Bittersweet Ender 【完】

えびねこ

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11月

3.

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「やー変わってない」(前にもきたことがあるのよアピール)
「眺めは少しずつ変わってるじゃない」(何度もきたことあるのよアッピール)
「この前は安藤さんとご一緒に――」(安藤さんとも知り合いなのよ
「隆史さんとは先週――」(もっと親し
 
 ちらほら聞こえてくる女性たちの会話が――和やかに見せかけて、これがマウントなんちゃらか。千晶とその周囲は言わないし言われても相手にしないので一方通行で終わってしまう。こうして探りあい牽制しあう様子を間近で聞くのは実に変な気分だ。
 男性同士は話題の範囲が広いせいか、女性たちよりずっと和気あいあいといった風。それでも、マウントを取ろうとする相手には容赦がないようだ、ようだ、というのも千晶が理解するのは数テンポ遅れてからだったから。
 表立って争うのはは品性に欠けるんだろう、とは理解した。
 一定数は毒のない男女もいて、それが本物の余裕なのか、はたまた裏があるのか、この短時間で読みきれるる程の場数を千晶は踏んでいない。

 バイトの延長でつい空いているグラスを下げ、皿をまとめ料理を追加する。客人の反応もバイト先と同様に気遣いを見せる人と黒子と認識する人に、ごくまれに横柄な人。

「お姉さん、こちらもいいですか」「慎一郎さんとは――」
「彼女ずっとお手伝いしてるよね感心しちゃうな」「ちょっと向こうで一休みしよ?」

 それから千晶が関わろうとしなくても、千晶を気にしてくる人は居るわけで。



「――悪い、絡まれたって?」
「大丈夫だよ。別に酔っ払いのことだし、こんな格好だし下に見られたんでしょ。自分の身だけしか守ってないから、あとはよろしくね」

 適当にやり過ごしていた千晶の元へ家主がやや眉を寄せながらやってきた。
 いてくれと頼まれているのでもない、自由意志でここにいるのだから自己責任、家主も本当にマズいような連中なら来るなと連絡してきただろうという一応の信頼はある、現に酔っていてもばかみたいに騒ぐ者はいない。

 誘われることに馴れてたら勘違いしても無理はないし、弟と一緒に護身術はかじったから油断した男一人なら平気だ。現に家主に泣きついたのは男のほう。
 
「……頼もしいね。それはそうと、俺の生き別れの姉が来ているらしいんだけど、どこかな?」
「そう、どなたかしら」
「千晶さん、アキコさんだっけ? 何か訊かれたんじゃないの?」
「さぁ、どうだったかしら。何かきかれたような気もするけど、よくわからなかったから曖昧に濁しておいたの。
 皆さんのほうがお詳しいんでしょうって」

 相手も姉と思ってのことではなく単なる牽制かもしれない、否定もせず、肯定もせず、どうでしょう、お世話になっています、などど思わせぶりに返している千晶も千晶で楽しんではいた。

「……千晶さんもお上手ですねぇ」
「何がおっしゃりたいの慎一郎さん。あなたの妹ならわかるけれど、いくらなんでも姉はないでしょう」
「ふっ、母親って思ったのを社交辞令でお姉さんって言ったんじゃない?」

 すっとぼける千晶にこれならどうだと、いつもすっとぼけた男が挑発してみる。

「ぼくちゃんのその減らず口はお尻ぺんぺんしたほうがいいのかしら、みんなの前で」

 千晶は少しばかり微笑みながら不快さも見せず言い切った。慎一郎は完璧な外面の前に白旗を上げ、寝室と書斎の鍵を手渡した。

「やめてよマミー。ああ、落ち着いて見えるってことでいいじゃない」
「ふーん、せっかくの余興が」
「あはは、それは止めて。今知り合いに連れ出すよう声かけてもらってるから」
 


 「お疲れ」客らを見送った家主が書斎で休んでいた千晶の元へやってきた。
 粗方の食料は各々の胃袋へ収まった。

 カウチに足を投げ出し手寝そべる千晶の頭側に、慎一郎は腰掛ける。
 そのまま二人まどろむ。

「ホストもお疲れ様でした。珍しいもの食べられたし、雰囲気もわかってよかったよ。大学生でもうちとはタイプが全然違うね」
「だろうね」

 千晶の所はバリバリの体育会系がメインだ。そして端折った言い方が通じないタイプが多い。今日の客人はコミュニケーション能力がとても高かった。

「今日みたいな人達はまだ難しいな。皆さんスマート、クレバーで。狙われないことが一番だと教わったしそう思ってやってきたけど、攻撃も防御なんだろうなと思わされたよ」

「何か得るものがあったならよかったよ」

「うん、苦手なものほど慣れないとね。自信があって貪欲な人は嫌いじゃないんだ。ただ、自分が傍観者ではいられない気がするんだよ」

「前向きだね」
「ただの生存本能だよ、だって強いものが生き残れるんじゃないでしょ、生き残ったものが強いんでしょ」

 千晶の響きはどこまでも傍観者のようだ。
 
「ああ、」慎一郎は千晶の肩に額をこてっと載せる。
「俺は君の血と肉になりたい」

「あなたを食べても私は私にしかなれないよ」

 慎一郎は頭を上げ、千晶の目をみる。見る、見つめられる。ほんの少し、悲しみの色が見えた。

「酔ってる?」
「ぜんぜん酔ってない、ビールだけ」

 口づけた吐息にアルコールを感じて千晶が尋ねれば、お約束の答えが返ってきた。
 慎一郎の首筋を咬む――仕草をする、食べて美味しいんだろうか。脂身は少なそうだけど肉は硬いんじゃないだろうか。圧力鍋か酵素プロアテーゼが必要だ。そんなどうしようもないことが頭に上り、一人笑いながら犬か猫のように首筋を舐めあげる。

「んんー、おいしいのかなぁ」
「くすぐったいよ、食べて」
「私が食べるって表現もおかしい」

「そうだね、咥えこ――「やー、サイテー」

「アキは語彙が少なすぎるよ、官能小説でも読んでもっと表現をね」
「へぇ、あんなのリアルで聞いたら萎むんじゃないの?」
「読んだことあるんだ、ふっ。じゃぁ、次回は大人の読み聞かせを――「いやー、ていぞく」 

 千晶が言ったのは文学ではなくスポーツ紙や週刊誌の中面の下品なほう。
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