30 / 138
9月
2.
しおりを挟む
――よく寝た。
慎一郎が目覚め手を伸ばすと、隣は空だった。千晶がいると眠りが深くなるのか、朝まで一度も目が覚めない。慎一郎にしては長く眠り過ぎるともいえる。
時刻はまだ7時30分。起きてもいいし、休日なら二度寝してもいい時間だ。
なんとなく立ち上がり、寝室を出てリビングを覗くと、窓辺にその姿があった。
朝日のなか、マリンブルーを纏った横顔は少し俯いていて、声を掛けるのを忘れてしまう。
慎一郎はスマートフォンのスピーカー部分を抑えそっとその姿を撮った。
くぐもったシャッター音は千晶の耳にしっかり届いたようで、振り向きかけて、しゃがみこむ。
夏のリネン――麻の、慎一郎にはさっぱりとした気持ちのいいものだ。が、千晶には張りが強すぎたようで、引きあげた背中が赤くなっていた。千晶は不満を漏らさなかったが、そのまま抱き寄せて、背中に口づけた。
そして用意した青いシルクのフラットシーツ。
千晶はそれを器用に身体に巻いていた。
「どうなってるの?」
「ちょ、すぐ着替えるからあっちいって、コーヒー入ってるから」
一枚しか隠し撮れなかったぶん、よく見てやろうと近づいていく。首の後ろで結んだ、ホルターネックのイブニングドレス風。
「立ってくるっと回ってみてよ」
「いや、もう恥ずかしいから見ないで」
「何が、恥ずかしがるようなもんじゃないでしょ」
やわらかな布は二重になっていて、透けてはいない。所々身体のラインを拾っているのがまた一興。
恥ずかしがる千晶を見なかったことにはできないのか、からかうように見つめる。髪は下ろして左に寄せている、顕わになった肩と肩甲骨と腕に、しっとりとした青。普通にドレスだったら見せてくれるのか、もっとこうドレープを寄せて、そんなことが頭を過りいろいろ着せてみたい――、
いつも似たような服装の千晶をどうとも思ったことはない程度に女性の服装には無頓着で、日本の女の子は特に皆似たような髪型に化粧と服装で彼女らの努力は空しく記憶にも残らなかったのに。
誰かが『脱がせるために服を贈る』と言った意味がわかった。
「笑わないで、忘れてよ。もう」
「そうじゃないよ、アキが可笑しくて笑ったんじゃないよ」
一方の千晶はまるでこそこそ隠れて母親の服や化粧品を使って遊んでいた子供が、当人に見つかったときのように居たたまれない――いつもこざっぱりと流行りとは無縁の服装の千晶も、おしゃれに興味がないわけではない。既成のサイズが合わなくて諦めてるだけでちゃんと憧れはある。
シャワーついでにシーツを持って出るつもりで身体に巻いたら、とても肌ざわりが良くてなんとなく――二重に折って背中から巻いてパレオみたいに前で重ね首のうしろで結んでみたのだ。
「じゃぁ何よ」
「いいから立ってくるっとしてみせてよ。してくれないとベッドへ戻すよ?」
「どっちもやだ」
「それでは一曲、お手をどうぞ」
慎一郎はしゃがみ込んだままの千晶の両手を取って立たせる。手を組み替えて「左足からね」リードする。
「パンイチの紳士に言われても」
「下は見ないの、目線はこっち」
3/4拍子のロックナンバーをゆっくり鼻で歌いながらリズムを取る。躓きそうになりながらも千晶がなんとかついていくと、サビの手前で手を持ち上げくるっとターンさせた。
ふわっと裾がひらめく。
満足そうに微笑みを浮かべる慎一郎――に、今日もこいつの手のひらで踊らされたのかと千晶は苦々しそうに再び膝を折った。
結局また座り込んだ千晶は抱えられてベッドに逆戻りすることになった。
「とにかくシャワー浴びるつもりだったの」
「じゃぁ一緒に」
「やーだー、それよりまたジョリジョリするんだから、先にひげを剃ってよ」
「どうしようかな」
羽交い絞めにして頬ずりをする。「大人しくしてたら剃ってこようかな」
「うーそー、どうせすぐ剃るとは言ってないって」
「ははっ」
そんなくだらない攻防に慎一郎がとても楽しそうに、まるで修学旅行の夜の枕投げのように無邪気に笑う。
「ブルーも似合う」
ベッドにあおむけに押し倒して足元の、ブルーのシーツの合わせ目からのぞく白い肢体。
横から差し込む光が陰影を濃くする。
膝が上げられないように、慎一郎は膝立ちから脛で千晶の脚を軽く抑える。
伸びた手足、首に頭の形。
さてさてと満面の笑みでほほ笑んだ慎一郎を、千晶はかるく上体を起こし枕で殴って応戦した。
慎一郎が目覚め手を伸ばすと、隣は空だった。千晶がいると眠りが深くなるのか、朝まで一度も目が覚めない。慎一郎にしては長く眠り過ぎるともいえる。
時刻はまだ7時30分。起きてもいいし、休日なら二度寝してもいい時間だ。
なんとなく立ち上がり、寝室を出てリビングを覗くと、窓辺にその姿があった。
朝日のなか、マリンブルーを纏った横顔は少し俯いていて、声を掛けるのを忘れてしまう。
