悪役令嬢の腰巾着に転生したけど、物語が始まる前に追放されたから修道院デビュー目指します。

火野村志紀

文字の大きさ
61 / 96

61.最初の客

 エレナック村に到着すると、広場には大量の屋台が設置されていた。バザーに参加する人たちのために、村人が準備してくれたのだとか。私たちは商品を並べるだけで済むので、大変ありがたい。
 そして既にうち以外の修道院の売り子も集まっていた。予想はしていたものの、どこも同じような見た目の修道服だ。胸元に花の刺繍がされているところもあるけれど。

 レーズンは小さな紙袋に詰めた状態で売ることになった。
 その紙袋も無地&地味なものではなく、水玉模様とか花柄とか黒地に星の絵が描かれたものなど数種類用意した。
 ちなみにデザインしたのはクラリス。テーブルクロスやカーテンを作った経験もあるらしく、ノリノリで考えてくれた。

「金庫は盗難を防ぐために奥に置きましょう。それから商品以外にも、葡萄をこのように並べておくと明るい雰囲気になるかと」

 メロディがてきぱきと動いて、商品や葡萄をテーブルに配置していく。ただ無造作に置いておくよりもお洒落感があって、売る側もワクワクしてきた。

 アントワネット、クラリス、メロディ。この三人、修道女のままにしておくには勿体ないポテンシャルを秘めている。
 それに比べて私は何だ。料理と畑仕事が得意なだけで、特殊なスキルなど持ち合わせていない。これでは他者より秀でた才能もなく、現状維持が精一杯な平社員ではないか。
 何度挑戦しても昇格試験に合格できず、心を病んで退職した友人もこんな焦燥感と絶望を味わったのだろう。こんな体たらくでは、私の最重要ミッションである国外脱出も実現するかどうか。

 歯痒い思いを抱える中、バザーの開始を告げるラッパの音が響き渡った。いつまでも悩んでも仕方ないので、今は目の前のことを一生懸命頑張ろう。

 ぞろぞろと広場を訪れる客たち。他国からも大勢来ているそうなので、すごい人数だ。年末年始の神社とかビックサイトみたいなことになっている。
 さあ、どこからでもかかって来い。うちの店に来たら最後。絶対にレーズンを買わせてやるぞと気合いを入れていると、

「やあ。葡萄を乾燥させたレーズンを売っているというお店はここかな?」

 金髪碧眼の美青年にして、水属性魔法の使い手。最凶ヤンデレ王子ジュリアンが護衛兵を率いてやって来た。
 いや、お前は来ないで欲しかった。何で最初の客として来るんだよ。
 さらに、

「わぁ~、紙袋可愛い! どれも欲しくなっちゃう……っ!」

 ジュリアンの隣に、ヤンデレ吸引機ことリーゼまでおる。しかもジュリアンと腕まで組んで。
 ジュリアンか? ジュリアンルートを選んだのか? だがジュリアンルートで、エレナック村なんて出てこなかったはず……。
 私が訝しむ中、二人は楽しそうに会話を始めた。

「いいよ、リーゼ。全部買ってあげる」
「えっ、だ、駄目ですよそんなの! 申し訳ないです!」
「気にしないで。私は君の笑顔が見たいんだ」
「ジュリアン様……」

 すっかりリーゼにベタ惚れだなと、冷ややかにそのやり取りを眺めていた時だった。ふとこちらに視線を向けたジュリアンの青い目が大きく見開く。
 レーズンでも私でもなく、その後ろにあるものを凝視している。

「……アリス?」

 そんな名前の子はうちにはおらんぞ。と思っていたら、

「どうしちゃったんですか、アントワネット様~!?」

 クラリスの言葉を無視してアントワネットがどこかへ走り出してしまい、

「待ってくれ、アリス!」

 ジュリアンも走り出す。仲良く腕を組んでいたリーゼを荒々しく引き剥がして。
 取り残されたリーゼの顔が『無』になっている。彼女も何が起こったのか、よく分かっていないっぽい。
 護衛兵は護衛兵で、人混みの中に消えていったジュリアンを慌てて追いかけていった。

「………………」
「………………」


 え、何これ……。

感想 429

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした

由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。 無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。 再び招かれたのは、かつて母を追放した国。 礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。 これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです