Bittersweet Ender 【完】

えびねこ

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4月

3.

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 あれから数日、千晶も入学式を迎えた。緊張と喜びを隠しきれない人々と、式次第を淡々とこなす人々。千晶は後者で、自分のスーツ姿さえ他人事のようだった。
 兄が健康診断が済んだら顔を出すと言っていたのに見当たらない。平日で家族が来ている人のほうが少ないから寂しくはないが、騙された気分だ。
 新入学説明会ですでに顔を合わていた数人と写真を撮るだけで、興味のあるサークルもなく早々と切り上げた。

 駅までの道すがら所々咲く花に、それともあの懐かしい香りで思い出したせいなのか、ふとあの日の桜を見てみたくなった。
 
 慣れない地下鉄を乗り継いで、東京タワーに近い公園は駅を出てすぐに分かった。

 一日に満開となってからずっと雨だったのでどうなったかと心配したけれど、寒さで時間が止まったように花びらは細枝にとどまっていた。朝まで降っていた雨の滴をふくんだままの花は曇り空との境があいまいで煙のように滲んでいた。

 5つ上の兄に言われるまま受けた国立大学でちょっと無理だろうと思っていた。合格通知は嬉しさよりも驚きと戸惑いのほうが大きかった。後期試験で予定通りの地元の志望校を受けるつもりでいた。
 それでも入学を決めたのは自分だ、すべり止めの私大との学費の差は年額20万だった。国立6年と私立4年、全期間合計すれば変わらない。辞退する口実ならいくらでもあった。

 あの日彼と見止めた枝垂れ桜も変わらず満開の花房をたゆませていた。

 見上げた花の間に間に太陽の光が透けてみえた。

 (頑張ろう)

 この公園でまた逢えたら、なんて都合のいい偶然は映画かドラマでしか起こらない。彼に逢いたいわけじゃない、でも、記憶の引き出しは開けられた。
 しまい込んだきりの小箱はまだそこにあった。



 ――そんな覚悟も虚しく、

 入学式のあとすぐ授業がはじまると溜息がこぼれた。1年で教養課程をやりきるために授業はすし詰め、選択科目もわずかでほぼ必修と、まるで高校と変わらない。90分5コマの授業に慣れない満員電車…しかもキャンパスは都心だと思ってたら…東京を過ぎて川を二本渡った先の緑あふれる静かな環境にあった。

(群馬なのに東京、千葉なのに東京、相模原なのに――以下略、地名を冠した詐欺多すぎ)

 そんな思いは東京の西の市部に住む千晶だけでなく大半の新入生が勘違いしていたことから錯誤狙いわざとだ。都心の本校舎近くに部屋を借りた上京組は騙されたと言わんばかりにうなだれていた。

 古いモルタル校舎には駅の売店のような生協があるだけ。カフェテリア?なにそれおいしいの?
 誰かが『林間学校…』とつぶやいた、山奥じゃないけど、建物もバンガロー風じゃないけど。
 2年からの本校舎も新しいだけで都心の狭さを縦に有効利用したビル、誰も大学だと気づかない。そして単科大学なので2年以降は選択の余地すらなく、更に忙しくなるらしい。

 つまり、思ったのと違う。

 大学に受かっただけで喜ぶべきなのはわかっている、それでも原因というべき兄を前につい千晶はこぼす。

「大学ってなんかこうもっとイメージがさ、講堂とか噴水とか並木とかチャペルとか重要文化財的な……サークルも運動部しかないし、バイトする時間もないし」

「教会はないでしょ」横で聞いていた弟が突っ込む。

「くだらねぇな、ちょっと調べりゃわかったろ、入学できたからって油断してると留年するぞ、学生の本分は勉強な」
 そういう兄はバイトがメインじゃないのかって生活だ。

「カズが発端なんだからグチ位聞いてやりなよ、正論じゃ人は動かないんだよ」

 弟が冷めた目で兄に進言するが、兄にはまったく響かない。

「誰でもねぇ自分の人生だろ」
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