3 / 17
1巻
1-3
しおりを挟む
現に、側妃のアニュエラには公務が与えられていない。
「側妃であっても、最低限の教養は身につけてもらわなければ困ります。王家の人間であることに変わりはないのですから」
元教育係の愚痴は止まらない。
この口振りから察するに、ミリアはその最低限の教養すら習得していないようだ。
ノーフォース公爵夫妻は、ずいぶんとひとり娘を甘やかしていたらしい。どの家に嫁がせても、多少は目をつむってくれると高を括っていたのだろう。
国王やサディアスの焦る顔が目に浮かぶ。アニュエラはほんの少しだけ彼らに同情した。
「あのような恥知らずが国母だなんて、この国最大の汚点となりますよ」
元教育係の表情は暗い。ミリアを見捨てる選択をしながらも、この国の未来を案じているのだ。
サディアスが即位したら、おのずとミリアが王妃となる。
ミジューム王国の暗黒時代の始まりだ。
彼女が嘆く気持ちもわかる。
ただアニュエラの関心事はもうひとつあった。
(そのころには、私は離縁できているかしら……)
この国や王家がどうなろうと知ったことではない。
サディアスに捨てられた暁には、隣国にでも渡って、学者を志そうと思っている。父は反対するだろうが、兄が説得してくれるだろう。
『アニュエラ様』
ふいに、ある人物の姿が脳裏に浮かんだ。
彼とはもう何年も会っていない。
王太子の婚約者に選ばれたときに、長年続けていた手紙のやり取りもやめた。彼からの手紙も、一枚残らずすべて燃やした。
未練を断ち切り、王家に身も心も捧げるために。
王太子を支え、世継ぎを産み、国と民を守る。
それがアニュエラの使命だったのだ。お飾り側妃として、公務にも参加せず自堕落に生きるはずではなかった。
かつての自分が、この現状を見たら「情けない」と嘆くだろう。
「アニュエラ様? どうかなさいましたか?」
「あ、いえ……なんでもないわ」
アニュエラは笑顔を取り繕った。胸の奥でうずまく感情に見て見ぬ振りをして。
そのとき、部屋の扉をノックする音がした。許可すると、侍女が「失礼します」と入ってくる。
「アニュエラ様、お手紙でございます」
淡い桃色の封筒を手渡される。
送り主を確認して、アニュエラは頬を緩めた。元教育係が退室したあと、開封して便箋に目を通す。
(あら、私なんかでいいのかしら?)
自分よりもっと適任がいるような気がするが、わざわざ指名してくれたのだ。断るわけにはいかない。
アニュエラは早速行動に移った。
ミリアの教育係が、全員辞めると宣言した。
前代未聞の事態は、サディアスの耳にも入った。そして父である国王に呼び出された。
「勉学に励むよう、お前からミリアに言い聞かせよ」
「私から……ですか?」
サディアスはあからさまに眉をひそめた。
「学ぶつもりのない者に教鞭を振るうことはない。それがヤツらの主張だ」
「反逆罪で縛り首にすると、脅せばよいではありませんか」
王家が、臣下の顔色を窺う必要などないのだから。
しかし、その提案に国王は深くため息をつく。
「それはすでに試したが、無駄だった」
「であれば、実際に見せしめとして誰かを処刑すれば……」
「そのようなことを行えば、新しい教育係は一生決まらんぞ」
皆、処刑を恐れて逃げ出すのが目に見えている。国王もさすがに、それは理解していた。宰相に進言されるまでもなかった。
だが、残念ながらサディアスは盲目だった。
「集まらなければ、王命を下せばよいではありませんか」
国王の眉間の皺が一層深くなる。
「サディアス……これしきのことで王命を出してみよ。近隣諸国に『そこまでしなければ、仕えたいと思えない正妃』という印象を与えかねん」
「それは……困りますね」
側妃だけではなく正妃まで問題ありの王太子。
そう呼ばれる未来を想像して、サディアスは苦り切った表情を浮かべた。
「よいな、我が息子よ」
「……うけたまわりました」
なぜ、私がそんなことを。文官どもに任せればいいのに。
文句は山ほどあるが、従うしかない。面倒事を早く済ませるべく、サディアスはミリアのもとへ向かった。
「ミリア、もう少し真面目に勉強してくれないか?」
ベッドの上で膝を抱えている妻に、優しく語りかける。
「そ、そんな。私だって頑張ろうと思っております。ただ、体調が優れないときに勉強をしても、頭に入りませんし……」
