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必然
3.
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「僕がスコッチ飲まないの知ってるよね」
「同じ酒でしょ? ゴミ袋はどこ? 指定あるの?」
慎一郎が数種のウィスキーとチェイサー片手に誠仁を訪ねてみれば、一人暮らしの室内は雑然としていた。引っ越して3年、こなれたミッドセンチュリーのインテリアは広さだけで保たれていた。15畳ほどのリビングダイニング、これが7畳のワンルームなら今頃足の踏み場もなくなっている。
記憶では整理整頓の出来る男だった。慎一郎は片づけることを習慣化されただけ、誠仁は片付いていたほうが気持ちいいという男だった。
それが、読みかけ開きかけの本に雑誌。脱いだままの服が層になり、飲みかけのグラスにマグ。食事は外で済ませているらしく食べ残しは見当たらないのが幸いだった。
誠仁が指さした先のキッチンにゴミ袋とゴミの分別カレンダーがあった。独立したキッチンも部屋の景観を保っている。台所は何にも湧いてない、と信じたい。
慎一郎はざっと見渡した室内から衣類を回収し外注に出すものをゴミ袋に詰め、残りを選り分けもせず洗濯機に突っ込む。背後でタオルはとか色ものがどうとか声がしたが聞こえない。
その間にゴミをまとめ、換気をしてお掃除ロボ君にも動いてもらう。
寝室も断って開ける、こちらは机の上と周辺に本が積んであるくらいでほこりっぽいが散らかってはいない、まだ大丈夫そうだ。女の気配は…薄い。
「信じられない、藤堂くんがお掃除してくれてる」ふんぞり返って人を顎で使ってたボンが…慎一郎に言わせれば勝手に先回りしてやりたがっていたから指示したまでなのだが。
「夕飯は? まだなんでしょ」
「何でもいい」
「なんでも?」
「うん」
女みたいな返事が返ってきた、訊き返してあれは嫌だのと言われても面倒なので勝手にデリバリーを頼む。
冷蔵庫には水とヨーグルトに調味料がそれなりに入っていて、料理をした形跡がある。冷凍庫にはうどんと野菜が少々。
キッチンに食洗機はついていない。袖を捲りグラス類を洗う。
「ええ、藤堂くんが食器洗ってる、雪が降りそう」ソファーに凭れた誠仁がだるそうに腰をあげ、のろのろと本やメモを片づけ始めた。
「初めて藤堂くんがコーヒー煎れてくれた時はさぁ、大雨が降ってうちの地下の排水が――」
――いちいちうるさい、掃除を頼む金が無いわけではないだろう。ここは宅配ボックスとオートロックが付いてるだけのマンションだが、ホテルライクな部屋に住むことも可能なはずだ。大学病院から徒歩圏でもないこの部屋にした理由はまだ聞いていない。色々と距離を置きたかったのか。
「誠仁知らない人の手が入るの好きじゃないでしょ」
気怠げな誠仁の顔に少し笑みが差す。
「慎ちゃん好き好き大好き」
今にも抱きつかれそうなセリフに慎一郎は眉を寄せる。
男同士、自分の役割について弱音は吐かない。気の毒だが千晶はうまい具合に誠仁のガスを抜くのだろう。ここへ来たのが千晶なら掃除をしてやっただろうか、それともケツを蹴り上げて誠仁自ら片づけさせたのか。多分後者だろうと想像して口角が緩んだ。
「誠仁、このお茶いつの?」
棚にあった剥き出しの、個包装のティーバッグの緑茶を手に尋ねる。
「んー、忘れた」
「……(熱湯なら多分いける)」
片づければ慎一郎の一人暮らしより温かみのある部屋。ダイニングテーブルではなくリビングのローテーブルで二人床に腰を下ろして夕飯にする。出前を検索していたら出てきた食事制限用のヘルシーメニューだ。
「慎ちゃんがお茶いれてくれたー、やっぱり明日は雪かな」
「食事中は黙って」
案の定『味が薄い、和食って気分じゃない、米ならパエリアがよかった』などと女みたいに言いながらきっちり平らげた。
そして三年分の空白を特に思い出話に花を咲かせることもなく、それぞれ過ごす。慎一郎はパソコンを開き、誠仁は医学書とタブレットを見比べている。
洗濯の終った衣類を乾燥機にかけ、取り出して畳んで――は誠仁がやり始めた。縦型の洗濯機とガス乾燥機は彼のこだわり。
「ほかほかのタオル気持ちいい~ふわふわ~ぶっ刺したい」
(誠仁はイルカだな、人好きのする顔して思考のえげつない)慎一郎はそこまで思ってから、でも彼の背に乗るのは気持ち悪いとイルカを頭から消した。
「同じ酒でしょ? ゴミ袋はどこ? 指定あるの?」
慎一郎が数種のウィスキーとチェイサー片手に誠仁を訪ねてみれば、一人暮らしの室内は雑然としていた。引っ越して3年、こなれたミッドセンチュリーのインテリアは広さだけで保たれていた。15畳ほどのリビングダイニング、これが7畳のワンルームなら今頃足の踏み場もなくなっている。
記憶では整理整頓の出来る男だった。慎一郎は片づけることを習慣化されただけ、誠仁は片付いていたほうが気持ちいいという男だった。
それが、読みかけ開きかけの本に雑誌。脱いだままの服が層になり、飲みかけのグラスにマグ。食事は外で済ませているらしく食べ残しは見当たらないのが幸いだった。
誠仁が指さした先のキッチンにゴミ袋とゴミの分別カレンダーがあった。独立したキッチンも部屋の景観を保っている。台所は何にも湧いてない、と信じたい。
慎一郎はざっと見渡した室内から衣類を回収し外注に出すものをゴミ袋に詰め、残りを選り分けもせず洗濯機に突っ込む。背後でタオルはとか色ものがどうとか声がしたが聞こえない。
その間にゴミをまとめ、換気をしてお掃除ロボ君にも動いてもらう。
寝室も断って開ける、こちらは机の上と周辺に本が積んであるくらいでほこりっぽいが散らかってはいない、まだ大丈夫そうだ。女の気配は…薄い。
「信じられない、藤堂くんがお掃除してくれてる」ふんぞり返って人を顎で使ってたボンが…慎一郎に言わせれば勝手に先回りしてやりたがっていたから指示したまでなのだが。
「夕飯は? まだなんでしょ」
「何でもいい」
「なんでも?」
「うん」
女みたいな返事が返ってきた、訊き返してあれは嫌だのと言われても面倒なので勝手にデリバリーを頼む。
冷蔵庫には水とヨーグルトに調味料がそれなりに入っていて、料理をした形跡がある。冷凍庫にはうどんと野菜が少々。
キッチンに食洗機はついていない。袖を捲りグラス類を洗う。
「ええ、藤堂くんが食器洗ってる、雪が降りそう」ソファーに凭れた誠仁がだるそうに腰をあげ、のろのろと本やメモを片づけ始めた。
「初めて藤堂くんがコーヒー煎れてくれた時はさぁ、大雨が降ってうちの地下の排水が――」
――いちいちうるさい、掃除を頼む金が無いわけではないだろう。ここは宅配ボックスとオートロックが付いてるだけのマンションだが、ホテルライクな部屋に住むことも可能なはずだ。大学病院から徒歩圏でもないこの部屋にした理由はまだ聞いていない。色々と距離を置きたかったのか。
「誠仁知らない人の手が入るの好きじゃないでしょ」
気怠げな誠仁の顔に少し笑みが差す。
「慎ちゃん好き好き大好き」
今にも抱きつかれそうなセリフに慎一郎は眉を寄せる。
男同士、自分の役割について弱音は吐かない。気の毒だが千晶はうまい具合に誠仁のガスを抜くのだろう。ここへ来たのが千晶なら掃除をしてやっただろうか、それともケツを蹴り上げて誠仁自ら片づけさせたのか。多分後者だろうと想像して口角が緩んだ。
「誠仁、このお茶いつの?」
棚にあった剥き出しの、個包装のティーバッグの緑茶を手に尋ねる。
「んー、忘れた」
「……(熱湯なら多分いける)」
片づければ慎一郎の一人暮らしより温かみのある部屋。ダイニングテーブルではなくリビングのローテーブルで二人床に腰を下ろして夕飯にする。出前を検索していたら出てきた食事制限用のヘルシーメニューだ。
「慎ちゃんがお茶いれてくれたー、やっぱり明日は雪かな」
「食事中は黙って」
案の定『味が薄い、和食って気分じゃない、米ならパエリアがよかった』などと女みたいに言いながらきっちり平らげた。
そして三年分の空白を特に思い出話に花を咲かせることもなく、それぞれ過ごす。慎一郎はパソコンを開き、誠仁は医学書とタブレットを見比べている。
洗濯の終った衣類を乾燥機にかけ、取り出して畳んで――は誠仁がやり始めた。縦型の洗濯機とガス乾燥機は彼のこだわり。
「ほかほかのタオル気持ちいい~ふわふわ~ぶっ刺したい」
(誠仁はイルカだな、人好きのする顔して思考のえげつない)慎一郎はそこまで思ってから、でも彼の背に乗るのは気持ち悪いとイルカを頭から消した。
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