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一閃の暗闇

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 心苦しいけれど、私はウィーンさんみたいに丈夫で力のある身体でも、グラスのように魔力と知略に長けた身体でもないそんな私にできることは、二人の補助をメインに戦うことと、状況を判断して禁術を使うことだ。

「ウィーンさん!!! 私の手早くだけど錆びたハンマーよりはマシだから具現化で作ったこれを使って」

「わぁ、ありがとう……って私の属性闇と魔の複合なのによく分かったね嬉しいわ」

【裏柏手の槌】

 祝いの反対は呪い、叩けば響く逆さの柏手の槌

効果

・重力負担無効

・闇属性と魔属性の魔力捜査補助

・魔力操作で槌からグローブに変化可能

・攻撃されたらMPとHPドレイン効果あり

 ウィーンは普通に戦い慣れていて強いから、余り派手な効果は付けずに扱い安い補助よりの効果を投与した武器に具現化させた。これだけ付けてもMPが半分しか体感で減ってないから、自分も大分強くなったなーとしみじみ思いたいが、そんな暇はない。準備は終わったと見なしたのか、エピクが魔力を込めて時計の針みたいなものが無数にエピクの後ろに現れる。

「【ゼクンデ】」

「【ウォーターウォール】お願いグラス」

 エピクが腕を前に振り下ろすとその無数の時計の針が襲ってきた。私が皆の補助に回るためにウォーターウォールを張って、そのウォールの魔力を利用してグラスが凍らせて針を防ぐ、氷の壁になってもいくつか突き抜けてくるからウォーターウォールだけではとても防ぎきれない威力なのがわかる。

 壁を貫いてきたいくつかをそれぞれの得物で叩き落として、互いに適度に寄っていく。時と空間と言っていたからには、いつ、どこで、どうやって出てくるかわからないから、離れてはいけない。身を寄せ合う中でエピクが空間を移動したのか、それとも時を止めて移動したのか、急に私の目の前に現れた。

「この中で私が一番弱いから、狙うのは知ってたよ!!!【天の横流れ】」

「おっと、危ないな」

「おっと、危ないわ~……カリスティアちゃんを狙う幹部さんが」

「【シュペート!!!】」

 集団で襲われた場合の戦闘の常識は、弱い奴から狙え! そうと決まっているので、来るのを分かっていたから咄嗟に反撃をした。重力の【負担】を無効にできる能力の槌を持ったウィーンが身体能力も相まって、ほぼ瞬間移動に近い素早さで、後ろに避けたエピクの後ろに回り槌を振り回す。当たる前に、相手の時間を遅くする魔法の名前を唱えると、ウィーンの動きがスローモーションのようにゆっくりになる。

「【限定氷結】カリスティア、ウィーン様に治癒術を」

「はーい、任せた【ヘルス】」

 ゆっくりな攻撃は避けるのは容易く、エピクは横にずれて避けようとしたが、カリスティアが技を放つ時にちゃっかり地面を水浸しにしていたので、そこにグラスの魔力を込めてエピクの足を凍らせる。そこでグラスの呪氷の杖で殴りかかるも、最初の時のように彼女が消えて空振りしてしまったが、ウィーンを治癒術で弱体化解除を行う時間は稼げた。

「うげー……冷たい。お前ら【アイスランス】おっと……。まあまあ強いな、特に子供二人は、これからが恐ろしいよ」

「これからを語るなら、これからを安心して迎えられるようにしろーい!!!」

 水明の剣を構えて風魔法で空気抵抗を極力減らしてカリスティアは飛び上がる。グラスの【所有者の許可外に触れた物質と生命を弾く】効果を持つ杖とウィーンの純粋なハンマーの打撃を、最近ご無沙汰だった魔力障壁の効果を持つ戦闘用ワンピースでダメージを軽減しながら、足で受けてロケットのように打ち出される。二人の力の勢いのままに水明の剣を突き出す。

「それは無理なご相談。ご時世がご時世だからね」

 エピクが空間を引っ掻くと、空間が破れてカリスティアの攻撃が防がれた。反撃を恐れたカリスティアはウィーンと入れ替わるように、後方のグラスの元へと下がる。

(一応、空気抵抗を最大まで減らしたから銃弾と同じスピードなんだけど……化け物。にしても空間の魔術と時の魔術……一か八か具現化でやってみるか……あのデブ王で散々実験したし)

「悪魔族のお前は……人間の身体と同化しすぎじゃないか?」

「余計なお世話よ。棚上げがお得意の天使族に言われたくないわ」

「お前ら悪魔族は、正しい位置にあった棚を下げるのがお得意だからお互い様だ」

 切り裂かれた空間とハンマーの押収の間に始まった種族の罵倒は、いつからか容姿の罵倒に変わり……女の戦いへと変貌していく様を、グラスとカリスティアは冷ややかな目で静観していた。二人が夢中になっているとこを邪魔するのは気が引けるし、そもそも入りたくもないので、この空間から脱出する手筈を整える。

(確かに天使族は、光、神聖、時、空間などが得意な種族。対になるのは、闇、魔、禁、無の属性ですから……)

「乳臭い童顔の身体なんてつかっちゃってまー……呆れます」

「こっちは仕事上最適な器なんだよ。お前のように色ボケで選んじゃいないだけだ。わかったか年増」

「ちんちくりんの乳のみ子なんて、最適でしょうねー♪ 人を年増呼ばわりなんて……ほんと、天使は棚上げがお得意ね。自分も中々にその身体にのめり込み過ぎて、翼も出せなくなってるくせに」

「翼も出せない状態の天使に負ける悪魔って銘打ってやるから、負けろ」

「冗談も休み休み言わないと、舌をちょんぎっちゃおうかしらね」

 ウィーンは笑顔で慈愛に満ちあふれる顔で、えげつない岩を砕く音を奏でながらエピクを追い詰めていく、魔力の流れを隠すサイレスを使っていなければ、魔法を使わずに力だけでここまで追い詰めていることになると、カリスティアとグラスは、絶対に敵にすまいと頭のメモ帳を更新する。しばらくはウィーンが足止めをしてくれることを信じてカリスティアは魔力を全身に巡らせる。

「グラス……サイレス使えるなら、私に今かけて」

「【サイレス】使えますよ。くれぐれも、無茶はしないように……なんて、言っても無駄な目ですね」

「うん、ごめん。死にかけで済んでれば介護よろしく」

 グラスに魔力を悟らせないサイレスを掛けてもらい、素早く魔力を練り上げる。一か八かで空間を切り裂ける技を具現化させる。感覚で確証はないけれども、物にして具現化するのは到底無理だけれども技ならばなんとかいけそうな気がしたんだ。水明の剣にも魔力を込めて剣から刀の刃に変えて、しっかり両腕で持つ。刃の切っ先の無効には戦うエピク。

「まさか……対象空間転「させないわ」邪魔だ!!! 今此処でこの空間をどうにかされたら、自分は愚かお前らも只じゃすまない」

「済まないという状況は嫌というほど経験していますので……今更どうということはありません!」

 何かを感じたエピクが言い合いを止めて、ウィーンを足で蹴り飛ばしスロウを掛けるも、ウィーンが飛ばされるも踏みとどまり、さらにはスロウがかかっている状態でさえ目も追えないような速さでエピクの身体を抱きしめて固定して組み敷くも、そうとう身体の負荷がかかる無茶だったのだろう。その一瞬でウィーンの大事な思い人の身体のあちらこちらに亀裂が入りそこから、血がにじみ出ている。

「グラス、任せた」

「任せてください」

 グラスと軽い言葉を交して、カリスティアはこの絶好のチャンスを逃す物か! と走り出す。エピクが遠隔で空間の亀裂やスロウなどの空間魔法と時の魔法で妨害してくるが、後ろに控えているグラスがカリスティアの歩みを邪魔させないと、適切な威力と量の……闇魔法と氷魔法で防いでくる。


「うああああああああああああああ!!!!」


 思いっきり叫びながら、エピクの後ろを【空間を切れる】ことを具現化した刃を振り下ろすと、エピクが作った空間の切れ目のような黒よりも黒い空間が現れたかと思うと、風船が割れるように一瞬で周りの景色が消えて、重力が亡くなる。まるで、夢で見た前の世界を消してしまう夢の虚無と似たような感覚。

(右も左も下も上も表も裏も前後斜めもわからない暗闇だけの夢が……現実に?)

 


 


 



 







 
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