59 / 96
59.紺色の薔薇
グライン公爵家兄弟に、ざわつくナヴィア修道院。レイスが来るのはいつものことだけれど、まさか兄までやって来るとは。
豆鉄砲を喰らったくるっぽー状態になっていると、院長がパン! と手を強く叩いた。その音でハッと我に返る。
「さあ、シスターリグレット。テオドール様に作業の流れを詳しく説明してあげて!」
「は、はい」
まあ協力してくれるというのなら、全力でそれに甘えるのがいいだろう。
そう思ってテオドールに近づこうとすると、何か大きめのものを突き出された。
これは……紺色の薔薇の花束? 花を包み込んでいるラッピングペーパーは薄ピンク色で、可愛らしさがある。
「土産だ」
「ありがとうございます……」
受け取ると、ふわりと上品な花の香りが鼻腔に広がった。
食堂にでも飾ろうかなと思っていると、テオドールは私の顔をじっと見詰めて、
「できれば君の自室に飾ってはくれないだろうか」
「私の部屋にですか? それは全然構いませんけれど」
「そうしてくれると助かる。君をイメージして開発した薔薇だからな」
「ヒェッ」
君にぴったりな薔薇を選んだとかなら分かる。それもまあ、充分重みを感じさせるけれど。
でも開発って何だ。重みの中にチラチラと狂気が垣間見える。流石は攻略キャラ。
しかし渡す相手を間違えてはいないだろうか。ここはリーゼだろ。聖鐘祭でベルもらったのでは?
「……兄上、リグレット様が誤解しているようですよ」
ずいっ、と私とテオドールの間にレイスが割って入った。笑みを浮かべてはいるものの、声が刺々しいし兄を睨みつけている。
「あくまで先日僕を救い、我が国の医学が進歩するきっかけを作ってくださったことへのお礼でしょう? それにその薔薇も、医師団体の要望を受けた薔薇育種家が開発したものではありませんか」
「お前は何を怒っているんだ。俺はシスターリグレットに恋情など抱いてはいないぞ」
「でしたら、誤解されるような言動はお控えください」
「レ、レイス様落ち着いてください。私は誤解していませんから」
私のせいで兄弟間に亀裂ができてしまうのは避けたい。というより、薔薇(しかも私をイメージして開発されたもの)を突然渡されて、ときめくような思考回路は持ち合わせていないので安心していただきたい。
早くこの話題を掻き消さなければと、私は強引に説明に入った。
「今日テオドール様にお願いしたいのは、葡萄に熱風を当てて水分を抜く作業なのです」
「院長から概ねの話は聞いていたが、君は随分と面白いことを考えるな」
「出来上がったレーズンはとても美味しいので、楽しみにしていてください」
「だそうだ、レイス」
「……リグレット様がそう仰るのであれば」
テオドールに話を振られ、怒りが若干鎮火したらしいレイスが頷く。
さて、アントワネットのことも紹介しないと……と思っていると、何故か引き攣った表情で隅っこにいる彼女を発見した。人慣れしていない猫のようになっている。
「アントワネット様?」
「はい……」
どうしたどうした。二人が来る前までは、張り切っていた様子だったのに。
すると、アントワネットに気づいたテオドールとレイスが「ん?」と怪訝そうな顔をした。
「リグレット様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
小声でレイスが私に話しかける。
「彼女は本当に『アントワネット』という名前なのですか?」
「え? はい。アントワネット様はアントワネット様ですよ」
「そう……ですか。いえ、変なことを聞いてしまいました。ただの人違いだったようです」
とレイスは笑って誤魔化しているけれど、テオドールはじっとアントワネットを観察している。
そのアントワネットは気まずそうに視線を逸らしている。
この微妙は雰囲気は一体。
豆鉄砲を喰らったくるっぽー状態になっていると、院長がパン! と手を強く叩いた。その音でハッと我に返る。
「さあ、シスターリグレット。テオドール様に作業の流れを詳しく説明してあげて!」
「は、はい」
まあ協力してくれるというのなら、全力でそれに甘えるのがいいだろう。
そう思ってテオドールに近づこうとすると、何か大きめのものを突き出された。
これは……紺色の薔薇の花束? 花を包み込んでいるラッピングペーパーは薄ピンク色で、可愛らしさがある。
「土産だ」
「ありがとうございます……」
受け取ると、ふわりと上品な花の香りが鼻腔に広がった。
食堂にでも飾ろうかなと思っていると、テオドールは私の顔をじっと見詰めて、
「できれば君の自室に飾ってはくれないだろうか」
「私の部屋にですか? それは全然構いませんけれど」
「そうしてくれると助かる。君をイメージして開発した薔薇だからな」
「ヒェッ」
君にぴったりな薔薇を選んだとかなら分かる。それもまあ、充分重みを感じさせるけれど。
でも開発って何だ。重みの中にチラチラと狂気が垣間見える。流石は攻略キャラ。
しかし渡す相手を間違えてはいないだろうか。ここはリーゼだろ。聖鐘祭でベルもらったのでは?
「……兄上、リグレット様が誤解しているようですよ」
ずいっ、と私とテオドールの間にレイスが割って入った。笑みを浮かべてはいるものの、声が刺々しいし兄を睨みつけている。
「あくまで先日僕を救い、我が国の医学が進歩するきっかけを作ってくださったことへのお礼でしょう? それにその薔薇も、医師団体の要望を受けた薔薇育種家が開発したものではありませんか」
「お前は何を怒っているんだ。俺はシスターリグレットに恋情など抱いてはいないぞ」
「でしたら、誤解されるような言動はお控えください」
「レ、レイス様落ち着いてください。私は誤解していませんから」
私のせいで兄弟間に亀裂ができてしまうのは避けたい。というより、薔薇(しかも私をイメージして開発されたもの)を突然渡されて、ときめくような思考回路は持ち合わせていないので安心していただきたい。
早くこの話題を掻き消さなければと、私は強引に説明に入った。
「今日テオドール様にお願いしたいのは、葡萄に熱風を当てて水分を抜く作業なのです」
「院長から概ねの話は聞いていたが、君は随分と面白いことを考えるな」
「出来上がったレーズンはとても美味しいので、楽しみにしていてください」
「だそうだ、レイス」
「……リグレット様がそう仰るのであれば」
テオドールに話を振られ、怒りが若干鎮火したらしいレイスが頷く。
さて、アントワネットのことも紹介しないと……と思っていると、何故か引き攣った表情で隅っこにいる彼女を発見した。人慣れしていない猫のようになっている。
「アントワネット様?」
「はい……」
どうしたどうした。二人が来る前までは、張り切っていた様子だったのに。
すると、アントワネットに気づいたテオドールとレイスが「ん?」と怪訝そうな顔をした。
「リグレット様、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
小声でレイスが私に話しかける。
「彼女は本当に『アントワネット』という名前なのですか?」
「え? はい。アントワネット様はアントワネット様ですよ」
「そう……ですか。いえ、変なことを聞いてしまいました。ただの人違いだったようです」
とレイスは笑って誤魔化しているけれど、テオドールはじっとアントワネットを観察している。
そのアントワネットは気まずそうに視線を逸らしている。
この微妙は雰囲気は一体。
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした
由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。
無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。
再び招かれたのは、かつて母を追放した国。
礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。
これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです