171 / 175
最終戦争【7】
しおりを挟む
ダメだ。ここで怒りを表すのはダメ。悲しい苦しい理解したくない、いろんな思いが降り積もった目元から熱い何かが零れ落ちた。本当は泣き叫びたい、今すぐにでも殴れるならば殴りたい。もし、私達がここに来ないで知らないまま居たら……。もう知ってしまった以上知る前には戻れない。私が守った親友は……私の為に死んだんだ、この世界で。
親友を守って死ねたことに満足していた私って一体何なんだろう。
自分の基盤が揺れた気がした。それでも歯を食いしばって耐える……今此処で泣いて怒鳴れたらどれほどいいだろう。何度も何度もそう思った。何度も自分で自分を慰めて大丈夫、大丈夫と自身をあやす。グラスも私の手も震えたまま……。けど、意を決して私はインビジブルマントを解いた。続けてグラスもマントを脱いだ。
「今の話し……聞かせてもらったよ」
「やぁやぁ、カリスティアちゃんとグラス君。天使族の争いのどさくさの中僕を殺しに来た二人をエピクと一緒に助けに来てくれたんだね」
「……はい」
芝居掛かった口調で事の顛末を簡潔に説明するディザ、その目線の先にはグラスがローブに忍ばせている水晶へ……。触れているからわかる魔力の流れでちゃっかりグラスは音声を水晶で記録していたみたいだ。互いの手が震えてるけど、今はそれに助けられた。震えてるけど、自分で自分を落ち着けて前を向ける。怖くても握り締めてくれる手が、グラスが此処に居る。
「カリスティアちゃんもグラス君も助けに来て良いのかしら? 元を正せばこの悪魔ちゃんが……元凶なのよ」
「それでも、私は許すと決めたの。今はラブちゃんが嫌い……だし殴りたい。けど、私を貴重な時間をこれ以上使ってあげない、わかったら話しかけないで」
物語のヒーローのように激高できたらどれほどいいだろう。物語のように勧善懲悪で済めばどれほどいいのだろう。皆立場があって皆そうする理由があって……自分自身もそれを責められるような立場になくて。責められるほど完璧な人間じゃないから、私は怒りも何もかも置いて精一杯出たのが話しかけないで。これが……私の精一杯の【拒絶】だ。ラブマルージュもエリニュスも一瞥してグラスの手を引いて鎖に繋がれたディザの目の前まで来た。余裕面のまま顔は動かない。
「どうしたんだい? 僕を直接にでも殺したいかーい?」
不敵に笑うディザの顔スレスレまで顔を近づけた。なお動揺の目は見えない。
「……。【わたくしは貴男を愛して居ました】自然の意思が渡さないんじゃなくて……今のディザが女王様に会うに値しないとご本人が判断したからだよ。伝えたからね」
これを言ってディザの顔は初めて歪んだ。それを見て……私は最初で最後の反撃をした。
「私の世界では愛の反対って無関心って言われてたの。もし……この世界でもそうなら、そうやってわからなくて、理解出来なくて苦しんでいる今の状態が……愛だと思うよ」
ディザは最初から王妃を愛していた。わからないと斜め上の行動をして、頭を悩ませ狂う……それがディザの無意識の愛の証明。苦しめば苦しむほど、狂えば狂うほど……それが愛だという乾いた証明。なんで国を縛り付けて任せたのか、その心情は残念ながら私には到底わからない。
「殺されるより痛いな……。はは、痛い一撃だ」
「けど本格的に死ねなくなったでしょ?」
わからない物だと理解した。その上で愛を囁くことはできる……それがディザの出来る精一杯の愛。その鍵を私が無理矢理持たせたのだ。こんな長年のチャンスと悲願の達成……諦められる訳ない。ディザは笑った、憑きものが落ちたみたいに。けれど痛々しく空気を口から漏らすように笑った。
【契約を解除する】
「ッッッ……! 髪が」
「これで、君たち一族は自由だ。けど、この国にたて付くのでしたら、そーですね……そのときは直接僕がお相手しましょう」
契約解除と共に赤銅色になってゆくエリニュスの髪、虹色の髪のせいでギラギラしたイメージの雰囲気だったが今は少し蛇目のアジア系の美しい女性になった。最初の一言以外に言葉を発することなくエリニュスは、槍から手を離しノロノロと、ラブマルージュ、や私達を通り過ぎて消えていった。去る瞬間に発した「もう、痛くない」と言う言葉だけ残して消えた。
「あんなに怨んでいたのにあっけなくおわっちゃったわねぇん」
「ラブマルージュ様はどうされるのですか?」
お一人で? グラスが冷めた声でラブマルージュを射貫いた。ラブマルージュは最初会ったときのようにニッコリと笑い……。
「ッッッ……。う゛」
私の身体は宙へ舞った。
素手でまっすぐ私の腹を一付きした。その後はスローモーションのように全てがゆっくりになった。グラスが私が吹っ飛ばされてからやっと顔をこちらに向けた。ゆっくりと痛々しく目を開いてゆっくりと「カリスティア!」っと叫んだ。エピクは素早く「コレは貸しだ!」っと叫んでディザの枷を、どこから持って来たのか鍵を外した。そこで私のスローモーションは途切れて、私の身体は頑丈な石壁にぶつかってもまだ勢いが衰えず……。壁を突き破って大体マンション六階くらいの高さの空中へ放りだされた。
