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妃教育が始まってから半年が過ぎた。
つまり、リュカがブリュエットに側妃宣告してからも半年。
本来であれば結婚式を挙げており、ブリュエットは正式に妃となっている時期だ。
だがエーヴが正妃になるべく妃教育を受けているので、式は延期となった。
側妃が正妃よりも先に式を挙げるなど、あってはならないからである。
「エーヴ、今日くらいは妃教育なんて休んでもいいんじゃないか?」
「いけませんよぉ、リュカ殿下! そんなことを仰っているところをブリュエット様に聞かれたら、怒られてしまいます!」
わざとらしく頬を膨らませつつ、紅茶を飲む姿は相変わらず可愛い。
が、彼女は以前に比べて少しずつ変化している。
まず、見た目が変わった。
幼げで可愛かったツインテールをやめて、バレッタで髪を留めるようになった。
ドレスもレースやフリルをふんだんにあしらった明るい色調のものではなく、緑系のドレスばかり。
宮中のメイドや文官からの評判はいいが、リュカとしては微妙だ。
天真爛漫な彼女の魅力を、損ねているように思えてならない。
(可愛い可愛いエーヴに戻させたい! だが母上の指導によるものだというからな……)
王妃自らが妃教育の最中に姿を見せ、「あなたは美しい髪を下ろし、緑のドレスを着た方が似合いますよ」と進言したらしい。
そしてエーヴはブリュエットに詳しいアドバイスをもらいつつ、ドレスを選んだという。
王妃が彼女の異変に関わっているのなら、口出しするわけにはいかなかった。
「だが最近俺との時間が少なすぎる! エーヴだって勉強ばかりしていると、疲れてしまうんじゃないのか?」
「ですけれど、私が正妃になるための大切なお勉強ですので! それに私はお勉強が大好きですよ? 遊ぶのも楽しいですが、勉強と違って学ぶことが少ないですしぃ……」
「ぐっ……」
エーヴの変化は外見だけではない。
勉学の楽しさに気づき、自主的に勉強時間も設けるようになったのだ。
それに魔法の鍛練にも夢中になっているようで、週に一度は妃教育を休みにしたかと思えば、その目的はブリュエットの講習に参加すること。
結果としてリュカと過ごす時間は激減してしまったが、本人がそれを不満に感じる様子は全くない。
リュカばかりが孤独を感じている。
(俺のエーヴがエーヴじゃなくなっていく……)
別の生き物に作り替えられていくような不快感が腹の中で渦巻く。
微笑を浮かべたブリュエットが、脳裏に浮かぶ。
まさか彼女がエーヴを正妃にするようにと、王妃に進言したのはこれが狙いだったのか。
「あ、そういえば私、同性の友人もできました。私と同じように講習を受講されている方々なのですが、魔法で咲かせたお花を交換し合ったり、終わった後にご一緒にお菓子をいただいているのですよ」
「そ、そんな……そんなくだらないことをしている暇があれば、俺に構え!」
「? 私もリュカ様とはもっとご一緒に過ごしたいと思いますけれど、講習に受講されていませんし……」
不思議そうに首を傾げるエーヴの姿に、苛立ちが込み上げる。
今更受講できるわけがないだろう。
もはやリュカとブリュエットの不仲は、学園内では周知の事実となっているのだから。
「もういい! 自分の部屋に戻れ!」
怒りに任せてテーブルを叩くと、大きく波打った紅茶がカップから溢れてソーサーに零れた。
「はい! ブリュエット様からお借りした御本を早く拝読したいので、戻らせていただきますね!」
エーヴは動じる素振りを見せず、リュカの私室からあっさり出て行ってしまった。
つまり、リュカがブリュエットに側妃宣告してからも半年。
本来であれば結婚式を挙げており、ブリュエットは正式に妃となっている時期だ。
だがエーヴが正妃になるべく妃教育を受けているので、式は延期となった。
側妃が正妃よりも先に式を挙げるなど、あってはならないからである。
「エーヴ、今日くらいは妃教育なんて休んでもいいんじゃないか?」
「いけませんよぉ、リュカ殿下! そんなことを仰っているところをブリュエット様に聞かれたら、怒られてしまいます!」
わざとらしく頬を膨らませつつ、紅茶を飲む姿は相変わらず可愛い。
が、彼女は以前に比べて少しずつ変化している。
まず、見た目が変わった。
幼げで可愛かったツインテールをやめて、バレッタで髪を留めるようになった。
ドレスもレースやフリルをふんだんにあしらった明るい色調のものではなく、緑系のドレスばかり。
宮中のメイドや文官からの評判はいいが、リュカとしては微妙だ。
天真爛漫な彼女の魅力を、損ねているように思えてならない。
(可愛い可愛いエーヴに戻させたい! だが母上の指導によるものだというからな……)
王妃自らが妃教育の最中に姿を見せ、「あなたは美しい髪を下ろし、緑のドレスを着た方が似合いますよ」と進言したらしい。
そしてエーヴはブリュエットに詳しいアドバイスをもらいつつ、ドレスを選んだという。
王妃が彼女の異変に関わっているのなら、口出しするわけにはいかなかった。
「だが最近俺との時間が少なすぎる! エーヴだって勉強ばかりしていると、疲れてしまうんじゃないのか?」
「ですけれど、私が正妃になるための大切なお勉強ですので! それに私はお勉強が大好きですよ? 遊ぶのも楽しいですが、勉強と違って学ぶことが少ないですしぃ……」
「ぐっ……」
エーヴの変化は外見だけではない。
勉学の楽しさに気づき、自主的に勉強時間も設けるようになったのだ。
それに魔法の鍛練にも夢中になっているようで、週に一度は妃教育を休みにしたかと思えば、その目的はブリュエットの講習に参加すること。
結果としてリュカと過ごす時間は激減してしまったが、本人がそれを不満に感じる様子は全くない。
リュカばかりが孤独を感じている。
(俺のエーヴがエーヴじゃなくなっていく……)
別の生き物に作り替えられていくような不快感が腹の中で渦巻く。
微笑を浮かべたブリュエットが、脳裏に浮かぶ。
まさか彼女がエーヴを正妃にするようにと、王妃に進言したのはこれが狙いだったのか。
「あ、そういえば私、同性の友人もできました。私と同じように講習を受講されている方々なのですが、魔法で咲かせたお花を交換し合ったり、終わった後にご一緒にお菓子をいただいているのですよ」
「そ、そんな……そんなくだらないことをしている暇があれば、俺に構え!」
「? 私もリュカ様とはもっとご一緒に過ごしたいと思いますけれど、講習に受講されていませんし……」
不思議そうに首を傾げるエーヴの姿に、苛立ちが込み上げる。
今更受講できるわけがないだろう。
もはやリュカとブリュエットの不仲は、学園内では周知の事実となっているのだから。
「もういい! 自分の部屋に戻れ!」
怒りに任せてテーブルを叩くと、大きく波打った紅茶がカップから溢れてソーサーに零れた。
「はい! ブリュエット様からお借りした御本を早く拝読したいので、戻らせていただきますね!」
エーヴは動じる素振りを見せず、リュカの私室からあっさり出て行ってしまった。
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