転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨

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『    』

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「カリスティア……。もう降ろして下さって結構です。もう結構ですから、降ろして下さい……」

「ダメ、まだ顔色悪いんだし、前の時みたいに無理されたら心臓に悪いんだってば」

「それは……しませんから……」

 スケイスのありがた~い予知により、避難先の洞窟が別の所へと繋がっているということがわかったので、全員洞窟の奥へと進むこととなった。勿論、グラスは地形と体質の関係でヘナヘナしてるから、私がグラスを御姫様抱っこして運んで居ます。(無理をされるのが怖いから)女がすることじゃないけれど、普段鍛えているおかげでこんなことが味わえる。綺麗な顔のグラスが耳まで真っ赤にしながら見上げられると……こう、凄く降ろしたくなくなる。それに、普段持ち上げられ居る側の私が持ち上げているというシチュエーションが……とても、いい! 

 良かったから心配半分と楽しみ半分で抱えていたら「後生ですから、なんでも致します……降ろして下さいっっ!!!」と何度も抗議されて結局降ろすことになった残念。

「元気だせ、グラス。お前の抵抗は正しい」

「ドロウ様……気持ちをわかって頂けてありがとうございます」

 哀れむようにドロウ君は、グラスの背をポンポン叩いた。グラスは悪い顔色の中で俯きながら絞り出すようにお礼の言葉をずっと述べていた。熱せられたように熱い洞窟の中で声が響くお陰で、話している内容はちょっぴり聞こえる。御免なさいグラス、全然悪いとは思っていない! グラスの顔が良すぎるのが悪い! っと心の中で言い訳しながらもちゃんと謝りました。

【ウォーターボール】

【シャドウボール】

【セイントボール】

 何だかんだ技量が上がったのか、数年ほど前には苦戦していたであろう魔物を初級魔法で蹴散らすことができた。火を噴くミミズの魔物や、燃えた人間の頭みたいな魔物、主に火の属性の魔物がわんさか出てきた。これくらいは予想通りと、パスパス撃ちながら素早く洞窟の中を下るように進んで行く。スケイスの予知のお陰で特に迷うこともなかった。

「ここからの一歩はちと気いつけや、主はん、主はん含め三人に寒冷防止魔具をストックからだしたり」

「はーい」

 今回8回目の洞窟の分かれ道、その一つの水晶が生えている道を少し進んでスケイスは止ってそう言った。慌ててストックから出した魔具を付けてから進むと。ヘロヘロでドロウ君に肩を借りていたグラスが急に顔色が良くなってシャンとしたものだからビックリした。それと同時に「カリスティア」というキンキンに冷えた声で名前を呼ばれて、私の身体が剣を持ったまま凍り着いた。

「……」

「ごめんなさーい。恥ずかしがりながらお姫様抱っこされてるグラスが可愛くてつい……。あっ……」


ゴンッ!!!


「殿方に可愛いなどと申すことは、大 変 な 失礼に当たりますのよ? よろしくて、カリスティア?」

「そうよカリスティアちゃん。事実でも可愛いって言っちゃダメ! でも、どっちも可愛かったからみた」

「母としては、咎める所ですよアドラメルク」

「そっか! ダメですからね、カリスティアちゃん!」

「あい……」

 急に元気になったグラスの地雷を踏み抜いて拳骨食らった挙げ句に、ダブルママにお説教を頂きました。痛い痛いと頭をさすりながら会話なく奥に進んで行く。あれからグラスはつーんっとしながら顔を合せてくれないので流石に可愛いは言い過ぎたと反省した。

「をっとっと、滑る滑るすべッッ!」

「カリスティア!」

 反省しながらさらに洞窟を下ると、つるりとした足の感触と共に私の身体は傾いた。「あっ」なんて思った所で遅く、地面と激突するのを覚悟して受け身を取ると。先ほど怒っていたグラスが身体を支えてくれた。

「怪我はありませんか?」

「ない。その……ごめんね? そして、ありがと」

「はい」

 つーんとしていた筈の顔を崩し、手早く私に怪我がないかと【観察】された。ほんと、申し訳ないと思うと同時に、そうか……地下で移動している間に冬の気候の所に入ったから、グラスの顔色が急によくなったのかとやっとわかった。グラスの優しさに感謝しながら笑顔でお礼と謝罪をすると、笑顔でそれを受け取ってくれた。その笑顔にはもう、先ほどの具合の悪さなど無くなっていた。「今度はカリスティアが寝込むといけません」っと勿論反撃の御姫様抱っこを頂きました。オロシテ。