放り出された瞬間に自動で障壁を作ってくれる魔具が、また全部壊れた。はじけ飛ぶように壊れる物だから、雲の隙間の太陽に照らされて、キラキラと魔具の残骸が綺麗に光った。現実逃避からか……「綺麗」と場違いなことを呟いてすぐに浮遊感が襲ってきた。私は自身が突き破って出てきた穴の中に居るニッコリとしたラブマルージュに向かって縋るように手を伸ばして……唱えた。
【傷心魔術 拒絶】
ただでやられてたまるもんか、そうやって悪戯にニッコリと笑って拒絶の刃を放った。赤黒い拒絶の刃、私の中にまだまだこんな汚い傷があるのかと関心して、笑って落ちてった。風魔法で威力を殺しながら落ちたら少なくとも死ぬことはない、けど……それを差し置いて攻撃に使うなんて思わないでしょ? 確かな手応えとともに遠くなっていく塔のてっぺん、感覚で近付いてくるのがわかる地面。どうせ今回もそうだろうと思って笑って目を瞑った。
「カリスティア!」
「……やっぱり来るよねーグラス」
転移で落ちた私の所まで来て、私の身体を抱きかかえ地面へ着地した。足下には障壁など衝撃を和らげる魔法を無数に張ってあった。着地した瞬間に口にモルゲンスペシャルを乱暴に口に突っ込まれた。モゴモゴ言いながら喉仏に当たったらどうするんだ! と、不満げに睨み付けると。数倍の冷気を纏った鋭い目でキッ! と見つめ返されあえなく目をそらした。無茶苦茶怒ってる。
「私が間に合わなかったらどうするつもりだったのですか!!! カリスティアは毎回毎回……」
「もごもごごん ごっご もーごごーん(私だって好きで壁を突き破る威力で殴られたわけじゃないから許してよ)」
「その事ではなくて、なんで風魔法に魔力を回さなかったのかと言っているのです」
「もごもご(だってグラスが助けに来てくれるって信じてた)」
「貴方という人は……。やった方のラブマルージュ様でさえ、カリスティアが風魔法で着地すると思って居たから殴り飛ばしたそうで、傷心魔術を片手でひねり潰しながら叫んで居ましたよ」
「もごんもごん。もご……(私の決死の傷心魔術ひねり潰されて悲しい)」
「彼は100年以上生きていますので、そもそも人間がどうこうできる相手ではありません。こればっかりは諦めてください」
「もーご!(はーい!)」
「……良くそれで会話通じるな。ほら巻き込まれる前にここから離脱するぞ」
私達の会話を見て同じく転移で下に降りてきたエピクがあきれ顔でそう言ってきた。モルゲンスペシャルのお陰で瞬時に怪我は治ったけど。何千年も生きている悪魔とそれに一杯食わせる曲者のオカマの戦いでは、足手纏いなのは確実なのでエピクの言うことに首を縦に降って了承すると【転移】っと言う声とともに見晴らしのいい城の屋根の上に居た。
「本当はすぐにでも離脱させたいんだが、あの二人を異空間結界に閉じ込めるのは自分の魔力だけじゃ無理だ。二人の魔力をくれ、じゃないと天使族を退けても、帰る城が塵になる。あいつらもソレがわかってるから見ての通りに今はにらみ合いで済ましてる。ほら、もうお前らが居た所に移動してる」
「……いつのまに」
いつの間に私達が居た所に、ディザとラブマルージュが居た。お互い不敵ににらみ合って笑いあっている。仮の異空間を作り上げてそこで戦って貰えば、城に被害が及ばずに全力で戦えるそうだ。エピクは時間と空間魔法のスペシャリストだからそれが可能なんだけど、相手の魔力が強大過ぎて自分の魔力が足りないらしい。
「自分の片手に二人とも触れてくれ、それだけでいいさ、あー久々に肩が凝りそうだ」
「もご、ぷはぁ……。わかった」
「わかりました」
私とグラスは言われたままにエピクの差し出された左手を握ると、グンッと中の魔力がごっそり持ってかれた。びっくりしたけど、言うほどの量は持ってかれてない。拍子抜けしていると隣のグラスが手を握りながらふらついて私に寄りかかってきた、私はびっくりして、グラスを寝かして膝に乗せた。顔が若干血の気がなくなっていた。
「手加減なしで持って行きましたね……」
絞り出すように言った言葉に若干の非難が混じっていた。それをエピクはふん! とでも言いたげに一瞥し、素朴な顔に似合わぬ勝ち気な表情で口角をあげた。
「野郎だからこんくらい行けるだろ。ごちそうさま」
そういって手を振りほどいてエピクは、瞬きの間に取り出した時計のはめ込まれたカンテラを掲げて魔力を込めた。込める魔力が強すぎて身体から黄色い魔力の流れがエピクの周辺にとぐろを巻いていた。
【権限の行使を許したまへ 時と空間を司るエピク・ランティッドが命令する
時の始まりを 命の始まりを 光の始まりを 概念の揺り篭に揺蕩う全てよ
