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第二章 素望
21 趣味の極み
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「チリンチリン!」
喫茶店の、木で出来たアンティーク調の扉を開けると、不意に大きな音が鳴りドキッとした。
上を見上げてみると、扉に大晦日に突くような鐘を小さくしたような見た目の風鈴が取り付けられていた。
なんだかもう一度鳴らしてみたくなったので、扉を揺さぶってみる。
「チリンチリン」
風鈴の涼しげな、と表現する音は僕には何故だか笑い声に聞こえる。
子供の鈴の遊び道具と子供の笑い声が結びついてなのか、理由は皆目見当がつかないがこの音が聞こえると愉しくなってくる。
すると店員さんがこちらに歩み寄ってきた。
「いい音でしょ、夏を感じるよね。たまたま知り合いのショップで見つけて買ったんだ」
いきなり少し怖そうな人に話しかけられて緊張したが、会話の糸口があると割と話しやすい。
「そうですね。気持ちのいい音です。あの、失礼ですけど店長さんなんですか?」
「そうだよ、僕のカフェなんだ。元々は祖父が地主でね。そこを使って何かやりたくて、ここら辺にはカフェとか地元民がゆっくり話せるところが少ない気がして。半年前に始めたんだ」
見た目が若いしパーマに茶髪なのでバイトだと思っていた。
「今、おいくつですか?」
「25だよ。大学出て就職したんだけど会社に合わなくてね。一年ぐらいニートしていたんだけど、生活苦しくて何か始めないと、ってね」
「すごいですね。こんなお洒落なカフェ作っちゃうなんて」
「ありがとう。昔からアンティーク家具が好きで、完全に趣味の建物なんだ。この舵輪なんて昔から自宅に飾っていた私物でね」
「舵輪って言うんですか。あの船のハンドル。高かったんじゃないんですか?」
「昔、知り合いの業者さんに欲しい、って言ったら譲ってくれてね。本当に船に付いていたものなんだって。そうだ、ごめんね立ち話長くて、席にどうぞ」
二人がけの席に座りカバンを肩から下ろした。
「注文はどうしますか?今日のケーキセットはモンブランです」
この前お母さんに、買ってもらったばかりのお気に入りの腕時計を見つめる。
「すみません...あと少しで知り合いが来ますので、その時に一緒に注文します」
「かしこまりました。それでは何かありましたら声を掛けてください」
そう言って、厨房へ戻っていった。
言葉遣いが丁寧で物腰も柔らかく、人は見かけによらぬものとはまさにこの事だ。
見た目だけで怖がっていた、自分の安直さが恥ずかしくなった。
辺りを見渡すと、店内の至るところに配慮されていることがよくわかる。
清潔なのは当たり前だが、テーブルや椅子はもちろんメニュー立てひとつ取ってもデザインに凝っている。
メニューを見てみると手書きでイラストも添えてある。
一番驚いたのが全部のメニューに英語表記がされていること。
たしかに、ここ5年ぐらいでこの地域では外国人をよく見かけるようになった。
お店を営むには英語ができることも、ひとつの強みになるのかもしれない。
風鈴が再び鳴り、カメ爺と東さんが喋りながら入ってきた。
それに続いて清水さんが入店してきた。
僕の事に気付いたようなので、少し腰を浮かせて挨拶をする。
「おはようございます」
カメ爺はいつもの笑顔で、こちらに手を振ってくる。
「やぁ、おはよう。早かったんだね」
東さんは、手を挙げてウイッー、と元気よくハイタッチを求めてきた。
僕も気恥ずかしかったが、元気よくイェーイと小さな声で応えた。
「東くんも、もう40歳近いでしょ。もうちょっと大人らしい行動をしないとね。空太くんもハイタッチ恥ずかしいわよね」
清水さんはいつも通り冷静だ。
「そんなこと、無いですよ。楽しいです」
