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必然
9.
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今日はスーパーの袋をぶら下げて誠仁の部屋を訪ねた慎一郎。
「慎ちゃん料理できたっけ」
「カレーだから」
これでも向こうでスープ位は作っていると慎一郎が付け足せば、誠仁は逆に嫌そうに顔を歪めた。皮もむかずにグダグダに煮込んだ何かを想像したのだ。
「ホテルにキッチンついてないの?」
「無い、失敗したよ」
慎一郎は勝手にキッチンに立ち、買い物袋からあれこれ取り出す。
「…ちゃんと片づけてってね」
誠仁はソファーの前に座り込み本をめくり始めた。
そのソファーの向こう半分には脱いだ服が塚になりつつ、床の本も無造作に積み上がり今にも雪崩を起こしそうだ。言い方を変えれば前回よりはましで一か所にまとまっている。飲みかけのグラスはテーブルとキッチンに数点のみ。だた、この前同様誠仁の顔には疲れが滲んでいるし、服装は黒のスウェット上下。セットアップといえば聞こえはいいが、運動着で生活する男ではなかった。
「――うん、コンロ三つ、奥ね、わかったありがとう」
「慎、今のちあきちゃん?」
慎一郎は炊飯器が無いことに気づき、千晶に鍋で炊飯の方法を尋ねたところ。寄ってきた徒歩5分のスーパーには、炊き立ての白米も、量り売りのカレーも売っている。カット済み野菜と肉を炒めて煮るだけ、それでも作るのは効率重視な慎一郎、どういう風の吹き回しなのか。
誠仁も慎一郎も、料理は「できないのではない、やらないだけ」と自負している。
怪訝そうな顔で誠仁がキッチンへ移動してきた。
「たまに会って話してるだけだよ、お友達」
またつながっているのか、誠仁の言いたいことは通じている。
オトモダチ、誠仁はそう繰り返して、慎一郎の顔を、次いで下半身に目をやる。繊細な問題なだけに、口にしていいのか切なそうに眼を細める。
「俺は元気だよ。こっちの相手は断られたからオトモダチ」
誠仁の視線の意味に気づくと呆れたよう首を振って、マグカップで計量した米を研ぐ。
「それはなにより。ん? あの子が?」
『あなたとは(ヤラないけど)いいお友達でいたいの』と言ったのか。彼女がそんな都合のいい提案をするとは信じがたい。男女の友情が成り立つと信じて疑わない年代の純粋さ故だとは思ってやらない、ひねくれた男。
「いいや、問答無用で断られた」
やや眉をひそめた顔の意味をこれまたしっかり理解して、慎一郎は首を振る。研いだ米を鍋に移し、水も量ってサフランを入れる。
「……頭を打った覚えはある? 目を瞑って……うち脳ドックだけでもやってるよ」
「俺はまだ正気だよ」
誠仁が慎一郎を狂人扱いするのも無理はない。そっちの機能が正常ならヤラないのに友達でいる意味がない。そもそも『お友達』は外面用の表現、仲間うちではもっと下卑た言い方をする。
慎一郎に『彼女』がいた記憶はない。知らないだけかもしれないが、彼が恋について語ったことはない。適当に寄ってくる中から後腐れの無いのと遊ぶだけ。読みが外れても、冷たく何を考えているかわからない男に皆愛想を尽かす。
向こうでいい女はいなかったのか、そんなバカげた質問が出ない位に、誠仁は慎一郎が女性に対して興味も願望を持たないのを知っている。これが手痛い失恋の末ならまだ救いようがある。男女の駆け引きなど時間の無駄、女相手に発揮する狩猟本能も持ち合わせていない。それがこの幼馴染。
千晶と慎一郎の関係性は以前もよく分からなかったが、これで益々分からなくなった。ちょっと遊ぶにしては長すぎた、だからといって千晶が彼女ヅラをすることもなく、一歩下がっていいなりって雰囲気でもなかった。慎一郎は慎一郎で無関心なのか割り切りなのかやきもちだの独占欲を見せもせず、――つまり、ただ一緒にいた。
「何、やっぱり欲しくなったの?」
「そういうんじゃないよ、油ある?」
慎一郎は鍋にバターを溶かして玉ねぎを炒める。誠仁は玉ねぎシャキシャキがいいと注文をつける。
「どうしたいの? 本気で友達になれると思ってないよね。僕は例え慎でも、あの子が誰かに利用される姿は見たくない」
「俺が彼女を利用しているように見えるの?」
考えたこともなかったという顔の慎一郎に誠仁は呆れ、その瞳に批判の色が混じる。
「僕にはね、端からは、逆に彼女が慎を利用してると思うんじゃない」
一瞬だけ手の止まった慎一郎、だが、何事もなかったように、カルヴァドスある?――そう問いつつ床にならんだ瓶から目当てを探し出し手に取った。下味をつけておいた豚肉を酒と炒めて、水を入れる。
「慎ちゃん料理できたっけ」
「カレーだから」
これでも向こうでスープ位は作っていると慎一郎が付け足せば、誠仁は逆に嫌そうに顔を歪めた。皮もむかずにグダグダに煮込んだ何かを想像したのだ。
「ホテルにキッチンついてないの?」
「無い、失敗したよ」
慎一郎は勝手にキッチンに立ち、買い物袋からあれこれ取り出す。
「…ちゃんと片づけてってね」
誠仁はソファーの前に座り込み本をめくり始めた。
そのソファーの向こう半分には脱いだ服が塚になりつつ、床の本も無造作に積み上がり今にも雪崩を起こしそうだ。言い方を変えれば前回よりはましで一か所にまとまっている。飲みかけのグラスはテーブルとキッチンに数点のみ。だた、この前同様誠仁の顔には疲れが滲んでいるし、服装は黒のスウェット上下。セットアップといえば聞こえはいいが、運動着で生活する男ではなかった。
「――うん、コンロ三つ、奥ね、わかったありがとう」
「慎、今のちあきちゃん?」
慎一郎は炊飯器が無いことに気づき、千晶に鍋で炊飯の方法を尋ねたところ。寄ってきた徒歩5分のスーパーには、炊き立ての白米も、量り売りのカレーも売っている。カット済み野菜と肉を炒めて煮るだけ、それでも作るのは効率重視な慎一郎、どういう風の吹き回しなのか。
誠仁も慎一郎も、料理は「できないのではない、やらないだけ」と自負している。
怪訝そうな顔で誠仁がキッチンへ移動してきた。
「たまに会って話してるだけだよ、お友達」
またつながっているのか、誠仁の言いたいことは通じている。
オトモダチ、誠仁はそう繰り返して、慎一郎の顔を、次いで下半身に目をやる。繊細な問題なだけに、口にしていいのか切なそうに眼を細める。
「俺は元気だよ。こっちの相手は断られたからオトモダチ」
誠仁の視線の意味に気づくと呆れたよう首を振って、マグカップで計量した米を研ぐ。
「それはなにより。ん? あの子が?」
『あなたとは(ヤラないけど)いいお友達でいたいの』と言ったのか。彼女がそんな都合のいい提案をするとは信じがたい。男女の友情が成り立つと信じて疑わない年代の純粋さ故だとは思ってやらない、ひねくれた男。
「いいや、問答無用で断られた」
やや眉をひそめた顔の意味をこれまたしっかり理解して、慎一郎は首を振る。研いだ米を鍋に移し、水も量ってサフランを入れる。
「……頭を打った覚えはある? 目を瞑って……うち脳ドックだけでもやってるよ」
「俺はまだ正気だよ」
誠仁が慎一郎を狂人扱いするのも無理はない。そっちの機能が正常ならヤラないのに友達でいる意味がない。そもそも『お友達』は外面用の表現、仲間うちではもっと下卑た言い方をする。
慎一郎に『彼女』がいた記憶はない。知らないだけかもしれないが、彼が恋について語ったことはない。適当に寄ってくる中から後腐れの無いのと遊ぶだけ。読みが外れても、冷たく何を考えているかわからない男に皆愛想を尽かす。
向こうでいい女はいなかったのか、そんなバカげた質問が出ない位に、誠仁は慎一郎が女性に対して興味も願望を持たないのを知っている。これが手痛い失恋の末ならまだ救いようがある。男女の駆け引きなど時間の無駄、女相手に発揮する狩猟本能も持ち合わせていない。それがこの幼馴染。
千晶と慎一郎の関係性は以前もよく分からなかったが、これで益々分からなくなった。ちょっと遊ぶにしては長すぎた、だからといって千晶が彼女ヅラをすることもなく、一歩下がっていいなりって雰囲気でもなかった。慎一郎は慎一郎で無関心なのか割り切りなのかやきもちだの独占欲を見せもせず、――つまり、ただ一緒にいた。
「何、やっぱり欲しくなったの?」
「そういうんじゃないよ、油ある?」
慎一郎は鍋にバターを溶かして玉ねぎを炒める。誠仁は玉ねぎシャキシャキがいいと注文をつける。
「どうしたいの? 本気で友達になれると思ってないよね。僕は例え慎でも、あの子が誰かに利用される姿は見たくない」
「俺が彼女を利用しているように見えるの?」
考えたこともなかったという顔の慎一郎に誠仁は呆れ、その瞳に批判の色が混じる。
「僕にはね、端からは、逆に彼女が慎を利用してると思うんじゃない」
一瞬だけ手の止まった慎一郎、だが、何事もなかったように、カルヴァドスある?――そう問いつつ床にならんだ瓶から目当てを探し出し手に取った。下味をつけておいた豚肉を酒と炒めて、水を入れる。
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