今一度我の呼びかけに答えよ 産まれ 育み 可能性の枝を我の願いのまま伸ばしたまへ
ル デキャラージュ オレール】
・
・
にちゃぬちゃ、にちゃにちゃ……生暖かいあの人のを口に塗った。滑稽な表情がもっと滑稽になった。無表情でもなんでも口に塗っただけで、ただ滑稽な姿になれた。鏡を見て微笑めばくたりと笑うガタイだけいい道化師がこちらを見ていた。
くちゃ、めちゃ、ち、ち、ち。
無心で口に運んだ。鉄の匂い……錆びの匂い。流れる物はドワーフと一緒で余計に滑稽に笑った。物が作るのが得意なドワーフに漏れず自分も得意だった。けど、料理の才能は自分にはないみたいだ……焼いて原形を崩す度胸もなかったようだ。無心で口を動かせば、いつからか目の前のあの人は骨になった。まだだ、まだだ……。
パリパリ、ガリガリ。
固くて粉っぽい。一度砕いてしまえば骨は砂糖の塊のようにボロボロと口の中で崩れる。自分の中の理性も無くなる気がした。いつのまにか、彼女の痕跡はこの機械と下に染み渡る血だけだった。
怖くなって俺は逃げた。いつでも引き返せる線をとっくに越えて……隠し部屋からなだれ落ちるように飛び出した。衛兵もなにもかもを無視して自分の部屋へと飛び込んだ。もう死んでしまった愛すべき人に送るはずだった化粧品や宝石の数々をひっぱり出しては投げ出した。
「殿下! なにがあったのですか! 開けてください」
衛兵の声を無視して、備え付けの鏡に移る滑稽な自分を殴り殺した。キラキラと割れて宙に舞う様だけはとても綺麗だった。投げ捨てた化粧品を拾い上げて、割った鏡で化粧をした。思い出の彼女はこんな風にしたら綺麗だろう、贈ったらこんな風に俺が整えさせて貰おう、そう心躍ったあのときの記憶が……今は痛い。
血だらけの顔を魔法で浄化して、ペタペタと顔に塗った。彼女に施したかった化粧を自分に施したその滑稽さが笑えた。そうだ、俺は滑稽だ……。
【黒い髪の女の人と白い髪の男の人が支え合うようにして、お城で暮らして居たわ。アダムスともドワーフ国とも違う格式のお城だから……多分ペルマネンテね。女の子が私の子かしら? それもと白い髪の子……はたまたどちらもかも知れないわね。もし、会うことになったらあの子達の幸せな未来を……守って欲しい。約束よ、忘れないで、私の心は貴方の物だから……ずっと】
約束……。
オ ヤ マ
レ ク モ
ハ ソ ッ
ワ ク タ
ル ヲ ダ
ク ケ
ナ
イ
殺された。彼女は殺された。ペルマネンテが破綻して吸収されればリチェルリットは安泰という悪魔の100年先か200年先を見越した計算によって彼女は殺された。約束を残して……行ってしまった。契約を反抗したペルマネンテを悪魔の策略という不確かな理由で、支援することは許されなかった。殿下と呼ばれようが王子と呼ばれようが……無力だった。だから……。
俺は国を捨てた。今は王族とその一部の上だけ知る事実……これから起こる自然枯渇の危機をしって怖じ気づいて亡命した。そんな理由にして国を捨てた……約束を守るために。約束を守るため、ただそれだけの為に罪悪感も恐怖も……何もかもを押さえ込み握り潰した。快楽殺人者……そうだろう、約束のためにという事を掲げて全ての感情を押し込んで来たのだから。
敵陣の幹部となって……初めて使者という形でペルマネンテへ赴くことができた。そこで……彼女の一人息子にあった。切り揃えられた髪……遠目から見れば女の子のような綺麗な顔立ちと、全てを諦めたような子にあるまじき瞳を持つ無表情の少年。
「お初にお目に掛かります。ラブマルージュ様……グラス・ペルマネンテと申します」
「あらぁ、流石は彼女の息子さんねぇ。んふ、優秀だわぁ」
「ありがとうございます。失礼ですが、母と面識が?」
「えぇ! 白い髪の男の子と黒い髪の女の子……の未来視とか聞いたくらいの な か よん!」
そうして、今にも風と消えそうな彼にリチェルリットに行くならばいつでも手助けすると言って別れた。初めて行ったペルマネンテは汚泥を被る豚よりも……汚い人間で溢れていて。この中に居させよう物ならば……彼も染まりそうで怖かった。
そして、着々とおかしくなっていく悪魔に目を光らせて、エリニュスを操り、アダムスも手玉に取り……カリスティアちゃんを助けて……。天使族に地位の失墜と宗教国家の離反は、ディアの策略と刷り込んで……襲わせた。ここまでは順調だったのに。
「なんで、生きる気力とりもどしちゃったのかしらぁ……。も~アタシの努力が水の泡だわぁん」
「アハハ、僕でさえカリスティアという少女が怖くて躍起になったんだ。ドワーフ如きが御しきれる訳がないだろう?」
表情は豊かになれど、心に傷を負った少女……少しつつけば逆上して怒りをディザに向けられると思ったがそうではなく、小さい身体で自分とは別の異世界人の死を受け止めてアタシを攻撃した。巻き込みたくないから手荒に吹っ飛ばしたんだけど……まさか反撃する気力が残ってたのも誤算だったわ。
「そうねぇ、ちょっと彼女たちを見くびって居たのは否定しないわ。成長しすぎて予想外のことばっかりするんだもの」
素手で魔法を叩き壊し、懐に入れば、別の魔法で吹っ飛ばされ……吹っ飛ばし返す。緩い会話の中で行われる戦いは、純粋に勝てば俺の約束は果たされ……。負ければ果たされない。未来と運命を揺るがすディザを倒すことが、守ること……果たすこと。だから今の今まで……背負ってきたのだ。
「今更戻れないんだよ」
「奇遇だね。僕もそうだ」
・
・
「速すぎてもはや見えない」
結界の外から様子は見えるらしいんだけど……速すぎて線と地面の塵の動きしか見えない。回復したグラスは首が時折動くからなんとか見えてるっぽい……悲しい。そんなふうにしょぼーんとしてると、私と身長がいつのまにか同じくらいになったエピクがガシガシと頭を撫でて、気付けをするようにパン!とお尻を平手うちしてきた、痛い。
「お前ら、ここは自分だけで充分だ。【転移】」
「わーい、いきなりだ~」
もはや、やけくそ気味に反応した。転移させられられたのは、先ほどの戦場で……未だに天使達の頭から降り注ぐ猛攻は続いている。ここまで話しの中心部に添えられるのにいまいち外野にさせられて不機嫌のままに……降り注ぐ天使達に手をかざした。
【傷心魔術 拒絶】
弱体化しているとはいえ、私の使える魔法の中では使い勝手も威力もピカイチの傷心魔術。天使達を切り裂いて雲の向こうまでまっすぐに、赤黒い刃が飛んでった。壮観だねぇ……このまま狂わない自分を具現化させるのにも慣れたし、使いこなしたってことでもう一度と手をかざしたら、グラスに手を掴まれた。
「カリスティア、禁術を許可した覚えはありません。辞めなさい。【フリーレン】」
反対の腕で、もはや敵すら見ずに天使を凍り漬けにしながら、私を氷にするような目で睨み付けるグラス。最近は脅しに磨きか掛かって本当に怖いので、すぐに傷心魔術を引っ込める。
「釈然としない気持ちはわかります……が、中心に近いからこそ……この先は知らない方が良いのですよ。私も貴女も、わかったら行きますよ」
どこか釈然としないままに、私達は天使達を退け続けた。背中を預け預けられの繰り返し……。どれだけ時間が経っただろうと上を見上げれば天使の羽の向こうには……てっぺんに登ったばっかりのお日様が雲の間から見えている。やっと昼頃……眩しく様子を見ていると……戦況はいっぺんした。
【最後の審判の時である】
太陽を背にした優美な青年が大きなラッパを吹いた。一瞬なにをしているのかと理解が及ばなかったことが混乱の一手だった。グラスは何かを知っているだろうと、グラスに聞こう……そう思ってグラスの方へ顔を向けたら、先ほど倒した天使が剣を持って、上空の様子を見ているグラスの首へ振り下ろす寸前だった。
「グラス!!!」
咄嗟にグラスを突き飛ばして、力いっぱい天使を殴った。自身の左手の指がリズミカルに音を鳴らしたと思ったらすぐに激痛が……骨が折れた。そしてすぐに、私の首にも剣が添えられ……それはグラスが氷魔法で防いでくれた。状況を見るために、私は風魔法で、グラスは転移で家の屋根まで飛ぶと……ラッパの音に呼応するように、倒した天使達が起き上がって攻撃していた。
「なんな、ぎゃあああああ」
「あの、らっぱだ! 風魔法をつかえるや、はや」
上から下に挟み込まれる予想外の攻撃であたりが血に染まる。私もグラスも救援しながら戦わねばならない状況を重く受け止め、その真っ赤のなかに再度降り立つ。
救援に注意を向ければいつの間にか眼球スレスレに剣が、戦闘に注意を向ければ、息の浅い物から命の灯火が消えてゆく。どこえ向かっても最悪なこの状況でも耳障りなラッパは鳴り響いた。
「い、つ」
疲労はどうしても蓄積する。足下がおぼつかなくなって来た頃に天使達の矢や魔法や剣の傷が身体に薄く刻まれてゆく。グラスのほうも、いつの間にか薄く傷が増えてきた。襲ってくる天使の剣を受け止めようと身体をひねった。
するりっ
「やば」
おぼつかない足が一瞬動かなくなって体勢が崩れた。これは痛い一撃を貰うと覚悟して、突撃してくる天使を見据える。グラスも疲労からか、退けられる天使を退けられなくて私の元へ迎えずに叫んだ。
「私のカリスティアちゃんとグラス君に何するの!!!」
「俺を放り投げないでくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
上から降ってきた黄緑と……茶色に目をパチクリさせて地べたにペタンと座り込む。たしか別の方を守ってたアドラメルクママと……放り投げられて後から降ってきたドロウ君がママに片手で受け止められた。遅れてきた爆音に驚いて、先ほどの天使が居るところをみると……あんまり損傷なく立っていた家が……崩れていた。一軒だけじゃなくまっすぐ5件くらいの家が……お陀仏だった。
「ひ、久しぶりだな。二人とも。 あは、あははは……」
宗教国家の時よりもゲッソリして魂の抜けたドロウ君の笑い声が……力なく戦場にぽとりと落ちた。
親友を守って死ねたことに満足していた私って一体何なんだろう。
自分の基盤が揺れた気がした。それでも歯を食いしばって耐える……今此処で泣いて怒鳴れたらどれほどいいだろう。何度も何度もそう思った。何度も自分で自分を慰めて大丈夫、大丈夫と自身をあやす。グラスも私の手も震えたまま……。けど、意を決して私はインビジブルマントを解いた。続けてグラスもマントを脱いだ。
「今の話し……聞かせてもらったよ」
「やぁやぁ、カリスティアちゃんとグラス君。天使族の争いのどさくさの中僕を殺しに来た二人をエピクと一緒に助けに来てくれたんだね」
「……はい」
芝居掛かった口調で事の顛末を簡潔に説明するディザ、その目線の先にはグラスがローブに忍ばせている水晶へ……。触れているからわかる魔力の流れでちゃっかりグラスは音声を水晶で記録していたみたいだ。互いの手が震えてるけど、今はそれに助けられた。震えてるけど、自分で自分を落ち着けて前を向ける。怖くても握り締めてくれる手が、グラスが此処に居る。
「カリスティアちゃんもグラス君も助けに来て良いのかしら? 元を正せばこの悪魔ちゃんが……元凶なのよ」
「それでも、私は許すと決めたの。今はラブちゃんが嫌い……だし殴りたい。けど、私を貴重な時間をこれ以上使ってあげない、わかったら話しかけないで」
物語のヒーローのように激高できたらどれほどいいだろう。物語のように勧善懲悪で済めばどれほどいいのだろう。皆立場があって皆そうする理由があって……自分自身もそれを責められるような立場になくて。責められるほど完璧な人間じゃないから、私は怒りも何もかも置いて精一杯出たのが話しかけないで。これが……私の精一杯の【拒絶】だ。ラブマルージュもエリニュスも一瞥してグラスの手を引いて鎖に繋がれたディザの目の前まで来た。余裕面のまま顔は動かない。
「どうしたんだい? 僕を直接にでも殺したいかーい?」
不敵に笑うディザの顔スレスレまで顔を近づけた。なお動揺の目は見えない。
「……。【わたくしは貴男を愛して居ました】自然の意思が渡さないんじゃなくて……今のディザが女王様に会うに値しないとご本人が判断したからだよ。伝えたからね」
これを言ってディザの顔は初めて歪んだ。それを見て……私は最初で最後の反撃をした。
「私の世界では愛の反対って無関心って言われてたの。もし……この世界でもそうなら、そうやってわからなくて、理解出来なくて苦しんでいる今の状態が……愛だと思うよ」
ディザは最初から王妃を愛していた。わからないと斜め上の行動をして、頭を悩ませ狂う……それがディザの無意識の愛の証明。苦しめば苦しむほど、狂えば狂うほど……それが愛だという乾いた証明。なんで国を縛り付けて任せたのか、その心情は残念ながら私には到底わからない。
「殺されるより痛いな……。はは、痛い一撃だ」
「けど本格的に死ねなくなったでしょ?」
わからない物だと理解した。その上で愛を囁くことはできる……それがディザの出来る精一杯の愛。その鍵を私が無理矢理持たせたのだ。こんな長年のチャンスと悲願の達成……諦められる訳ない。ディザは笑った、憑きものが落ちたみたいに。けれど痛々しく空気を口から漏らすように笑った。
【契約を解除する】
「ッッッ……! 髪が」
「これで、君たち一族は自由だ。けど、この国にたて付くのでしたら、そーですね……そのときは直接僕がお相手しましょう」
契約解除と共に赤銅色になってゆくエリニュスの髪、虹色の髪のせいでギラギラしたイメージの雰囲気だったが今は少し蛇目のアジア系の美しい女性になった。最初の一言以外に言葉を発することなくエリニュスは、槍から手を離しノロノロと、ラブマルージュ、や私達を通り過ぎて消えていった。去る瞬間に発した「もう、痛くない」と言う言葉だけ残して消えた。
「あんなに怨んでいたのにあっけなくおわっちゃったわねぇん」
「ラブマルージュ様はどうされるのですか?」
お一人で? グラスが冷めた声でラブマルージュを射貫いた。ラブマルージュは最初会ったときのようにニッコリと笑い……。
「ッッッ……。う゛」
私の身体は宙へ舞った。
素手でまっすぐ私の腹を一付きした。その後はスローモーションのように全てがゆっくりになった。グラスが私が吹っ飛ばされてからやっと顔をこちらに向けた。ゆっくりと痛々しく目を開いてゆっくりと「カリスティア!」っと叫んだ。エピクは素早く「コレは貸しだ!」っと叫んでディザの枷を、どこから持って来たのか鍵を外した。そこで私のスローモーションは途切れて、私の身体は頑丈な石壁にぶつかってもまだ勢いが衰えず……。壁を突き破って大体マンション六階くらいの高さの空中へ放りだされた。