慎一郎はスマートフォンのスピーカー部分を抑えそっとその姿を撮った。
くぐもったシャッター音は千晶の耳にしっかり届いたようで、振り向きかけて、しゃがみこむ。
夏のリネン――麻の、慎一郎にはさっぱりとした気持ちのいいものだ。が、千晶には張りが強すぎたようで、引きあげた背中が赤くなっていた。千晶は不満を漏らさなかったが、そのまま抱き寄せて、背中に口づけた。
そして用意した青いシルクのフラットシーツ。
千晶はそれを器用に身体に巻いていた。
「どうなってるの?」
「ちょ、すぐ着替えるからあっちいって、コーヒー入ってるから」
一枚しか隠し撮れなかったぶん、よく見てやろうと近づいていく。首の後ろで結んだ、ホルターネックのイブニングドレス風。
「立ってくるっと回ってみてよ」
「いや、もう恥ずかしいから見ないで」
「何が、恥ずかしがるようなもんじゃないでしょ」
やわらかな布は二重になっていて、透けてはいない。所々身体のラインを拾っているのがまた一興。
恥ずかしがる千晶を見なかったことにはできないのか、からかうように見つめる。髪は下ろして左に寄せている、顕わになった肩と肩甲骨と腕に、しっとりとした青。普通にドレスだったら見せてくれるのか、もっとこうドレープを寄せて、そんなことが頭を過りいろいろ着せてみたい――、
いつも似たような服装の千晶をどうとも思ったことはない程度に女性の服装には無頓着で、日本の女の子は特に皆似たような髪型に化粧と服装で彼女らの努力は空しく記憶にも残らなかったのに。
誰かが『脱がせるために服を贈る』と言った意味がわかった。
「笑わないで、忘れてよ。もう」
「そうじゃないよ、アキが可笑しくて笑ったんじゃないよ」
一方の千晶はまるでこそこそ隠れて母親の服や化粧品を使って遊んでいた子供が、当人に見つかったときのように居たたまれない――いつもこざっぱりと流行りとは無縁の服装の千晶も、おしゃれに興味がないわけではない。既成のサイズが合わなくて諦めてるだけでちゃんと憧れはある。
シャワーついでにシーツを持って出るつもりで身体に巻いたら、とても肌ざわりが良くてなんとなく――二重に折って背中から巻いてパレオみたいに前で重ね首のうしろで結んでみたのだ。
「じゃぁ何よ」
「いいから立ってくるっとしてみせてよ。してくれないとベッドへ戻すよ?」
「どっちもやだ」
「それでは一曲、お手をどうぞ」
慎一郎はしゃがみ込んだままの千晶の両手を取って立たせる。手を組み替えて「左足からね」リードする。
「パンイチの紳士に言われても」
「下は見ないの、目線はこっち」
3/4拍子のロックナンバーをゆっくり鼻で歌いながらリズムを取る。躓きそうになりながらも千晶がなんとかついていくと、サビの手前で手を持ち上げくるっとターンさせた。
ふわっと裾がひらめく。
満足そうに微笑みを浮かべる慎一郎――に、今日もこいつの手のひらで踊らされたのかと千晶は苦々しそうに再び膝を折った。
結局また座り込んだ千晶は抱えられてベッドに逆戻りすることになった。
「とにかくシャワー浴びるつもりだったの」
「じゃぁ一緒に」
「やーだー、それよりまたジョリジョリするんだから、先にひげを剃ってよ」
「どうしようかな」
羽交い絞めにして頬ずりをする。「大人しくしてたら剃ってこようかな」
「うーそー、どうせすぐ剃るとは言ってないって」
「ははっ」
そんなくだらない攻防に慎一郎がとても楽しそうに、まるで修学旅行の夜の枕投げのように無邪気に笑う。
「ブルーも似合う」
ベッドにあおむけに押し倒して足元の、ブルーのシーツの合わせ目からのぞく白い肢体。
横から差し込む光が陰影を濃くする。
膝が上げられないように、慎一郎は膝立ちから脛で千晶の脚を軽く抑える。
伸びた手足、首に頭の形。
さてさてと満面の笑みでほほ笑んだ慎一郎を、千晶はかるく上体を起こし枕で殴って応戦した。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
【19時、駅前。片桐】
その日、机の上に貼られていた付箋に戸惑った。
片桐っていうのは隣の課の俺様課長、片桐課長のことでいいんだと思う。
でも私と片桐課長には、同じ営業部にいるってこと以外、なにも接点がない。
なのに、この呼び出しは一体、なんですか……?
笹岡花重
24歳、食品卸会社営業部勤務。
真面目で頑張り屋さん。
嫌と言えない性格。
あとは平凡な女子。
×
片桐樹馬
29歳、食品卸会社勤務。
3課課長兼部長代理
高身長・高学歴・高収入と昔の三高を満たす男。
もちろん、仕事できる。
ただし、俺様。
俺様片桐課長に振り回され、私はどうなっちゃうの……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる