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第二章 素望
15 病室の女神
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最後に残ったのは学生である花火さんと僕だけ。
普段ならいち早く帰っている所だが、今日は事前にメールで終わった後に話があると花火さんに言われていたので、普段から一人でいる事が多い僕は限界が近かったが、なんとか残り続けていた。
花火さんも流石に同世代の男の子と二人きりだと気まずいのか、大人達が帰ってから一言も発していない。
店内に僕と花火さんと店員さん一人という状況なので、気を使ったのか単に気まずかっただけか店員さんは、おもむろにリモコンを手に取りテレビをつけた。
テレビの向こう側では笑い声が聞こえるが、こちらは緊迫した空気が続いている。
この空気をなんとかしたいものだが、僕にはそんな器用な事が出来る訳もなく5分また10分と沈黙が続く。
僕はもう帰ってもいいかな、とバックに手をかけようとした瞬間、花火さんが口を開いた。
「あのさ......私のお姉ちゃん今近くの清和病院で入院しているんだ…それでね、この前あんたの事、お姉ちゃんに話したら会いたいって言われて。今日連れて行くって約束しちゃったんだ。だから病院まで付いてきてくれない?」
突然の告白に驚いたが、何か訳ありな雰囲気を感じ取ったのであまり深く聞かないようにした。
「そうなんだ、お姉さんが入院しているんだね。でもなんで僕に会いたがっているの?」
机に肘をつきはじめた。
「分からない、急にね。言い出したら人の言うことなんて聞かないから。だからね、お願い!」
頼み事は聞いてあげたいが、病院へ行くのは嫌だ。
清和病院は以前高熱を出した時にお母さんが連れてきてくれたが、車で家から15分ほどかかった記憶があるので徒歩ではかなり遠い気がする。
最近はそこまで遠い場所には行ってないので不安な為なんとか断る事にした。
「ごめんね。今日はちょっと...」
そう口ごもっていると、いいからいいからと手を引かれて喫茶店から出されてしまった。
女の子と手を繋ぐなど初めてなので少し嬉しかったが、いかんいかんと首を振り自分を律して、もう一度断ってみる事にした。
「だから今日は無理なんですって」
花火さんはこちらをギラリと睨んでいる。
「いつ頼んでもそう言って断るつもりでしょ!私も嫌なんだから、口答えしないで付いてきてよ」
まるで母親に怒られる子供のように諭されてしまった。
これ以上何を言っても意味がなさそうなので仕方なく付いて行く事にした。
歩き出したが、案の定僕たちは一言も会話を交わす事なく病院に着いてしまった。
「ここが清和病院、知っているでしょ。ここの405号室だから、お姉ちゃんの病室。さぁ行こう」
そう言いながらズカズカと病院に入っていった。
慣れた様子で、受付のお見舞い用の紙に名前を書きバッチを二つ受け取り一つを僕に渡して、エレベーターへ向かった。
遅れないように早歩きでついて行く。
「お姉ちゃん...点滴とかの管が通っているけど失礼だから驚いたりしちゃダメだよ」
「......分かりました」
お姉さんには気を使うんだな。
僕にも少しでもその優しさを向けて欲しい。
気持ちを切り替えて覚悟を決めてエレベーターで上がって行く、そして4階に着くと花火さんはナースステーションに行き、何かを話している。
それを待ちながら周りの病室の様子などを覗いていると、重篤な様子のお年寄りがたくさんいた。
なんだか、この光景はおじいちゃんの事を思い出す。
「空太、お水を取ってくれ」
おじいちゃんは弱々しい手で僕の手を握り起き上がろうとする。
「はいはい。ちょっと待ってね」
僕はベットの横にあるボタンを押して背もたれを起こし、常温のとろみのついたお水をおじいちゃんに手渡す。
「ありがとう」
水をゆっくりと飲み始めたと思ったらすぐに飲むのをやめてしまう。
「もう少し飲んだ方がいいんじゃない」
「いや、いい。もういっぱい」
「そう。わかった」
おじいちゃんは、去年いきなり倒れた。
病院に運ばれた時は家族全員で死を覚悟していたが、なんとか持ち直し大和総合病院に入院している。
僕は昔からおじいちゃん子だったので毎日この病院に通っている。
僕が中学校に通っていない事をおじいちゃんは知っているが、その事には触れずにいつも嬉しそうにしてくれる。
「空太!写真やってみないか?」
「嫌だよ。写真なんて地味だし」
「そうか?遊びに行くいい口実になると思うんだけどな。それに、私の趣味を引き継いで欲しいんだけどな」
「う~ん...考えとくね。でも今は病院に来る予定があるからそれで充分だよ」
「そうか、そうか。写真は私が退院してからだな!みっちり教えてあげよう」
「そうだね。早くそうなるといいね」
「約束だぞ!まずは何から教えようかな......」
その時、すでにおじいちゃんはいつ死んでもおかしくない状況だった。
その事は僕以外の家族全員が知っていて、おじいちゃん自身も分かっていたらしい。
でも僕の気持ちを考えて、おじいちゃんはいつも前向きな話ばかりしていた。
「退院はいつか?」
「旅行に行こう」
そんな話を毎回の様にしていたが、結局おじいちゃんが退院する事は無かった。
最後まで僕の前では元気なフリをして、いつも明るい提案をしてくれた。
だから僕は、おじいちゃんがいつも勧めてくれていたカメラを始めた。
病院に行っていた時間を、おじいちゃんに会えない寂しさを埋める様に、毎日カメラを片手に公園へと足を向けた。
「じゃあ、行くよ」
いつの間にか戻ってきた花火さんに言われ、我を取り戻し少しの寂しさを胸に抱えたまま405号室の扉の前へと着いた。
花火さんが扉を開け僕もヒョッコリと中を覗くとベットの上に女性が座っていた。
ちょうど日の光を帯びて、とても神々しく見える。
まるで女神のようだ。
一瞬思考が止まったが気を取り直して、部屋に入って行くと、見えていた光が無くなり女性がしっかり目視出来るようになった。
先程感じた印象とは違い病院服を着て腕には点滴用の管。
メイクもしていない。
だが、それを全く悲観していないように見てる屈託のない笑顔。
「いらっしゃい!私、花火の姉の内野海歌です。わざわざ来てくれてありがとうね」
「はい。えっと...花火さんと写真クラブで一緒の空太って言います。花火さんに誘われて来てしまいました」
そう言って頭を下げた。
すると、お姉さんは面白そうにしている。
「ホント、花火に聞いていた通りの子なのね。人と話すのは苦手?」
「えっ...まぁ苦手です」
「クラブでもいつもこうなのよ。誰にでも敬語で、ずっと気を使っているの」
花火さんは僕達と話す時とは別人のように表情豊かではじめて自然な顔を見た気がした。
「いいじゃない。気を使えるなんて素敵なことよ。花火、あなたはもう少し気を使えるように空太くんを見習いなさい」
「え~、いやよそんなの」
羨ましい、こんな普通に会話が出来ている。僕と兄とはまるで正反対じゃないか。
どうやったらこんな風になれるのだろう。
お姉さんは打って変わって少し真剣な顔をした。
「空太くん、花火をよろしくね。この子にだったら何言っても私が許すから、仲良くしてあげて。友達少ないから」
ここで肯定しても花火さんに悪いし、否定してもお姉さんに悪い。
「私は友達が少ないんじゃなくて、作らないの。いらないもの」
花火さんが、入ってきてくれてよかった。
なんとかうやむやに出来そうだ。
「こらっ、ダメでしょそんなこと言ったら。友達は大切よ。人生の宝物よ」
ふんっと、花火さんはそっぽを向いてしまった。
お姉さんは僕の方を見て、ね~、と言って笑いかけてくる。
友達を作りたくても出来なかった側の人間なので、苦笑いするしかなかった。
それにしても、こんなに自然な笑顔ができる人は久々に見た。
病気で辛いだろうに、この人からはものすごい生気というか生きる希望みたいなのを感じる。
何がそんなにお姉さんを支えているんだろう、僕もそれを持てればもう少しマシになれるのだろうか。
普段ならいち早く帰っている所だが、今日は事前にメールで終わった後に話があると花火さんに言われていたので、普段から一人でいる事が多い僕は限界が近かったが、なんとか残り続けていた。
花火さんも流石に同世代の男の子と二人きりだと気まずいのか、大人達が帰ってから一言も発していない。
店内に僕と花火さんと店員さん一人という状況なので、気を使ったのか単に気まずかっただけか店員さんは、おもむろにリモコンを手に取りテレビをつけた。
テレビの向こう側では笑い声が聞こえるが、こちらは緊迫した空気が続いている。
この空気をなんとかしたいものだが、僕にはそんな器用な事が出来る訳もなく5分また10分と沈黙が続く。
僕はもう帰ってもいいかな、とバックに手をかけようとした瞬間、花火さんが口を開いた。
「あのさ......私のお姉ちゃん今近くの清和病院で入院しているんだ…それでね、この前あんたの事、お姉ちゃんに話したら会いたいって言われて。今日連れて行くって約束しちゃったんだ。だから病院まで付いてきてくれない?」
突然の告白に驚いたが、何か訳ありな雰囲気を感じ取ったのであまり深く聞かないようにした。
「そうなんだ、お姉さんが入院しているんだね。でもなんで僕に会いたがっているの?」
机に肘をつきはじめた。
「分からない、急にね。言い出したら人の言うことなんて聞かないから。だからね、お願い!」
頼み事は聞いてあげたいが、病院へ行くのは嫌だ。
清和病院は以前高熱を出した時にお母さんが連れてきてくれたが、車で家から15分ほどかかった記憶があるので徒歩ではかなり遠い気がする。
最近はそこまで遠い場所には行ってないので不安な為なんとか断る事にした。
「ごめんね。今日はちょっと...」
そう口ごもっていると、いいからいいからと手を引かれて喫茶店から出されてしまった。
女の子と手を繋ぐなど初めてなので少し嬉しかったが、いかんいかんと首を振り自分を律して、もう一度断ってみる事にした。
「だから今日は無理なんですって」
花火さんはこちらをギラリと睨んでいる。
「いつ頼んでもそう言って断るつもりでしょ!私も嫌なんだから、口答えしないで付いてきてよ」
まるで母親に怒られる子供のように諭されてしまった。
これ以上何を言っても意味がなさそうなので仕方なく付いて行く事にした。
歩き出したが、案の定僕たちは一言も会話を交わす事なく病院に着いてしまった。
「ここが清和病院、知っているでしょ。ここの405号室だから、お姉ちゃんの病室。さぁ行こう」
そう言いながらズカズカと病院に入っていった。
慣れた様子で、受付のお見舞い用の紙に名前を書きバッチを二つ受け取り一つを僕に渡して、エレベーターへ向かった。
遅れないように早歩きでついて行く。
「お姉ちゃん...点滴とかの管が通っているけど失礼だから驚いたりしちゃダメだよ」
「......分かりました」
お姉さんには気を使うんだな。
僕にも少しでもその優しさを向けて欲しい。
気持ちを切り替えて覚悟を決めてエレベーターで上がって行く、そして4階に着くと花火さんはナースステーションに行き、何かを話している。
それを待ちながら周りの病室の様子などを覗いていると、重篤な様子のお年寄りがたくさんいた。
なんだか、この光景はおじいちゃんの事を思い出す。
「空太、お水を取ってくれ」
おじいちゃんは弱々しい手で僕の手を握り起き上がろうとする。
「はいはい。ちょっと待ってね」
僕はベットの横にあるボタンを押して背もたれを起こし、常温のとろみのついたお水をおじいちゃんに手渡す。
「ありがとう」
水をゆっくりと飲み始めたと思ったらすぐに飲むのをやめてしまう。
「もう少し飲んだ方がいいんじゃない」
「いや、いい。もういっぱい」
「そう。わかった」
おじいちゃんは、去年いきなり倒れた。
病院に運ばれた時は家族全員で死を覚悟していたが、なんとか持ち直し大和総合病院に入院している。
僕は昔からおじいちゃん子だったので毎日この病院に通っている。
僕が中学校に通っていない事をおじいちゃんは知っているが、その事には触れずにいつも嬉しそうにしてくれる。
「空太!写真やってみないか?」
「嫌だよ。写真なんて地味だし」
「そうか?遊びに行くいい口実になると思うんだけどな。それに、私の趣味を引き継いで欲しいんだけどな」
「う~ん...考えとくね。でも今は病院に来る予定があるからそれで充分だよ」
「そうか、そうか。写真は私が退院してからだな!みっちり教えてあげよう」
「そうだね。早くそうなるといいね」
「約束だぞ!まずは何から教えようかな......」
その時、すでにおじいちゃんはいつ死んでもおかしくない状況だった。
その事は僕以外の家族全員が知っていて、おじいちゃん自身も分かっていたらしい。
でも僕の気持ちを考えて、おじいちゃんはいつも前向きな話ばかりしていた。
「退院はいつか?」
「旅行に行こう」
そんな話を毎回の様にしていたが、結局おじいちゃんが退院する事は無かった。
最後まで僕の前では元気なフリをして、いつも明るい提案をしてくれた。
だから僕は、おじいちゃんがいつも勧めてくれていたカメラを始めた。
病院に行っていた時間を、おじいちゃんに会えない寂しさを埋める様に、毎日カメラを片手に公園へと足を向けた。
「じゃあ、行くよ」
いつの間にか戻ってきた花火さんに言われ、我を取り戻し少しの寂しさを胸に抱えたまま405号室の扉の前へと着いた。
花火さんが扉を開け僕もヒョッコリと中を覗くとベットの上に女性が座っていた。
ちょうど日の光を帯びて、とても神々しく見える。
まるで女神のようだ。
一瞬思考が止まったが気を取り直して、部屋に入って行くと、見えていた光が無くなり女性がしっかり目視出来るようになった。
先程感じた印象とは違い病院服を着て腕には点滴用の管。
メイクもしていない。
だが、それを全く悲観していないように見てる屈託のない笑顔。
「いらっしゃい!私、花火の姉の内野海歌です。わざわざ来てくれてありがとうね」
「はい。えっと...花火さんと写真クラブで一緒の空太って言います。花火さんに誘われて来てしまいました」
そう言って頭を下げた。
すると、お姉さんは面白そうにしている。
「ホント、花火に聞いていた通りの子なのね。人と話すのは苦手?」
「えっ...まぁ苦手です」
「クラブでもいつもこうなのよ。誰にでも敬語で、ずっと気を使っているの」
花火さんは僕達と話す時とは別人のように表情豊かではじめて自然な顔を見た気がした。
「いいじゃない。気を使えるなんて素敵なことよ。花火、あなたはもう少し気を使えるように空太くんを見習いなさい」
「え~、いやよそんなの」
羨ましい、こんな普通に会話が出来ている。僕と兄とはまるで正反対じゃないか。
どうやったらこんな風になれるのだろう。
お姉さんは打って変わって少し真剣な顔をした。
「空太くん、花火をよろしくね。この子にだったら何言っても私が許すから、仲良くしてあげて。友達少ないから」
ここで肯定しても花火さんに悪いし、否定してもお姉さんに悪い。
「私は友達が少ないんじゃなくて、作らないの。いらないもの」
花火さんが、入ってきてくれてよかった。
なんとかうやむやに出来そうだ。
「こらっ、ダメでしょそんなこと言ったら。友達は大切よ。人生の宝物よ」
ふんっと、花火さんはそっぽを向いてしまった。
お姉さんは僕の方を見て、ね~、と言って笑いかけてくる。
友達を作りたくても出来なかった側の人間なので、苦笑いするしかなかった。
それにしても、こんなに自然な笑顔ができる人は久々に見た。
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