放り出された瞬間に自動で障壁を作ってくれる魔具が、また全部壊れた。はじけ飛ぶように壊れる物だから、雲の隙間の太陽に照らされて、キラキラと魔具の残骸が綺麗に光った。現実逃避からか……「綺麗」と場違いなことを呟いてすぐに浮遊感が襲ってきた。私は自身が突き破って出てきた穴の中に居るニッコリとしたラブマルージュに向かって縋るように手を伸ばして……唱えた。
【傷心魔術 拒絶】
ただでやられてたまるもんか、そうやって悪戯にニッコリと笑って拒絶の刃を放った。赤黒い拒絶の刃、私の中にまだまだこんな汚い傷があるのかと関心して、笑って落ちてった。風魔法で威力を殺しながら落ちたら少なくとも死ぬことはない、けど……それを差し置いて攻撃に使うなんて思わないでしょ? 確かな手応えとともに遠くなっていく塔のてっぺん、感覚で近付いてくるのがわかる地面。どうせ今回もそうだろうと思って笑って目を瞑った。
「カリスティア!」
「……やっぱり来るよねーグラス」
転移で落ちた私の所まで来て、私の身体を抱きかかえ地面へ着地した。足下には障壁など衝撃を和らげる魔法を無数に張ってあった。着地した瞬間に口にモルゲンスペシャルを乱暴に口に突っ込まれた。モゴモゴ言いながら喉仏に当たったらどうするんだ! と、不満げに睨み付けると。数倍の冷気を纏った鋭い目でキッ! と見つめ返されあえなく目をそらした。無茶苦茶怒ってる。
「私が間に合わなかったらどうするつもりだったのですか!!! カリスティアは毎回毎回……」
「もごもごごん ごっご もーごごーん(私だって好きで壁を突き破る威力で殴られたわけじゃないから許してよ)」
「その事ではなくて、なんで風魔法に魔力を回さなかったのかと言っているのです」
「もごもご(だってグラスが助けに来てくれるって信じてた)」
「貴方という人は……。やった方のラブマルージュ様でさえ、カリスティアが風魔法で着地すると思って居たから殴り飛ばしたそうで、傷心魔術を片手でひねり潰しながら叫んで居ましたよ」
「もごんもごん。もご……(私の決死の傷心魔術ひねり潰されて悲しい)」
「彼は100年以上生きていますので、そもそも人間がどうこうできる相手ではありません。こればっかりは諦めてください」
「もーご!(はーい!)」
「……良くそれで会話通じるな。ほら巻き込まれる前にここから離脱するぞ」
私達の会話を見て同じく転移で下に降りてきたエピクがあきれ顔でそう言ってきた。モルゲンスペシャルのお陰で瞬時に怪我は治ったけど。何千年も生きている悪魔とそれに一杯食わせる曲者のオカマの戦いでは、足手纏いなのは確実なのでエピクの言うことに首を縦に降って了承すると【転移】っと言う声とともに見晴らしのいい城の屋根の上に居た。
「本当はすぐにでも離脱させたいんだが、あの二人を異空間結界に閉じ込めるのは自分の魔力だけじゃ無理だ。二人の魔力をくれ、じゃないと天使族を退けても、帰る城が塵になる。あいつらもソレがわかってるから見ての通りに今はにらみ合いで済ましてる。ほら、もうお前らが居た所に移動してる」
「……いつのまに」
いつの間に私達が居た所に、ディザとラブマルージュが居た。お互い不敵ににらみ合って笑いあっている。仮の異空間を作り上げてそこで戦って貰えば、城に被害が及ばずに全力で戦えるそうだ。エピクは時間と空間魔法のスペシャリストだからそれが可能なんだけど、相手の魔力が強大過ぎて自分の魔力が足りないらしい。
「自分の片手に二人とも触れてくれ、それだけでいいさ、あー久々に肩が凝りそうだ」
「もご、ぷはぁ……。わかった」
「わかりました」
私とグラスは言われたままにエピクの差し出された左手を握ると、グンッと中の魔力がごっそり持ってかれた。びっくりしたけど、言うほどの量は持ってかれてない。拍子抜けしていると隣のグラスが手を握りながらふらついて私に寄りかかってきた、私はびっくりして、グラスを寝かして膝に乗せた。顔が若干血の気がなくなっていた。
「手加減なしで持って行きましたね……」
絞り出すように言った言葉に若干の非難が混じっていた。それをエピクはふん! とでも言いたげに一瞥し、素朴な顔に似合わぬ勝ち気な表情で口角をあげた。
「野郎だからこんくらい行けるだろ。ごちそうさま」
そういって手を振りほどいてエピクは、瞬きの間に取り出した時計のはめ込まれたカンテラを掲げて魔力を込めた。込める魔力が強すぎて身体から黄色い魔力の流れがエピクの周辺にとぐろを巻いていた。
【権限の行使を許したまへ 時と空間を司るエピク・ランティッドが命令する
時の始まりを 命の始まりを 光の始まりを 概念の揺り篭に揺蕩う全てよ
今一度我の呼びかけに答えよ 産まれ 育み 可能性の枝を我の願いのまま伸ばしたまへ
ル デキャラージュ オレール】
・
・
にちゃぬちゃ、にちゃにちゃ……生暖かいあの人のを口に塗った。滑稽な表情がもっと滑稽になった。無表情でもなんでも口に塗っただけで、ただ滑稽な姿になれた。鏡を見て微笑めばくたりと笑うガタイだけいい道化師がこちらを見ていた。
