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愛するつもりならありますから
18. ヤツの正体(仮説)<2>
しおりを挟む「我が頭脳ラキ、捕縛方法を伝授してください」
「現状これといった被害が出ているわけではないし、まずは様子見でいいんじゃないか?シンプルに生け捕り用の罠あたりからやってみるのはどうだろう」
足くくり罠的なヤツなら後遺症の心配もいらないし、かかったら木に吊るされるように仕掛けをかましておけば、すぐに罠を外すことは難しい。意外と良い案なような気がする。
この地に何か目的があるのか、単に帰巣本能なのかは分からないが、火祭りの後ここに帰ってきていることから考えても、きっと奴はまたここに戻ってくる。
それなら、罠を張って待ち構えるのはセオリーってものだ。
ということで、
隣国辺境伯領の方々が間違って罠にかかってしまったらいけないので、事前にしっかり領民にも通達してもらった上で、ディアナが選んだポイントに罠を仕掛けることにする。
罠は複数箇所に仕掛けることになり、まずはさくっと一箇所目の設置を終えたディアナは、ラキルスと二人で次のポイントに向かっていた。
いつでも魔獣と対峙できるように備えておかなければならないことを痛感したディアナは、今度はしっかり装備を貸してもらって来た。
ディアナの真骨頂・弓矢はもちろんのこと、手近に投げられるものがないケースに備えるため、ベルトポーチには目いっぱい乾燥豆を詰め、念のためチェーンベルトも巻いてきた。髪飾りもつけっぱなしだし、さきほど借りた折り畳みナイフも借りたままになっている。このくらいあれば、まあ大体のケースには対応できるんではなかろうか。
「このポイントはどうやって決めたんだ?」
「ここは、魔獣が身を潜めやすそうなトコロって観点で選んだ場所で―――――」
ラキルスと呑気に話しながら歩いていたディアナは、突如ざわっと肌が泡立つような感覚を覚えた。
反射的に身構え、周囲を窺おうとした時、
「っ…!」
と、ラキルスが、声とも息を飲む音ともつかないものを発した。
「ラキ!!」
振り返ったディアナの目に飛び込んで来たのは、血の付いた短剣を手に持ち、泣き笑いのような微妙な表情で佇む赤髪の三男と、切りつけられたらしい腕を押さえながら、痛みと言うよりは驚きの方が強そうな表情を浮かべているラキルスの姿だった。
迂闊だった。
ヤツは一旦この地を離れたものと思い込んで、まだこの付近に留まっている可能性を排除してしまっていた。
『魔獣が身を潜めやすそうなところ』というディアナの読みは正にどんぴしゃで、ディアナとラキルスがここに来る前から、ヤツはずっとここに身を隠していたのだろう。ラキルスが手の届く距離に近づいてくるまで、完全に気配を消して。
ヤツが動き出す瞬間まで、ディアナはヤツの気配を察知できなかった。
赤髪さんには気配を操ることはできなかったはずだし、いまディアナが感じている気配も赤髪さんのものではない。やはりヤツは本物の赤髪さんではない。
そもそも、ディアナがこの距離まで気配を察知できない相手なんて、はっきり言って人間とは思えない。
すると赤髪さんは、ガッとラキルスの血の滲む腕を掴んだかと思うと、ぐらりと姿勢を崩して片膝をついた。
その瞬間、ラキルスの気配がガラリと変わった。
―――――今まで、赤髪さんが発していた気配に。
「赤髪のこれよりは、この男の方が都合がよさそうだ。何せこの男は、おまえの番なのだろう?」
「―――――は…?」
口の端を上げてニヤリと笑うラキルスは、ラキルスの顔なのにラキルスの表情ではなく、ラキルスの声なのに、そこに温度はない。
それにラキルスは、ディアナのことを『おまえ』なんて呼ばない。喧嘩したって、取り乱してたって、絶対に呼ばない。
体はラキルスだけど、中身はラキルスではなくなってしまったのだと、ディアナは確信した。
姿のコピーではない。赤髪さんはその姿を保持したまま変わらずそこに跪いているし、位置もラキルスと入れ替わったりしてはいない。姿はそのままに、中身だけが変わってしまった。
これはもう決まりだ。
原理はともかくとして、行われたことはもう間違いない。
ラキルスの体が乗っ取られたのだ―――――。
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