「ほらね。気持ちはいつまでも青春ですよ!気持ちが若ければ体も歳とらないですよ。清水さんもカメ爺もハイタッチしますか?気分が上がりますよ」
「確かにそうかもしれないわね。やってみようかしら」
清水さんが意外にも乗ってきた。
二人でイェーイと言いながら意外とノリノリでハイタッチをした。
続いて東さんはカメ爺にもやらせたいようだ。
「カメ爺もどうですか?」
「お店では騒いじゃダメだよ。ほかにお客さんはいないようだけど、一応ね」
清水さんはカメ爺の言葉を聞いて、顔を真っ赤にして東さんの方を見る。
「私まで、怒られちゃったじゃない」
東さんは流石におふざけが過ぎたことを感じたようで、頭に手を当てながら謝る。
「すみません」
僕も無性にはずかしくなってきた。
やっと落ち着いて4人で席に着きカメ爺が今日の本題について話を始める。
「今日は、ずっと休んでいた品川さんが復帰するので、大事をとって撮影は無しにして、喫茶店でお話をします。空太君は初めてだよね」
「はい、初めてです。どんな人なんでしょうか?」
「長老はな、パワフル爺さんだ。もう70を超えているけど、毎日肉を食べてるっていっていたな。写真も上手くて賞とかいっぱい取っている。あと怖い」
東さんから小さな声で怖いと聞こえたが、ここは聞き流す事にした。
「長老って呼んでるんですか?」
「空太がカメ爺って呼び始めたけど、あだ名を付け始めたのは俺の方が先だぞ」
「東くんのは全然浸透しなかったけどね」
自慢げに東さんが言ったがすかさず清水さんが突っ込む。
「そりゃないっすよ。確かに誰も長老って呼んでくれないっすけど、俺のあだ名の方がセンスあるでしょ」
「言われた人がどう思うかだからね。私は、カメ爺というあだ名、中々上手くて気に入っているけど、品川さんはどう思っているかわからないからね。僕たちは呼ぶわけにはいかないよ」
「じゃあ今日聞いてみますよ。気に入ったって言ったらみんなで呼んでくださいよ」
「まぁそれならいいですよ」
みんな東さんのしつこさに飽き飽きしながら適当に返事をした。
喫茶店の、木で出来たアンティーク調の扉を開けると、不意に大きな音が鳴りドキッとした。
上を見上げてみると、扉に大晦日に突くような鐘を小さくしたような見た目の風鈴が取り付けられていた。
なんだかもう一度鳴らしてみたくなったので、扉を揺さぶってみる。
「チリンチリン」
風鈴の涼しげな、と表現する音は僕には何故だか笑い声に聞こえる。
子供の鈴の遊び道具と子供の笑い声が結びついてなのか、理由は皆目見当がつかないがこの音が聞こえると愉しくなってくる。
すると店員さんがこちらに歩み寄ってきた。
「いい音でしょ、夏を感じるよね。たまたま知り合いのショップで見つけて買ったんだ」
いきなり少し怖そうな人に話しかけられて緊張したが、会話の糸口があると割と話しやすい。
「そうですね。気持ちのいい音です。あの、失礼ですけど店長さんなんですか?」
「そうだよ、僕のカフェなんだ。元々は祖父が地主でね。そこを使って何かやりたくて、ここら辺にはカフェとか地元民がゆっくり話せるところが少ない気がして。半年前に始めたんだ」
見た目が若いしパーマに茶髪なのでバイトだと思っていた。
「今、おいくつですか?」
「25だよ。大学出て就職したんだけど会社に合わなくてね。一年ぐらいニートしていたんだけど、生活苦しくて何か始めないと、ってね」
「すごいですね。こんなお洒落なカフェ作っちゃうなんて」
「ありがとう。昔からアンティーク家具が好きで、完全に趣味の建物なんだ。この舵輪なんて昔から自宅に飾っていた私物でね」
「舵輪って言うんですか。あの船のハンドル。高かったんじゃないんですか?」
「昔、知り合いの業者さんに欲しい、って言ったら譲ってくれてね。本当に船に付いていたものなんだって。そうだ、ごめんね立ち話長くて、席にどうぞ」
二人がけの席に座りカバンを肩から下ろした。
「注文はどうしますか?今日のケーキセットはモンブランです」
この前お母さんに、買ってもらったばかりのお気に入りの腕時計を見つめる。
「すみません...あと少しで知り合いが来ますので、その時に一緒に注文します」
「かしこまりました。それでは何かありましたら声を掛けてください」
そう言って、厨房へ戻っていった。
言葉遣いが丁寧で物腰も柔らかく、人は見かけによらぬものとはまさにこの事だ。
見た目だけで怖がっていた、自分の安直さが恥ずかしくなった。
辺りを見渡すと、店内の至るところに配慮されていることがよくわかる。
清潔なのは当たり前だが、テーブルや椅子はもちろんメニュー立てひとつ取ってもデザインに凝っている。
メニューを見てみると手書きでイラストも添えてある。
一番驚いたのが全部のメニューに英語表記がされていること。
たしかに、ここ5年ぐらいでこの地域では外国人をよく見かけるようになった。
お店を営むには英語ができることも、ひとつの強みになるのかもしれない。
風鈴が再び鳴り、カメ爺と東さんが喋りながら入ってきた。
それに続いて清水さんが入店してきた。
僕の事に気付いたようなので、少し腰を浮かせて挨拶をする。
「おはようございます」
カメ爺はいつもの笑顔で、こちらに手を振ってくる。
「やぁ、おはよう。早かったんだね」
東さんは、手を挙げてウイッー、と元気よくハイタッチを求めてきた。
僕も気恥ずかしかったが、元気よくイェーイと小さな声で応えた。
「東くんも、もう40歳近いでしょ。もうちょっと大人らしい行動をしないとね。空太くんもハイタッチ恥ずかしいわよね」
清水さんはいつも通り冷静だ。
「そんなこと、無いですよ。楽しいです」
「ほらね。気持ちはいつまでも青春ですよ!気持ちが若ければ体も歳とらないですよ。清水さんもカメ爺もハイタッチしますか?気分が上がりますよ」
「確かにそうかもしれないわね。やってみようかしら」
清水さんが意外にも乗ってきた。
二人でイェーイと言いながら意外とノリノリでハイタッチをした。
続いて東さんはカメ爺にもやらせたいようだ。
「カメ爺もどうですか?」
「お店では騒いじゃダメだよ。ほかにお客さんはいないようだけど、一応ね」
清水さんはカメ爺の言葉を聞いて、顔を真っ赤にして東さんの方を見る。
「私まで、怒られちゃったじゃない」
東さんは流石におふざけが過ぎたことを感じたようで、頭に手を当てながら謝る。
「すみません」
僕も無性にはずかしくなってきた。
やっと落ち着いて4人で席に着きカメ爺が今日の本題について話を始める。
「今日は、ずっと休んでいた品川さんが復帰するので、大事をとって撮影は無しにして、喫茶店でお話をします。空太君は初めてだよね」
「はい、初めてです。どんな人なんでしょうか?」
「長老はな、パワフル爺さんだ。もう70を超えているけど、毎日肉を食べてるっていっていたな。写真も上手くて賞とかいっぱい取っている。あと怖い」
東さんから小さな声で怖いと聞こえたが、ここは聞き流す事にした。
「長老って呼んでるんですか?」
「空太がカメ爺って呼び始めたけど、あだ名を付け始めたのは俺の方が先だぞ」
「東くんのは全然浸透しなかったけどね」
自慢げに東さんが言ったがすかさず清水さんが突っ込む。
「そりゃないっすよ。確かに誰も長老って呼んでくれないっすけど、俺のあだ名の方がセンスあるでしょ」
「言われた人がどう思うかだからね。私は、カメ爺というあだ名、中々上手くて気に入っているけど、品川さんはどう思っているかわからないからね。僕たちは呼ぶわけにはいかないよ」
「じゃあ今日聞いてみますよ。気に入ったって言ったらみんなで呼んでくださいよ」
「まぁそれならいいですよ」
みんな東さんのしつこさに飽き飽きしながら適当に返事をした。
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