くちゃ、めちゃ、ち、ち、ち。
無心で口に運んだ。鉄の匂い……錆びの匂い。流れる物はドワーフと一緒で余計に滑稽に笑った。物が作るのが得意なドワーフに漏れず自分も得意だった。けど、料理の才能は自分にはないみたいだ……焼いて原形を崩す度胸もなかったようだ。無心で口を動かせば、いつからか目の前のあの人は骨になった。まだだ、まだだ……。
パリパリ、ガリガリ。
固くて粉っぽい。一度砕いてしまえば骨は砂糖の塊のようにボロボロと口の中で崩れる。自分の中の理性も無くなる気がした。いつのまにか、彼女の痕跡はこの機械と下に染み渡る血だけだった。
怖くなって俺は逃げた。いつでも引き返せる線をとっくに越えて……隠し部屋からなだれ落ちるように飛び出した。衛兵もなにもかもを無視して自分の部屋へと飛び込んだ。もう死んでしまった愛すべき人に送るはずだった化粧品や宝石の数々をひっぱり出しては投げ出した。
「殿下! なにがあったのですか! 開けてください」
衛兵の声を無視して、備え付けの鏡に移る滑稽な自分を殴り殺した。キラキラと割れて宙に舞う様だけはとても綺麗だった。投げ捨てた化粧品を拾い上げて、割った鏡で化粧をした。思い出の彼女はこんな風にしたら綺麗だろう、贈ったらこんな風に俺が整えさせて貰おう、そう心躍ったあのときの記憶が……今は痛い。
血だらけの顔を魔法で浄化して、ペタペタと顔に塗った。彼女に施したかった化粧を自分に施したその滑稽さが笑えた。そうだ、俺は滑稽だ……。
【黒い髪の女の人と白い髪の男の人が支え合うようにして、お城で暮らして居たわ。アダムスともドワーフ国とも違う格式のお城だから……多分ペルマネンテね。女の子が私の子かしら? それもと白い髪の子……はたまたどちらもかも知れないわね。もし、会うことになったらあの子達の幸せな未来を……守って欲しい。約束よ、忘れないで、私の心は貴方の物だから……ずっと】
約束……。
オ ヤ マ
レ ク モ
ハ ソ ッ
ワ ク タ
ル ヲ ダ
ク ケ
ナ
イ
殺された。彼女は殺された。ペルマネンテが破綻して吸収されればリチェルリットは安泰という悪魔の100年先か200年先を見越した計算によって彼女は殺された。約束を残して……行ってしまった。契約を反抗したペルマネンテを悪魔の策略という不確かな理由で、支援することは許されなかった。殿下と呼ばれようが王子と呼ばれようが……無力だった。だから……。
俺は国を捨てた。今は王族とその一部の上だけ知る事実……これから起こる自然枯渇の危機をしって怖じ気づいて亡命した。そんな理由にして国を捨てた……約束を守るために。約束を守るため、ただそれだけの為に罪悪感も恐怖も……何もかもを押さえ込み握り潰した。快楽殺人者……そうだろう、約束のためにという事を掲げて全ての感情を押し込んで来たのだから。
敵陣の幹部となって……初めて使者という形でペルマネンテへ赴くことができた。そこで……彼女の一人息子にあった。切り揃えられた髪……遠目から見れば女の子のような綺麗な顔立ちと、全てを諦めたような子にあるまじき瞳を持つ無表情の少年。
「お初にお目に掛かります。ラブマルージュ様……グラス・ペルマネンテと申します」
「あらぁ、流石は彼女の息子さんねぇ。んふ、優秀だわぁ」
「ありがとうございます。失礼ですが、母と面識が?」
「えぇ! 白い髪の男の子と黒い髪の女の子……の未来視とか聞いたくらいの な か よん!」
そうして、今にも風と消えそうな彼にリチェルリットに行くならばいつでも手助けすると言って別れた。初めて行ったペルマネンテは汚泥を被る豚よりも……汚い人間で溢れていて。この中に居させよう物ならば……彼も染まりそうで怖かった。
そして、着々とおかしくなっていく悪魔に目を光らせて、エリニュスを操り、アダムスも手玉に取り……カリスティアちゃんを助けて……。天使族に地位の失墜と宗教国家の離反は、ディアの策略と刷り込んで……襲わせた。ここまでは順調だったのに。
「なんで、生きる気力とりもどしちゃったのかしらぁ……。も~アタシの努力が水の泡だわぁん」
「アハハ、僕でさえカリスティアという少女が怖くて躍起になったんだ。ドワーフ如きが御しきれる訳がないだろう?」
表情は豊かになれど、心に傷を負った少女……少しつつけば逆上して怒りをディザに向けられると思ったがそうではなく、小さい身体で自分とは別の異世界人の死を受け止めてアタシを攻撃した。巻き込みたくないから手荒に吹っ飛ばしたんだけど……まさか反撃する気力が残ってたのも誤算だったわ。
「そうねぇ、ちょっと彼女たちを見くびって居たのは否定しないわ。成長しすぎて予想外のことばっかりするんだもの」
