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愛するつもりならありますから
26. 大人すぎる大人<2>
しおりを挟む「わたし馬鹿でごめんねぇ…。ラキは無理して笑わなくていいんだからね?怒っても叱ってもいいんだからね?わたし多分へっちゃらだろうけど、ちゃんと反省するから!ちょびっとずつかもしれないけど学習してみせるから!!」
ラキルスの表情を見ているのが苦しくて、胸のどこかが何だか痛くて、ディアナは自分が思うより動揺しているらしい。
ラキルスの頬をつまんで伸ばしたり、両手で挟んで潰したり、ラキルスの作り笑いを力業で何とかしようと、よくわからない行動に出ている。
ディアナの切羽詰まった様子から、ふざけてやっているわけではないことは伝わってきていたので、ラキルスは抵抗せずにディアナの好きなようにさせていた。
でも、ディアナがあまりにも必死さを滲ませるものだから、だんだん可笑しくなってきてしまって、気づけばふっと表情を緩ませていた。
それだけのことで、ディアナの胸の痛みは和らぐのだ。
「ちゃんと笑ってくれたぁ!よかったあぁ…」
「いやもう…うーん…。まあいいか…」
ラキルスも何が言いたかったのかよく分からなくなって、ただただ込み上げるがままに笑っていた。
この夫婦は、だいたいいつもこんなカンジではあるのだが、一つだけ、ディアナが思い違いをしていることがある。
ラキルスは確かにめちゃめちゃ心配していたし、ディアナが自らを餌に使ったことには血を吐く思いをしていたわけだが、今回のことでラキルスが自分を責めることはなかった。
何故って、どのみちディアナはやる。
ラキルスが不覚を取ったのは事実だし、ラキルスが体を乗っ取られていなければ他の手段が取れた可能性はあるが、目の前に『赤髪の三男さん』という既に体を奪われた存在がいた以上は、ラキルスがどうであろうと関係なく、ディアナが導き出す最善策はあれだったはずだ。
確かにラキルスはディアナより弱い。
が、じゃあラキルスが強かったらディアナは大人しくしているのかと言ったら、どう考えたってそんなワケはない。
どう転ぼうがディアナはああだから、もう仕方がないのだと、ラキルスはとっくに割り切っている。
そう、ラキルスの割り切りっぷりは、ある意味ディアナより振り切れている。
姫との婚約白紙の際の割り切り具合から、お気づきの方もいらっしゃることと思うが、ラキルスは一度割り切ったことに関しては、まあもうお見事と言っていいほどに綺麗に線引きをする。
だから、ディアナが強くラキルスが弱いのは、もう『そういうもの』なのだ。
そういうものなんだから、ラキルスが自分を卑下することもない。
第一、どんなに死に物狂いで努力を重ねたところで、ラキルスがディアナの域に達する日が来るとは到底思えない。ディアナのあれは天賦の才というものだ。コンマミリ単位を狙って射ち分ける技術が努力だけで身につくのなら、少なくとも辺境伯家の人間は誰でも出来てなければおかしい。
どうにもならないものに気持ちや時間を割くより、自分の長所を伸ばした方が、よほど有意義ってもんだろう。
気持ちひとつで割り切っているのではなく、ちゃんと考えた上でのことなので、ラキルスは揺るがないのだ。
だけど、割り切っているからと言って、何の心配もしないでいられるかは、また別問題だ。
ディアナの強さは誰よりも知っているつもりだし、信じているけれども、それでもやっぱり心配にはなる。
無茶をする妻を黙って見ていなければならないのは胃が軋む思いだし、一言言いたくなる自分と戦っていたりもする。
でも、たまにやらかしつつも、最後はキメて帰って来るディアナを誇らしく思っている。
ディアナが帰って来る場所は、いつでも自分のところであって欲しいと思っている。
だからラキルスは、自分の胆力を磨きに磨く。
これこそ伸ばすべき長所だと思っているし、そして何より、ラキルスが揺るがずに生きていくためには、もうここを強化するのが一番確実で手っ取り早い。何気に切実なんである。
―――――それでもラキルスは、そんな毎日が楽しみらしいので
結局、この夫婦はこういうものなのだ。
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