが、ちゃんと機能しているから、とりあえずこれでいい。
だから、出現源である魔獣の森の近辺は定期的に野焼きして見渡しが良いようにしているし、魔獣の森の境界付近の木はなるべく切って、入り口付近くらいは見通せるようにもしている。
ディアナの家の辺境騎士たちは、魔獣の森に踏み入ることにも躊躇がなく、入って少々のところまでは馬に騎乗したまま偵察できるくらいには整備もしており、そこそこちゃんとした道が出来ている。
だから、魔獣の森付近の印象が異なるのは当然なのかもしれない。
そんなことを思いながら櫓から魔獣の森を眺めていたディアナは、魔獣の森方向からこちらに向かって、草原の草が一直線に掻き分けられていっていることを確認した。
ディアナはすぐさま櫓から飛び降りると、田んぼの畦道を走り出す。
「ディアナ!?」
驚いて声をかけるラキルスに、ディアナは振り返りながら指示を飛ばした。
「魔獣出現!二時十一分四十八秒の方向から、分速およそ二千二百メートルで接近中!ラキは警報鳴らしてもらって!」
「え、分速!?」
「そう、すぐ来るよ!あのスピードは魔獣で間違いないから、こっちの辺境伯家の人に武器持って集まってもらって!わたしは時間稼いどくから!」
武器も持ってないクセに先陣を切るディアナに、さすがにちょっと思うところはあるが、でもそれがディアナなので、ラキルスは言葉を飲み込んだ。
ディアナを止めようとするよりも、武装した騎士に速やかに駆けつけてもらった方が、たぶん被害は最小限に食い止められる。
そう割り切ってしまわなければ、ディアナの夫はやってられないのだ。
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