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「落ちぶれる時は早いものなのねぇ。まさかここまで成績が悪化するとは思いませんでした」
報告書に目を通しながら笑う王妃。
その眼前でリュカは、頬を引き攣らせていた。
報告書の内容は、ここ半年におけるリュカの学校成績について纏めたものだ。
酷い書かれようなのは、リュカも予想していた。
どの教科の小テストでも、並み程度の点数止まり。
普通の生徒であれば、満足とまではいかずとも、ひとまず安心できる範囲内だ。
しかしリュカは王位継承権を持つ王子であり、今までは学年首位をキープしていた男である。
平均程度の成績は決して許されない。
「それに比べてエーヴ嬢は……素晴らしい成長ぶりですね。満点を取った教科もあったそうですよ」
破滅的に頭が悪かったはずのエーヴは、今や小テストにおいて成績上位者の仲間入りを果たした。
一週間後に行われる期末試験でも、素晴らしい結果が期待されている。
現在学年首位のブリュエット、二位のジョエルにどこまで迫れるかと、大いに盛り上がる生徒たち。
リュカは最早蚊帳の外である。
「も、申し訳ありません。ブリュエットやエーヴの件で精神的に疲れてしまい、学業が疎かになったのだと思います……」
リュカも当初は教師が成績を操作していると、信じて疑わなかった。
なので密偵を使って調査させてみたのだが、不正は見つからず。
ここまでくると、自分の勉強不足を認めざるを得なかった。
「まあ……あなたは彼女たちのせいで、やる気をなくして成績が下がったと?」
「は、はい。点数が下がり始めたのも、ブリュエットが『自分は側妃で構わない』と好き勝手行動するようになった頃からですし……」
「そう、大変ね」
同情するような物言いをして、王妃は報告書をリュカに差し出した。
「婚約者との問題如きで、学業が疎かになるような人間が国王になってしまったら、この国はどうなるのかしら」
「……お言葉ですが、母上もその一因かと。何故ブリュエットに口止めをしていたのですか!」
もう我慢ならなかった。
何故一方的に言われ続けなければならないのか。
リュカが目を吊り上げて声を荒らげて問うと、王妃は溜め息を一つ。
そして、
「いつも文句ばかり言っているくせに、結局はブリュエットに甘えてばかりのあなたが、彼女がいなくてもしっかりと行動できるか見極めたかっただけです」
「あ、甘えて……!? 何か勘違いされているようですね! ブリュエットが家庭教師面して、俺の世話をしていただけです!」
「彼女が勉強を教えることをやめた途端、テストで満点を取れなくなったくせによく言えますね。魔法学やダンスの授業でも、つまらないミスを連発しているそうですが?」
「そ、それは単に調子が悪いだけで……ブリュエットと和解して、エーヴと二人きりで過ごせる時間も増えれば、また以前のように──!」
「王とは常に正しく強く在るものです。そんな言い訳が通用するわけがないでしょう」
何を言っても何倍にもなって返される。
項垂れてしまったリュカを案じることなく、王妃はさらに追い打ちをかける。
「以前からブリュエットからは相談を受けていたけれど、やはり王位継承権は他の子に譲るしかないようですね」
「!? 何を仰るんですか!?」
「この国は原則として、王位継承権を第一子に授けることになっているけれど、絶対ではないもの。あなたのような暴れ馬の手綱を握れるブリュエットがいなければ、下の子たちから選ぶつもりだったのよ」
「そんな……いつもいつも俺ではなく、ブリュエットを優先して……」
「当たり前でしょう? いずれは母親のような末路を迎えていたかもしれないエーヴを、立派なレディに成長させたのはブリュエットよ。彼女の判断は正しかったのねぇ……」
リュカは足を震わせた。
いや足だけではない。全身が震えている。
その姿は、次期国王とは思えないほど情けないものだった。
報告書に目を通しながら笑う王妃。
その眼前でリュカは、頬を引き攣らせていた。
報告書の内容は、ここ半年におけるリュカの学校成績について纏めたものだ。
酷い書かれようなのは、リュカも予想していた。
どの教科の小テストでも、並み程度の点数止まり。
普通の生徒であれば、満足とまではいかずとも、ひとまず安心できる範囲内だ。
しかしリュカは王位継承権を持つ王子であり、今までは学年首位をキープしていた男である。
平均程度の成績は決して許されない。
「それに比べてエーヴ嬢は……素晴らしい成長ぶりですね。満点を取った教科もあったそうですよ」
破滅的に頭が悪かったはずのエーヴは、今や小テストにおいて成績上位者の仲間入りを果たした。
一週間後に行われる期末試験でも、素晴らしい結果が期待されている。
現在学年首位のブリュエット、二位のジョエルにどこまで迫れるかと、大いに盛り上がる生徒たち。
リュカは最早蚊帳の外である。
「も、申し訳ありません。ブリュエットやエーヴの件で精神的に疲れてしまい、学業が疎かになったのだと思います……」
リュカも当初は教師が成績を操作していると、信じて疑わなかった。
なので密偵を使って調査させてみたのだが、不正は見つからず。
ここまでくると、自分の勉強不足を認めざるを得なかった。
「まあ……あなたは彼女たちのせいで、やる気をなくして成績が下がったと?」
「は、はい。点数が下がり始めたのも、ブリュエットが『自分は側妃で構わない』と好き勝手行動するようになった頃からですし……」
「そう、大変ね」
同情するような物言いをして、王妃は報告書をリュカに差し出した。
「婚約者との問題如きで、学業が疎かになるような人間が国王になってしまったら、この国はどうなるのかしら」
「……お言葉ですが、母上もその一因かと。何故ブリュエットに口止めをしていたのですか!」
もう我慢ならなかった。
何故一方的に言われ続けなければならないのか。
リュカが目を吊り上げて声を荒らげて問うと、王妃は溜め息を一つ。
そして、
「いつも文句ばかり言っているくせに、結局はブリュエットに甘えてばかりのあなたが、彼女がいなくてもしっかりと行動できるか見極めたかっただけです」
「あ、甘えて……!? 何か勘違いされているようですね! ブリュエットが家庭教師面して、俺の世話をしていただけです!」
「彼女が勉強を教えることをやめた途端、テストで満点を取れなくなったくせによく言えますね。魔法学やダンスの授業でも、つまらないミスを連発しているそうですが?」
「そ、それは単に調子が悪いだけで……ブリュエットと和解して、エーヴと二人きりで過ごせる時間も増えれば、また以前のように──!」
「王とは常に正しく強く在るものです。そんな言い訳が通用するわけがないでしょう」
何を言っても何倍にもなって返される。
項垂れてしまったリュカを案じることなく、王妃はさらに追い打ちをかける。
「以前からブリュエットからは相談を受けていたけれど、やはり王位継承権は他の子に譲るしかないようですね」
「!? 何を仰るんですか!?」
「この国は原則として、王位継承権を第一子に授けることになっているけれど、絶対ではないもの。あなたのような暴れ馬の手綱を握れるブリュエットがいなければ、下の子たちから選ぶつもりだったのよ」
「そんな……いつもいつも俺ではなく、ブリュエットを優先して……」
「当たり前でしょう? いずれは母親のような末路を迎えていたかもしれないエーヴを、立派なレディに成長させたのはブリュエットよ。彼女の判断は正しかったのねぇ……」
リュカは足を震わせた。
いや足だけではない。全身が震えている。
その姿は、次期国王とは思えないほど情けないものだった。
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