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第9章 エンドラ討伐隊

第65話 すごいよ! ニーナちゃん!(前編)

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『(インドネシア語)今日はみなさんにお会いできて嬉しいです! 私のデビュー配信のために、わざわざ来てくださってありがとうございます! すず先輩、あひる先輩、そして――ばにら社長!』

「なに言ってるか、ぜんぜんわからんバニ」

「任せろばにら。あひるも分からん」

「流石にインドネシア語は、グローバルきつねの生駒も勉強してなかった! まぁ、名前を呼んでるってことは挨拶でしょ!」

 ニーナちゃんの白亜の城の前にコラボメンバーが集合する。
 すず先輩、あひる先輩、ばにら、そして本日の主役――ニーナちゃん。
 彼女もボイスチャットに入り、ついに配信がスタートした。

 いつもの自己紹介を済ませ、さっそく段取りの確認。

「ヘイ、ニーナ! バニラたち、いったい何すればいい! 分からん!」

「まったく英語になってないよ、ばにらちゃん!」

 ただ、英語力ゼロなのでまともに話せない。
 世界1位のVTuberなのに、英語ができないとかどうなのだろう。
 ちょっと情けない。

 とはいえ、この縁を結んだのは私。
 臆せずパッションイングリッシュや!
 笑われるのを承知で私はニーナちゃんに話しかけた。

「えーっと……プリーズテルミー、ワットワナドゥ?」

「オーウ! ファーストステップ! エンドポータルサーチ!」

「オウ! エンドポータル! OK! OK!」

 どうやら、まだエンドポータル(マイクラのラスボス『エンダードラゴン』がいる、エンドワールドへとワープする装置)を見つけていないらしい。
 さらに、エンドポータルの起動に必要なエンダーアイの数も――。

「ヘイ、ニーナ! ハウメニー、エンダーアイ?」

「ハウメニー……10! アイ、ハブ、10、エンダーアイズ!」

 エンドラに行くには少し心許なかった。

 すず先輩もアバターの首を傾げる。

 歴戦のエンドラ討伐RTA走者。
 そんな先輩の意見は重たい――。

「エンドポータル探しに手間取るかもしれないし、あと追加で10個は欲しいかな。一旦、二手に分かれてエンダーアイの材料を集めよう」

 ニーナちゃんも「すず先輩がそう言うなら!」と納得する。
 かくして、私たち二組に分かれ『エンダーアイ』の素材集めをすることになった。

 すず先輩とあひる先輩が『エンダーパール』を集め。
 私とニーナちゃんが『ブレイズパウダー』を集める。

 サバイバルモード初心者のあひる先輩に、『ブレイズパウダー』の入手先である『ネザー要塞』(凶悪なモンスターがうごめくネザーの中で、さらに攻撃的なモンスターが棲息するダンジョン)の攻略は困難と判断しての組み分けだった。

『(インドネシア語)そうだ! 先輩たちにプレゼントがあります! よかったら、使ってください!』

「おぉ! 無限弓だ! しかも『パワーⅢ』の『耐久Ⅱ』つき!」

「いいのニーナちゃん! あひる鉄装備だから助かるよ!」

『(インドネシア語)ばにら社長にはこちら!』

 無限弓(かなり貴重)を惜しげなく先輩に配るニーナちゃん。
 さらに彼女は、超貴重な武器『トライデント』を私にプレゼントしてくれた。

 投げてよし、殴ってよしの遠近両用アイテム。
 しかも、エンチャントも『耐久Ⅲ』『串刺しⅤ』『修繕Ⅰ』『忠誠心Ⅲ』つき。
 さらに「バニーナ♥トライデント」と名前までつけられていた。

 後輩からの愛が重たいんじゃ。(汗)

「センキュー、ニーナちゃん! アイムハッピー!」

「オーウ! ミートゥー! ばにらシャチョー!」

 トライデントを装備すると嬉しそうにニーナちゃんがジャンプする。

 うーちゃんにも通ずる無邪気さだ。
 彼女、本気で私のことを好いてくれているんだな。
 何がそんなに心の琴線に触れたんだろう。

 ばにーら、なにかしましたっけ?