素手で魔法を叩き壊し、懐に入れば、別の魔法で吹っ飛ばされ……吹っ飛ばし返す。緩い会話の中で行われる戦いは、純粋に勝てば俺の約束は果たされ……。負ければ果たされない。未来と運命を揺るがすディザを倒すことが、守ること……果たすこと。だから今の今まで……背負ってきたのだ。
「今更戻れないんだよ」
「奇遇だね。僕もそうだ」
・
・
「速すぎてもはや見えない」
結界の外から様子は見えるらしいんだけど……速すぎて線と地面の塵の動きしか見えない。回復したグラスは首が時折動くからなんとか見えてるっぽい……悲しい。そんなふうにしょぼーんとしてると、私と身長がいつのまにか同じくらいになったエピクがガシガシと頭を撫でて、気付けをするようにパン!とお尻を平手うちしてきた、痛い。
「お前ら、ここは自分だけで充分だ。【転移】」
「わーい、いきなりだ~」
もはや、やけくそ気味に反応した。転移させられられたのは、先ほどの戦場で……未だに天使達の頭から降り注ぐ猛攻は続いている。ここまで話しの中心部に添えられるのにいまいち外野にさせられて不機嫌のままに……降り注ぐ天使達に手をかざした。
【傷心魔術 拒絶】
弱体化しているとはいえ、私の使える魔法の中では使い勝手も威力もピカイチの傷心魔術。天使達を切り裂いて雲の向こうまでまっすぐに、赤黒い刃が飛んでった。壮観だねぇ……このまま狂わない自分を具現化させるのにも慣れたし、使いこなしたってことでもう一度と手をかざしたら、グラスに手を掴まれた。
「カリスティア、禁術を許可した覚えはありません。辞めなさい。【フリーレン】」
反対の腕で、もはや敵すら見ずに天使を凍り漬けにしながら、私を氷にするような目で睨み付けるグラス。最近は脅しに磨きか掛かって本当に怖いので、すぐに傷心魔術を引っ込める。
「釈然としない気持ちはわかります……が、中心に近いからこそ……この先は知らない方が良いのですよ。私も貴女も、わかったら行きますよ」
どこか釈然としないままに、私達は天使達を退け続けた。背中を預け預けられの繰り返し……。どれだけ時間が経っただろうと上を見上げれば天使の羽の向こうには……てっぺんに登ったばっかりのお日様が雲の間から見えている。やっと昼頃……眩しく様子を見ていると……戦況はいっぺんした。
【最後の審判の時である】
太陽を背にした優美な青年が大きなラッパを吹いた。一瞬なにをしているのかと理解が及ばなかったことが混乱の一手だった。グラスは何かを知っているだろうと、グラスに聞こう……そう思ってグラスの方へ顔を向けたら、先ほど倒した天使が剣を持って、上空の様子を見ているグラスの首へ振り下ろす寸前だった。
「グラス!!!」
咄嗟にグラスを突き飛ばして、力いっぱい天使を殴った。自身の左手の指がリズミカルに音を鳴らしたと思ったらすぐに激痛が……骨が折れた。そしてすぐに、私の首にも剣が添えられ……それはグラスが氷魔法で防いでくれた。状況を見るために、私は風魔法で、グラスは転移で家の屋根まで飛ぶと……ラッパの音に呼応するように、倒した天使達が起き上がって攻撃していた。
「なんな、ぎゃあああああ」
「あの、らっぱだ! 風魔法をつかえるや、はや」
上から下に挟み込まれる予想外の攻撃であたりが血に染まる。私もグラスも救援しながら戦わねばならない状況を重く受け止め、その真っ赤のなかに再度降り立つ。
救援に注意を向ければいつの間にか眼球スレスレに剣が、戦闘に注意を向ければ、息の浅い物から命の灯火が消えてゆく。どこえ向かっても最悪なこの状況でも耳障りなラッパは鳴り響いた。
「い、つ」
疲労はどうしても蓄積する。足下がおぼつかなくなって来た頃に天使達の矢や魔法や剣の傷が身体に薄く刻まれてゆく。グラスのほうも、いつの間にか薄く傷が増えてきた。襲ってくる天使の剣を受け止めようと身体をひねった。
するりっ
「やば」
おぼつかない足が一瞬動かなくなって体勢が崩れた。これは痛い一撃を貰うと覚悟して、突撃してくる天使を見据える。グラスも疲労からか、退けられる天使を退けられなくて私の元へ迎えずに叫んだ。
「私のカリスティアちゃんとグラス君に何するの!!!」
「俺を放り投げないでくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
上から降ってきた黄緑と……茶色に目をパチクリさせて地べたにペタンと座り込む。たしか別の方を守ってたアドラメルクママと……放り投げられて後から降ってきたドロウ君がママに片手で受け止められた。遅れてきた爆音に驚いて、先ほどの天使が居るところをみると……あんまり損傷なく立っていた家が……崩れていた。一軒だけじゃなくまっすぐ5件くらいの家が……お陀仏だった。
「ひ、久しぶりだな。二人とも。 あは、あははは……」
宗教国家の時よりもゲッソリして魂の抜けたドロウ君の笑い声が……力なく戦場にぽとりと落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる