私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀

文字の大きさ
13 / 30

夫人会

しおりを挟む
「ダミアン様、どうかしら?」

 夫人会当日。ポーラは新品のドレスと装飾品で着飾っていた。
 燃えるような赤いドレスに身を包み、胸元ではレッドダイヤモンドのネックレスが輝いている。この日のために、王都の有名店で見繕った品々は、ポーラの美しさを引き立てていた。
 これなら、他の夫人たちにも引けを取らないだろう。ダミアンは満足げに微笑んだ。

「もちろん、よく似合っているよ。今日の主役は、ポーラで決まりだ」
「ダミアン様もそう思ってくださるのね! さっき着替えを手伝わせた侍女にも、褒められましたのよ!」

 両手を頬に当てて悦に浸る。ダミアンが理想とする女性の姿だ。
 愛する妻の手を取り、屋敷を出る。馬車に乗り込む際、庭師たちの会話が耳に入ってきた。

「ポーラ夫人を連れてどこに行くつもりだ?」
「夫人会だとさ。執事がそう言っていた」
「それなら、今日は一日平和だな」
「アリシア様も、執務に集中出来そうで何よりだ」

 好き勝手言ってくれる。
 使用人たちの間では、次期当主は完全にアリシアということになっていた。社交界にアリシアの悪評が広まっていることも知らずに。



 王都の街並みは相変わらず美しい。夫人会の会場は、とある侯爵家の別荘だった。正門前には馬車が数台停められており、どれも名だたる家のものだと分かった。
 使用人に出迎えられ、広間へと案内される。

「こちらでございます」

 広間に置かれた円卓には、既に本日の参加者が席についていた。
 夫人たちは、その肩書きに似つかわしくない質素なドレスを着ていた。アクセサリーも控えめなデザインを選んでおり、下位貴族のような身なりだ。

「お初にお目にかかりますわ。私はラクール公爵子息の妻、ポーラと申します」

 優越感で頬を紅潮させながら、ポーラは優雅なカーテシーを披露した。夜会に何度も出席した経験のあるダミアンと違い、ポーラが彼女たちと顔を合わせるのはこれが初めてとなる。

「皆様、本日はどうかよろしくお願いいたします」

 ダミアンも軽く一礼する。そして顔を上げると待っていたのは、出席者たちからの冷ややかな視線だった。
 誰一人として、作り笑いさえ浮かべていない。まるで値踏みするような目で、ダミアンたちを凝視している。

 居たたまれなさを感じ、背中に冷たい汗が流れる。困惑するダミアンの隣で、ポーラはぷっくりと頬を膨らませた。

「挨拶を返してくださらないなんて、失礼な方々ですわね。品性を疑ってしまいますわっ!」
「あら、失礼いたしました。あなた方のお姿を見たら、驚いてしまいまして」

 口を開いたのは、この別荘の持ち主である侯爵家の夫人だった。仕方なく、といった様子で口元に笑みを貼り付ける。

「よく似合っていますでしょう? 人気店で新調したドレスですのよ」

 ポーラがこれ見よがしに、一歩進み出てドレスの裾を摘まむ。

「ええ。ですが、何故そのようなドレスをお選びになりましたの?」

 ポーラを見る夫人の目には、軽蔑の念が宿っていた。
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

王太子とさようならしたら空気が美味しくなりました

きららののん
恋愛
「リリエル・フォン・ヴァレンシュタイン、婚約破棄を宣言する」 王太子の冷酷な一言 王宮が凍りついた——はずだった。

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。

ふまさ
恋愛
 伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。 「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」  正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。 「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」 「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」  オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。  けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。  ──そう。  何もわかっていないのは、パットだけだった。

悪役令嬢として、愛し合う二人の邪魔をしてきた報いは受けましょう──ですが、少々しつこすぎやしませんか。

ふまさ
恋愛
「──いい加減、ぼくにつきまとうのはやめろ!」  ぱんっ。  愛する人にはじめて頬を打たれたマイナの心臓が、どくん、と大きく跳ねた。  甘やかされて育ってきたマイナにとって、それはとてつもない衝撃だったのだろう。そのショックからか。前世のものであろう記憶が、マイナの頭の中を一気にぐるぐると駆け巡った。  ──え?  打たれた衝撃で横を向いていた顔を、真正面に向ける。王立学園の廊下には大勢の生徒が集まり、その中心には、三つの人影があった。一人は、マイナ。目の前には、この国の第一王子──ローランドがいて、その隣では、ローランドの愛する婚約者、伯爵令嬢のリリアンが怒りで目を吊り上げていた。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。 学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。 そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。 それなら、婚約を解消いたしましょう。 そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。

婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。  嘘でしょう。  その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。  そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。 「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」  もう誰かが護ってくれるなんて思わない。  ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。  だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。 「ぜひ辺境へ来て欲しい」  ※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m  総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ  ありがとうございます<(_ _)>

処理中です...