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「明日はぁ、ブリュエット様が私にお勉強を教えてくださるんですっ! とっても楽しみ~!」
リュカの予想とは裏腹に、エーヴは一週間が経過しても不満を漏らすどころか毎日楽しそうである。
二、三日に一度ブリュエット自らが、教師役を務めることにもなったらしい。
ご機嫌な様子でプティングを食べる美少女に、リュカは逡巡の後に聞いてみることにした。
「無理をしていないか? 妃教育は君にとって、辛く厳しいもののはずだが……」
「うーん……確かに分からないことがあったりして、先生に怒られちゃう時もあります。でもちゃんとできた時は『よくできました』って褒めてくれるんです~!」
「そ、そうなのか?」
「はいっ! お父様や病気で亡くなったお母様には『お前は男に甘えて生きることだけを考えろ』って言われてましたけど、それ以外のことでも褒められるなんて嬉しい!」
笑顔のエーヴは今すぐ抱き締めてしまいたくなるくらいに可愛らしい。
それにエーヴなら妃教育を無事に終えることができ、本当に正妃になれるかもしれないと明るい希望も見えてきた。
男爵家の令嬢、それも色情狂の女が正妃だなんてと顔をしかめる者たちもいるだろうが、そんなものは王族の力で黙らせてしまえばいいのだ。
(エーヴが正妃として、俺と一緒に国民の前に姿を見せるのか……)
しかし本来、そこにいるべきなのはブリュエットだったのではないだろうか。
別れ際エーヴの頬にキスを落としてから、男爵家に帰らせる。
その後、軽い足取りで自室に戻ろうとすると、
(お……久しぶりだな)
広い廊下の向こう側からブリュエットが歩いてくるのが見えた。
学園内では時々姿を見かけるが、王宮で顔を合わせるのは数週間ぶりである。
ここ最近ブリュエットの雰囲気が変わったな、とリュカは顎を擦りながら思う。
以前よりも明るくなったような……。
「ああ、ブリュエットか。お前が直々にエーヴに妃教育をしていると聞いたぞ」
会話をするのも久しぶりだ。
そのせいでぎこちない物言いになってしまったと内心恥じていると、
「ええ。エーヴ嬢はとても物分かりのよい方です。こちらが一度言ったことを決して忘れず、分からないことがあれば質問もしてくださいます。家庭教師からの評判もよいのですよ?」
「と、当然だ。俺が正妃として選んだ女だぞ? それに比べてブリュエット、お前はやはり正妃の器ではなかったようだ。何故、職員室で俺が問い詰めた時に妃教育を終えたことを言わなかった? 確かに忘れていた俺にも非はあるが、そういった落ち度を大目に見るのも、婚約者の義務だと思うが」
「私もそう思っていましたけれど、『大事なことは何も言わないように』と言われていましたので」
「そんなことを言ったのはどこのどいつだ!? 厳重に抗議しなければならないな!」
「王妃陛下です」
息巻いていたリュカは、静かな声で返されて真顔になった。
「は、母上が? 何故そのようなことを……」
「それは陛下にお聞きくださいませ」
「教えてくれてもいいだろう……! 重要なことだぞ!?」
「重要なことだからです」
王妃に直接聞く勇気がないと見透かしての言葉だろう。
「では失礼します」
反論できずに黙り込むリュカに柔らかく微笑み、ブリュエットはその場から足早に立ち去った。
リュカの予想とは裏腹に、エーヴは一週間が経過しても不満を漏らすどころか毎日楽しそうである。
二、三日に一度ブリュエット自らが、教師役を務めることにもなったらしい。
ご機嫌な様子でプティングを食べる美少女に、リュカは逡巡の後に聞いてみることにした。
「無理をしていないか? 妃教育は君にとって、辛く厳しいもののはずだが……」
「うーん……確かに分からないことがあったりして、先生に怒られちゃう時もあります。でもちゃんとできた時は『よくできました』って褒めてくれるんです~!」
「そ、そうなのか?」
「はいっ! お父様や病気で亡くなったお母様には『お前は男に甘えて生きることだけを考えろ』って言われてましたけど、それ以外のことでも褒められるなんて嬉しい!」
笑顔のエーヴは今すぐ抱き締めてしまいたくなるくらいに可愛らしい。
それにエーヴなら妃教育を無事に終えることができ、本当に正妃になれるかもしれないと明るい希望も見えてきた。
男爵家の令嬢、それも色情狂の女が正妃だなんてと顔をしかめる者たちもいるだろうが、そんなものは王族の力で黙らせてしまえばいいのだ。
(エーヴが正妃として、俺と一緒に国民の前に姿を見せるのか……)
しかし本来、そこにいるべきなのはブリュエットだったのではないだろうか。
別れ際エーヴの頬にキスを落としてから、男爵家に帰らせる。
その後、軽い足取りで自室に戻ろうとすると、
(お……久しぶりだな)
広い廊下の向こう側からブリュエットが歩いてくるのが見えた。
学園内では時々姿を見かけるが、王宮で顔を合わせるのは数週間ぶりである。
ここ最近ブリュエットの雰囲気が変わったな、とリュカは顎を擦りながら思う。
以前よりも明るくなったような……。
「ああ、ブリュエットか。お前が直々にエーヴに妃教育をしていると聞いたぞ」
会話をするのも久しぶりだ。
そのせいでぎこちない物言いになってしまったと内心恥じていると、
「ええ。エーヴ嬢はとても物分かりのよい方です。こちらが一度言ったことを決して忘れず、分からないことがあれば質問もしてくださいます。家庭教師からの評判もよいのですよ?」
「と、当然だ。俺が正妃として選んだ女だぞ? それに比べてブリュエット、お前はやはり正妃の器ではなかったようだ。何故、職員室で俺が問い詰めた時に妃教育を終えたことを言わなかった? 確かに忘れていた俺にも非はあるが、そういった落ち度を大目に見るのも、婚約者の義務だと思うが」
「私もそう思っていましたけれど、『大事なことは何も言わないように』と言われていましたので」
「そんなことを言ったのはどこのどいつだ!? 厳重に抗議しなければならないな!」
「王妃陛下です」
息巻いていたリュカは、静かな声で返されて真顔になった。
「は、母上が? 何故そのようなことを……」
「それは陛下にお聞きくださいませ」
「教えてくれてもいいだろう……! 重要なことだぞ!?」
「重要なことだからです」
王妃に直接聞く勇気がないと見透かしての言葉だろう。
「では失礼します」
反論できずに黙り込むリュカに柔らかく微笑み、ブリュエットはその場から足早に立ち去った。
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