「凍ってるな、あの熱い気候からちょっと下がったら極寒か……ほんとよくわかんねぇー所だな」

「お陰で悪魔族の国に攻め込むお馬鹿さんはそうそういないのよ? 気候で大抵死んじゃうから」

「一国おるやん、ペルマネンテ」

 この状況でイチャつくな! なんて常識的なことを言ってくれる人など誰も居なく。4人とも私達を放っておいて話しに花を咲かせ始めやがった。ドロウ君はスケイスの肩を借りながら、王妃様はママの肩をかりながら凍った道を進んで行く。グラスは私を抱っこしながら、氷の上なのに一回も滑らずに氷のない道まで行った。氷雪適応体質だからなのか、自身の魔法で凍った地面を歩くのになれているのかどっちだろうね。

「グラスさんや」

「何ですか?」

「オロシテ……オロシテ……」

「絶対に嫌です。お断りします」

 冬の気候のグラスは無敵で、もはや腕を使わず魔法を遠隔操作して敵を一人で一掃していた。グラスは暑くなければ強い。文字通りに氷の性質の人間。本当に危機だったら降ろしてくれるだろうか、襲撃とかなんとか起こらないな? なんて罰当たりなことを思って居ても、私が最初警戒したことなんて起こらず……。結局、洞窟から出るまで私は御姫様抱っこされたままでした……。



『       』



「ん? 誰かなんか言った?」
 
「いえ」

「んーん?」

「違います」

「言ってないで」

「多分言ってないな」

 問題なく洞窟から出ると……宗教国家ヘレ・ケッテ・カルゲンに近い所に出ちゃったそう。カロネちゃんの事もあるから、近づきたくなんてなかったのだけど、食料に余裕もないしということで、宗教国家にお邪魔することになりました。宗教国家と悪魔族の国の国境を越えた所で、なんか人の声が聞こえた気がしたから聞いてみたけれど誰も言ってないみたい。まさか、あの幽霊になってでも纏わり付いてきそうなあの変態が来るのか? と、身構えて居ても結局の所、野宿の場所を確保するまで、声?が聞こえることはなかった。

「それで、念のため主はんは町に入らずにドロウはん中心に食料の買い出しを任せようと、おもんます」

「わかった。念のため換金出来る場所を当日聞くから、スケイス、教えてくれ。他の皆はなんか買うもんあるか?」

『   』

「私は特にないです」『  』

「私も無いわ」

「同じく」

「私も……とくに『  』ないよ……」

「わかったじゃあ」

 自然の意思とは違う、別の声のようなのが聞こえるような気がする。笑顔だとグラスにバレるから、眠そうに演じる。ある程度話しが終わったら早めに寝かせて貰う為に。『  』この聞こえる何かを悟られないように。皆が真剣に話している中で申し訳ないけれど、とても集中出来そうにない。速く、速く話しに一段落が付いてくれと願う。けど、強く願うほどに真剣な話し合いは白熱して長引いてくる。




こぽ……こぽ……。

こぽぽ……こぽん……。


「ッッ!?!?」


 月とたき火の明かりが眩しい夜の中で、水の音が耳元からしたと思ったら。私の見える世界は水に浸食されていた。けど、目の前の皆は相変わらずに真剣に話し合いを進めているし、水に浸かっているはずのたき火も燃えたまま。叫ばぬように声を押しとどめられたお陰で、皆には私の様子の変化に気づかれずに済んだ。眠たそうなフリが良かったようで、俯いても視線を感じるだけで咎められなかった。

「ごめん、寝る」

こぽ……。

「おん、しっかり寝るんやで」

「おやすみなさい、カリスティア」

「おやすみなさいませ」

「おやすみ!」

「気にせずに寝ろよー」

 俯きながらフラフラと、具現化で出したシートの上に寝転ぶ。今度から何かあったときは寝たふりしよう。寝ながら手をグーパーと動かしてみる。感触が完全に水の中で、喋るときも、私から見たら空気がでるようにコポコポと空気の泡が出た……けど、息苦しくない。一体何の幻覚なのかと、こっそり治癒魔術を掛けてみても変化なし。

『     』

 この……聞こえるんだか、聞こえないんだかわからない声にも変化はない。探ろうにも気配はない。正直お手上げの状態だった。


(最終手段……寝る!)







 尋常じゃないことは確かだけれど、一旦寝てみるのもありと思う自分は、我ながら図太い神経しているなとは思う。










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