私を追い出すのはいいですけど、この家の薬作ったの全部私ですよ?

火野村志紀

文字の大きさ
56 / 56
連載

【三年後編】再会

「ご足労いただきありがとうございました。この採掘場の現場監督を務めるエリックと申します」

 小柄な男性がぺこりと頭を下げる。四十代半ばくらいだろうか。短く刈り上げた黒髪に、ところどころ白いものが混じっている。
 現場監督と言うと、もっとガタイがよくて怖そうなおじさんを想像していたから、少し意外だ。
 エリックさんは十五歳の頃から、ずっとここで働いている古参中の古参。その武骨な両手には、大量の傷痕が刻まれている。

「初めまして、レイフェルと申します」
「弟子のティアです!」

 私たちもしっかりと頭を下げて挨拶をして、周囲を見回す。
 鉱山には落石予防のネットが張り巡らされており、見るからに頑丈な造りをした家屋が立ち並んでいる。
 そして飲食店が多い。ステーキ、ホットドック、ラーメン、焼肉、牛丼、とんかつ……どれもガツンとくるラインナップだ。
 あっちこっちから食欲を刺激する匂いが漂ってくる。ぐぅぅ、と私とティアの胃袋が唸り声を上げた。もう昼過ぎだもんね。

「お昼にしましょうか?」

 エリックさんが気を遣って尋ねてくるので、私は手を上げて首を横に振った。

「あ、いえ……ルージェが先でいいです」

 栄養失調の妹を放って爆食とか、流石に人間としてどうかしている。
 さっきの門番が言っていたことも気になるし。

「さあ、早くルージェのところに行きま……」

 その時、とんかつ店から店員が平皿を持って出て来た。

「揚げたて~、揚げたてのヒレかつの試食はいかがですか~」

 油切り用のキッチンペーパーの上で、強烈な存在感を放つヒレかつ。
 カラッときつね色に揚がっていて、油の香りが風に乗って流れてくる。

「やっぱり試食だけでも……」
「寄り道してないで早く行きますよ、レイフェルさん」

 とんかつ店に吸い込まれそうな私を、ティアが後ろから羽交い締めにした。
 そしてエリックさんの案内で、集落を進んでいく。

「ううん……?」
「いかがされました、レイフェル様」
「あ……そんなに大したことじゃないんですけど、どこのお店にも人が全然入ってないなぁって……」

 ランチタイムとは思えない閑散ぶりだ。暇を持て余した店員たちがトランプをしている店もある。

「ここ最近、ずっとこんな調子です」

 エリックさんが困ったような表情で小さく溜め息をつく。

「みんな昼休憩になっても、延々と作業を続けているんですよ。休息と食事も仕事のうちだって言ってるんですけどね」
「それってルージェみたいに……?」
「いえ、彼女とはまた少し事情が……あ、見えてきました。あそこが元カラスター男爵一家の借家です」

 エリックさんが指差したのは小さな家屋だった。

「お邪魔しまーす……」

 家の中はきちんと片付いていた。身の回りの世話を私や使用人に任せきりだった三人も、この三年間で随分と成長したようだ。リビングには花も飾られている。ちょっと感動。
 両親の姿は見当たらない。二人も作業を続けているのかな。
 
「ルージェ様、レイフェル様がお見えになりましたよ」

 奥の部屋のドアをノックしながら、エリックさんが呼びかける。
 すると数秒間を置いて声が返ってきた。

「お姉様が……?」

 どうやら衰弱しているのは本当らしい。
 こんなに弱々しい声、今だかつて聞いたことがない。

「ルージェが倒れたって聞いて、心配で見に来たの。中に入ってもいい?」
「…………」

 返事がない。
 以前のルージェなら、「ウッザイですわ~。こんな消毒液臭い芋女がお姉様だなんて知られたら、一生の恥ですわよ!」くらいの暴言は吐いてただろうに。いよいよ本格的に心配。それはそれとして、想像のルージェに腹が立ってきたので、私は妹の意思をガン無視してドアを開けた。

「きゃっ! お、お姉様……っ!」

 ベッドに横たわっていたのは、金髪碧眼の美少女。
 在りし日の姿をしたルージェだった。

「「うわぁぁぁ~~~~!?!?」」

 私とティアの悲鳴が室内に響き渡る。激痩せしたとは聞いてたけど、ここまでとは思わなかったよ!?


感想 378

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(378件)

satomi
2025.12.23 satomi

続きが気になる~‼

解除
のりすけ
2025.08.18 のりすけ

そもそもリンゴが喉にいいぜ!!

解除
ユウキ
2025.07.23 ユウキ

続きはまだでしょう?
それとも打ち切りですかね?

解除

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。