 ただ、後輩からの好意は――正直かなり気持ちよかった。
 そりゃ美月さんやゆき先輩も、親身に世話してくれるわけだ。

 今なら配信事故を助けてくれた気持ちが分かるよ。

「それじゃみんな! 一時間後に再集合ということで! 散ッ!」

 かくして1時間後に再集合と約束し、私たちは白亜の城から移動した。

 目指すは『ネザーゲート(ネザーへの入り口)』。

 すでに『ブレイズパウダー』の入手先の『ネザー要塞』は発見されている。
 さらに『ネザーゲート』から『ネザー要塞』へは、天井つきの丸石の通路ができていた。これもニーナちゃんが造ったというんだから――本当にすごい。

「いやぁ、ニーナちゃん本当にすごいね。生駒もマイクラやりこんでるけど、ニーナちゃんには負けちゃうよ」

「アー、ワットイズ、ユアベスト、RTAタイム? 生駒先輩?」

「えー? 生駒のRTAのベストタイム? たしか3時間ちょっとだったかなぁ?」

「タシカサンジカンチョット?」

「えっと――アバウトスリーアワー!」

「ワーオ! アメイジング!」

「ニーナちゃんのベストタイムは? ユアベストタイム?」

「ンー、5アワー、21ミニッツ!」

「5時間21分! なかなかですねぇ! ナイスファイトニーナちゃん!」

「エヘヘヘ(///)」

 向かった場所は違うけどボイスチャットは繋いだまま。
 目的の『エンダーパール』と『ブレイズパウダー』を落とすモンスターを狩りながら、私とすず先輩は拙い英語を使ってコミュニケーションをとった。

 そう、私とすず先輩は。

『(英語)ニーナはどうしてVTuberをやろうと思ったの?』

『(英語)急ですね、あひる先輩? そうですねぇ、元々私はアイドルをやっていたんですが、このご時世でライブができなくなってしまって……』

『(英語)あー、わかるわかる。大変だよね』

『(英語)はい。それで、DStarsIDのタレント募集広告を見て、生き残るにはこれしかない……と』

 びっくりしたことに、あひる先輩はめちゃくちゃ英語が上手だった。

 なんで会社があひる先輩を助っ人に呼んだのか。
 マイクラ経験者というよりも、英語力を見込んでの抜擢だったのだ。
 つまり通訳だ。

 あひる先輩とニーナちゃんが、流ちょうな英語で会話を重ねていく。
 それを黙って聞くことしかできない私とすず先輩。

 時々、あひる先輩が話の内容を訳してくれたが――。

『(英語)ところで、なんでばにらが好きなの?』

『(英語)ファッ⁉ それ、聞いちゃいます?』

『(英語)聞かせてよ、ばにらとの馴れそめ。大丈夫、ばにらには言わないから』

『(英語)えっと……ばにら社長から告白されちゃって。アイラブユーって。もちろん、パッションイングリッシュって分かってるんですけど。キュンときちゃって』

「ばにら~! おい、ばにら~! やってんねぇ~! このこの~!」

「ちょっと! なに話してたバニか! ばにらが英語分からないからって、二人で内緒話するのやめて欲しいバニ! 後で切り抜きで確認するバニからな!」

『(英語)ニーナ、ごめん。ばにら、後で切り抜きで確認するってさ』

『(英語)待って待ってばにら社長! 恥ずかしいから切り抜き見ないで!』

「だから内緒話やめてもろて! ちゃんと通訳して!」

 肝心な所は翻訳してくれないのだった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 いつからあひるが足手まといだと錯覚していた――?(強キャ感)
 なんだかいつもばにらやずんだにいいようにあしらわれるあひる。しかし、そんな彼女は地味にハイスペック。ニーナちゃん相手に通訳を務めてみせるのだった。
 ほんと、日舞のスキルもあったり、英語もできたり……何者なんでしょうね?
 ずんだはなにか知っている様子ですが……。
 
 気の良い先輩キャラの羽曳野あひる。彼女の活躍がもっと見たい、ばにらたちとの絡みが見たいという方は、ぜひぜひ評価のほどよろしくお願いいたします。m(__)m
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