私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀

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執事side

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 長年仕えている主の息子が、伯爵令嬢と結婚したいと言い出したのは五年前。
 この時、アリシアとの結婚を数ヶ月後に控えていた。百歩譲って、それだけならまだマシだった。
 ミシュタリア王国では、一夫多妻制が認められている。優秀な男の子孫を多く残すためという名目・・で数十年前に制定された。

 だがダミアン様が次に放った一言に、私は衝撃のあまり言葉を失った。

「僕はポーラを正妻にしたいと思います」

 この青年は、自分が何を言っているのか理解しているのだろうか。いや、何も分かっていない。意気揚々と伯爵令嬢の長所を延々と語っている。
 笑顔が愛らしいだの、甘え上手だの……聞いていて頭が痛くなってくる。
 愛人もしくは側室にするなら、適格と言えるだろう。しかしダミアン様はポーラを正妻にすると言い張っている。
 まさか、愛の深さによって正妻が決まると思い込んでいるのではないか。

 目を閉じて息子の惚気話に耳を傾けていたラクール公爵が、低い声で問いかける。

「……アリシア嬢との結婚を取り止めるつもりか?」
「いえ、彼女は側室にします。どちらも愛していますから」
「どちらも愛している。そうか、ならばアリシアが第一夫人でも問題はないのではないか?」
「しかし、アリシアよりもポーラのほうが華があります。それにポーラの家は伯爵家ですよ。男爵令嬢であるアリシアより身分が上です。だというのに側室として扱うなんて……ポーラにも立場というものがあります!」

 父の怒りに気付いていないのか、ダミアン様はテーブルを強く叩いて力説する。
 立場。アリシア嬢にはそれがないとでもいうのだろうか。そんなわけがあるか!

「……アリシア嬢は何と?」
「快く了承してくださいました。男爵家には彼女が話を通しておくとのことです」
「そうか……」
「後は、父上に納得していただくだけです」

 本来なら、公爵家有責で婚約破棄を言い渡されていたところだ。だが既に、アリシア嬢はダミアン様を見限っているのかもしれない。
 そしてそれはラクール公爵も同様だった。暫く黙り込んでから一言。

「……お前の好きにしろ」
「ありがとうございます、父上! では早速、ポーラに知らせて来ます!」

 勢いよく席を立ち、部屋から出て行こうとする。「待て」と公爵が呼び止める。

「私はお前の行いを止めるつもりはない。何を言っても、考えを改めないと分かっているからな。だが、この家に危機を招くのなら話は別だ。その時は……分かっているな?」
「はい、僕がラクール公爵家を守っていきます。ですから心配なさらないでください」

 ダミアン様は鼻歌を唄いながら、扉を開けて退室した。
 ダメだ、何も分かっていない。現在進行形で危機を招いていると、まるで自覚がない。

「……アリシア嬢に書状を送ろう」
「はい。便箋と封筒をご用意いたします」

 ダミアン様にラクール公爵家は守れない。それならば、守れる人間を頼るしかない。

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