目を泳がせながら弁明する。仮病を使い、妃教育から逃げているのは本当のようだ。
そんな子どもらしいところも可愛いと思う。
だが、見過ごすわけにはいかない。ミリアが真面目に打ちこまなければ、連帯責任でサディアスも叱責される。
「まったくというほどではないだろう? ほんの少しずつでいい」
「……」
サディアスの言葉は、ミリアの心には露ほども響かないようだ。不満そうな目つきで睨まれる。
「で、では頑張ってくれ」
ミリアの頬に口づけをして、サディアスは逃げるように部屋をあとにする。
(私は私で忙しいのだ)
近々、他国の豪商を我が国に招く予定になっている。いくつもの国と契約を結んでおり、さらなる発展が見込まれる超大物だ。
その会長一家との会食を取りつけることに成功した。向こうも、こちらと接触する機会を窺っていたのだろう。
この近隣の諸国で、いまだ契約を結んでいないのは我が国だけ。
絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。
最高級の食材を用意し、一流のシェフに調理させる。ワインも我が国随一の銘柄を用意させ……
「ん?」
執務室に戻ろうとすると、その途中でアニュエラを見かけた。侍女を引き連れ、どこかへ外出しようとしているようだった。
微笑を浮かべたその横顔が気に入らない。つい話しかけてしまった。
「待て、どこへ行くつもりだ」
「殿下やミリア様と違ってすることもありませんし、田舎町に遊びに行こうと思いますの。それでは失礼いたします」
うやうやしく頭を下げて、アニュエラが静かに去っていく。
品のある見事な所作だ。後ろ姿ですら美しい。
いまだにカーテシーですら、完璧にこなせないミリアとは違う。そこまで考えたところで、サディアスはぎくりとした。
(バカなことを考えるな! アニュエラがミリアより優れているなどと……)
たしかに、ミリアは同世代の娘に比べて幼稚なところがある。だがアニュエラのように、癇に障る物言いはしない。
だいたい、今田舎町に遊びに行くなど、いったいどういう神経をしているのだ。
教育係の件で、王宮が騒ぎになっているのは知っているはずだ。自室でおとなしく引き籠もっていればいいものを。
会食の件が落ち着いたら、アニュエラの処遇を真剣に検討しなければ。
サディアスは小さく鼻を鳴らした。
第二章 商会の娘
一か月後。
豪奢な造りをした一台の馬車が、王宮の正門をくぐった。
そこから降りてきたのは、壮齢の男女と美しい顔立ちの少女だった。
クレイラー商会の会長夫妻と、そのひとり娘である。
「此度は、遠路はるばるご足労いただき感謝いたします」
文官とともに、一家を出迎えたサディアスはうやうやしく腰を折った。
「こちらこそ、ご招待いただきありがとうございます」
会長もにこやかに会釈をする。
最初の掴みは完璧だ。サディアスは自信に満ちた笑みを浮かべる。
(それにしても……)
会長の娘をまじまじと観察する。
艶やかな黒髪に菫色の瞳。どちらも、この国ではあまり見かけない色彩だ。それに加えて、まっすぐ伸びた鼻筋と柔らかな印象を与える垂れた目尻。
「お初にお目にかかります、サディアス王太子殿下。私はアリーシャと申します」
サディアスはごくりと唾を飲んだ。
娘に対して不思議な欲求が芽生える。彼女にもっと近づきたいような、彼女を手に入れたいような……
「あの……どうかなさいましたか?」
熱視線に気づいたアリーシャが、不思議そうに尋ねる。
サディアスはそこで我に返り、ぎこちなく笑った。
「い、いえ。美しい方だと思っただけです」
「まあ、ありがとうございます」
正直な感想を述べると、アリーシャは気恥ずかしそうにはにかんだ。陶器のような頬に、うっすらと赤みが差す。
ミリアともアニュエラとも違うタイプの美女だ。サディアスは胸の高鳴りを感じずにはいられなかった。
「では、早速ご案内いたします。こちらへどうぞ」
文官を先頭にして、王宮の廊下を進んでいく。
豪商といえども、王宮に立ち入る機会は少ないのだろう。アリーシャは珍しそうに周囲を見回していた。
微笑ましい気持ちになり、サディアスは頬が緩みそうになる。
それにしても、先ほどからミリアの姿が見えない。自分とともに、会長一家を出迎えるようにと言っていたはずなのだが。
(だが、これはこれでいいのではないか……?)
以前に比べたら大分改善されたが、ミリアの食事作法はいまだに怪しい部分がある。スープは音を立てて飲むし、ナイフとフォークを使うときもカチャカチャとうるさい。
万が一、食事中に粗相でもされたら、会談に影響が出かねない。
しかもクレイラー商会の本拠地は遠く離れた小国で、独自の言語を第一言語として使用している。
ミリアがそれを習得しているとは思えない。
そもそもこの国で習得している者は、どれほどいるだろうか。サディアスもこの日のために急遽覚えたくらいだ。
(アニュエラならあるいは……)
アニュエラは近隣諸国の言語を、ほぼ会得していた。教育係や侍女が大層褒めていたのをよく覚えている。
彼らの言葉は、サディアスをひどくいら立たせた。
『アニュエラ様がついていれば、殿下もご安心ですね』
侍女長からそう言われたときは、愚弄するなと叫びたくなった。
あんな女がいなくても、やり切ってみせる。サディアスは気を引き締めて、食事の席に着いた。
宮廷料理人が腕によりをかけて作った前菜が、テーブルに並べられていく。
そのあとはポタージュ、魚料理、肉料理……
普段、王族でも滅多に口にできない食材をふんだんに用いたそれらに、会長が感嘆の声を上げる。
「味、食感、香り、見た目、食材……どれをとっても見事な料理の数々です。このような手厚いもてなし、感謝いたします」
「こちらこそ、気に入っていただきありがとうございます」
サディアスは柔和な笑みを浮かべ、感謝の言葉を述べる。
そして、視線をさりげなく会長からアリーシャへ移す。彼女もサディアスを見ていたようだ。視線が交わった。
互いに笑みを零しながら、サディアスは内心で動揺していた。
あの視線には見覚えがある。
あれは自分に想いを寄せる乙女の眼差しだ。間違いない。
(これは……参ったな)
突然降りかかった難題に、サディアスは苦笑した。
自分にはすでに妻がふたりもいる。さすがに三人目を迎えるわけにはいかないだろう。
過去には多数の側妃を娶った王もいたが、妃同士の確執が多発したそうだ。そして最終的に、国王が暗殺されるという結末を迎えている。
あまりに惨めで滑稽な最期だ。同じ轍を踏む気は毛頭ない。
(だが……彼女は魅力的だ)
サディアスは、アリーシャの赤い唇に目が釘づけになっていた。唇同士で触れ合い、その柔らかさと味を存分に味わいたい。
込み上げる衝動を、ワインとともに胃の中へ流しこんだ。
会食は滞りなく終了した。
契約に関する会談は三日後に行われる。明日明後日はこの国を観光したいとのことだった。
「私が案内人を務めましょう」
サディアスは笑顔で申し出た。
「いえ、殿下にそこまでしていただくわけにはまいりません。どうかお気になさらずに」
「あなた方を我が国にご招待したのは、この私です。お任せください」
会長にやんわりと断られても、サディアスは諦めない。
観光する予定と聞いていたので、事前にその準備を行っていたのだ。高位貴族御用達のレストランも、貸し切りの手配を済ませている。
たしかに詳しい話も聞かずに勝手に準備したのは、こちらの落ち度だ。だがその辺の案内業者よりも、自分のほうが彼らを満足させられる。
ふたりの問答に終止符を打ったのはアリーシャだった。困ったように眉を下げながら言う。
「申し訳ありません、殿下。明日明後日は、私の友人に観光のガイドをお願いしているのです」
え、とサディアスは思わず声を漏らした。
「この国にご友人がいらっしゃったのですか?」
「はい。以前から文通をさせていただいております」
「そうですか……」
笑顔で言われてしまっては、サディアスは引き下がるしかない。
友人と言うからには女性なのだろう。いや、女性であってほしい。そうに決まっている。
「あら? 殿下はご存じないのですか?」
「え?」
そのとき、コンコンと扉をノックする音が鳴った。何かあったのかと、サディアスは眉をひそめる。緊急のとき以外は、文官や侍女の立ち入りは禁じていた。
「アン様だと思います。食事が終わったころを見計らって、こちらにいらっしゃるとのことでしたので」
アリーシャが声を弾ませる。
アンとは誰だ。
サディアスがさまざまな人物を思い浮かべている間に、扉はゆっくりと開いた。
そして、ひとりの女性が悠然とした足取りで入ってくる。
「アニュエラ……!?」
サディアスは驚愕のあまり、目を剥いた。
「君は何をしているんだ! さっさと自分の部屋に戻れ!」
サディアスは声を荒らげながら、アニュエラにつめ寄った。
すると少し迷惑そうにアニュエラが答える。
「何って……私の友人に会いに来ただけですわよ」
「友人?」
とてつもなく嫌な予感がする。頼むから外れてくれと、サディアスは信じてもいない神に祈った。
だが、神はサディアスに味方しなかった。
「アン様、お久しぶりでございます」
アリーシャがうれしそうに笑う。サディアスと話していたときよりも、ずっと可愛らしい表情をしている。
よりによって、アニュエラなんかに。
サディアスは沸き上がる怒りと嫉妬心で、奥歯をきつく噛み締めた。
◇ ◆ ◇ ◆
アニュエラは友人アリーシャに挨拶を済ませ、自室に戻った。早く明日の準備に取りかかりたい。
だが、当然のようについてきた夫が、それを許そうとしない。
「ふざけるな! 今すぐにガイド役を降りろ!!」
サディアスの怒号が室内に響き渡る。どうしてそんなことまで指図されなければならないのか。アニュエラの答えはもちろん決まっている。
「お断りしますわ」
「側妃の分際で、私に逆らうつもりか!?」
「側妃にも殿下に逆らう権利はございます」
「なんだと!?」
サディアスの顔が赤く染まる。
本当に沸点の低い男だ。
「そもそも、なぜクレイラー商会との関わりを黙っていた!? 本来は私に報告することだろう!」
「あら、ごめんなさい。とっくの昔に、ご報告したと思っていましたわ」
アニュエラは悪びれることなく言った。夫を見るその目は冷たい。
アリーシャと文通を始めたのは、たしか四年ほど前だっただろうか。一応サディアスにも話したはずなのだが、すっかり忘れているようだ。
(まあ、無理もないでしょうね)
当時のクレイラー商会は創立したばかりで、まだ無名の存在だった。それがたった数年で、その名が広く知れ渡るまでに成長したのだ。類稀なる経営手腕である。
「それに、ガイドの件はアリーシャ様がご依頼くださったことです」
「どうして、君のような女性を……!」
「気の置けない友人に頼むのは、普通だと思いますけれど」
「それは……そうだが」
さすがに何も言い返せないようだ。しおらしくなったところで、アニュエラはひとつ忠告することにした。
サディアスではなく、友人のために。
「ちなみに、アリーシャ様のことは諦めたほうがよろしいかと」
「な、なんのことだ」
しらを切ろうとしているが、アニュエラの目はごまかせない。
「彼女には、想いを寄せている方がいらっしゃいますの」
「は?」
サディアスはぽかんと口を開けた。顔から表情が抜け落ちている。
「商会の従業員の方だそうです。とても仕事熱心で誠実な方とお手紙につづられていましたわ」
「従業員……ということは、まさか平民か?」
「ええ」
アニュエラは笑顔でうなずいた。
これで、アリーシャのことは綺麗さっぱり諦めるだろう……と、思っていたのだが。
「どうしてそのような男と!? 彼女は会長の娘だぞ! もっとふさわしい相手がいるはずだろう! 貴族や王家に嫁ぐべきだ!」
現実を受け止められないのか、サディアスが悲痛な叫びを上げる。しかも、本音がダダ漏れだ。本気でアリーシャを狙っていたと判明して、アニュエラは青筋を立てた。
いい加減にしてください、バカ王子。
「クレイラー会長は優秀な従業員の中から、後継者をお選びになるご予定です。そして彼は、その第一候補ですわよ。アリーシャ様のお相手には十分ふさわしいと思いますわ」
「だが……!」
ここまで言っても、まだ納得できないらしい。まるで聞き分けの悪い子どもを相手にしているような気分だ。
アニュエラの語気は、いささか強くなる。
「とにかく、アリーシャ様にご自分の感情を押しつけるのはお止めください。お願いいたします」
あの女は何もわかっていない。
サディアスは廊下を歩きながら、アニュエラの話を脳内で反芻していた。
(アリーシャが従業員の男を好いていたのは、以前のことではないのか?)
あの熱を帯びた視線は、決して気のせいではない。多くの令嬢を見てきた自分には、いや自分だからこそわかる。
(今、アリーシャの心の真ん中にいるのは私だ)
サディアスはそう信じて疑わなかった。
結局、会長一家はアニュエラの案内で国内を巡った。
近ごろアニュエラが頻繁に外出していたのは、このためだったらしい。初めからサディアスの出る幕ではなかったのだ。
「とても有意義な二日間だった。アニュエラ妃には感謝しております」
会談が始まる前に、会長は感想を述べ始めた。
どうやら田舎町を中心に巡ったらしい。サディアスは深く謝罪した。
「申し訳ありません。私の妻が、そのような辺鄙な場所にお連れしてしまって……」
「いいえ。我々は仕事柄市街へ出向くことが多いので、たまには静かな場所でのんびりしたいと、妻や娘とも話しておりました」
「そ、そうでしたか」
「それに、素晴らしいワインとも巡り合えました。小さな工房で作られているものですが、世に広く出回っていないのがもったいないほどの美味しさです、土産に五本ほど買ってしまいました」
「それはそれは。私も今度、購入してみようと思います」
アニュエラに手柄を横取りされた気分だ。サディアスは会長との会話に花を咲かせながら思う。正直、悔しくてたまらない。
しかし、田舎を案内してくれと自分に頼まれたとして、はたして会長たちを、これほど満足させられただろうか。
(いや、アニュエラは事前にどのような場所を回りたいのか、リクエストを受けていたのだろう。同じ条件であれば私にも……)
「側妃であっても、最低限の教養は身につけてもらわなければ困ります。王家の人間であることに変わりはないのですから」
元教育係の愚痴は止まらない。
この口振りから察するに、ミリアはその最低限の教養すら習得していないようだ。
ノーフォース公爵夫妻は、ずいぶんとひとり娘を甘やかしていたらしい。どの家に嫁がせても、多少は目をつむってくれると高を括っていたのだろう。
国王やサディアスの焦る顔が目に浮かぶ。アニュエラはほんの少しだけ彼らに同情した。
「あのような恥知らずが国母だなんて、この国最大の汚点となりますよ」
元教育係の表情は暗い。ミリアを見捨てる選択をしながらも、この国の未来を案じているのだ。
サディアスが即位したら、おのずとミリアが王妃となる。
ミジューム王国の暗黒時代の始まりだ。
彼女が嘆く気持ちもわかる。
ただアニュエラの関心事はもうひとつあった。
(そのころには、私は離縁できているかしら……)
この国や王家がどうなろうと知ったことではない。
サディアスに捨てられた暁には、隣国にでも渡って、学者を志そうと思っている。父は反対するだろうが、兄が説得してくれるだろう。
『アニュエラ様』
ふいに、ある人物の姿が脳裏に浮かんだ。
彼とはもう何年も会っていない。
王太子の婚約者に選ばれたときに、長年続けていた手紙のやり取りもやめた。彼からの手紙も、一枚残らずすべて燃やした。
未練を断ち切り、王家に身も心も捧げるために。
王太子を支え、世継ぎを産み、国と民を守る。
それがアニュエラの使命だったのだ。お飾り側妃として、公務にも参加せず自堕落に生きるはずではなかった。
かつての自分が、この現状を見たら「情けない」と嘆くだろう。
「アニュエラ様? どうかなさいましたか?」
「あ、いえ……なんでもないわ」
アニュエラは笑顔を取り繕った。胸の奥でうずまく感情に見て見ぬ振りをして。
そのとき、部屋の扉をノックする音がした。許可すると、侍女が「失礼します」と入ってくる。
「アニュエラ様、お手紙でございます」
淡い桃色の封筒を手渡される。
送り主を確認して、アニュエラは頬を緩めた。元教育係が退室したあと、開封して便箋に目を通す。
(あら、私なんかでいいのかしら?)
自分よりもっと適任がいるような気がするが、わざわざ指名してくれたのだ。断るわけにはいかない。
アニュエラは早速行動に移った。
ミリアの教育係が、全員辞めると宣言した。
前代未聞の事態は、サディアスの耳にも入った。そして父である国王に呼び出された。
「勉学に励むよう、お前からミリアに言い聞かせよ」
「私から……ですか?」
サディアスはあからさまに眉をひそめた。
「学ぶつもりのない者に教鞭を振るうことはない。それがヤツらの主張だ」
「反逆罪で縛り首にすると、脅せばよいではありませんか」
王家が、臣下の顔色を窺う必要などないのだから。
しかし、その提案に国王は深くため息をつく。
「それはすでに試したが、無駄だった」
「であれば、実際に見せしめとして誰かを処刑すれば……」
「そのようなことを行えば、新しい教育係は一生決まらんぞ」
皆、処刑を恐れて逃げ出すのが目に見えている。国王もさすがに、それは理解していた。宰相に進言されるまでもなかった。
だが、残念ながらサディアスは盲目だった。
「集まらなければ、王命を下せばよいではありませんか」
国王の眉間の皺が一層深くなる。
「サディアス……これしきのことで王命を出してみよ。近隣諸国に『そこまでしなければ、仕えたいと思えない正妃』という印象を与えかねん」
「それは……困りますね」
側妃だけではなく正妃まで問題ありの王太子。
そう呼ばれる未来を想像して、サディアスは苦り切った表情を浮かべた。
「よいな、我が息子よ」
「……うけたまわりました」
なぜ、私がそんなことを。文官どもに任せればいいのに。
文句は山ほどあるが、従うしかない。面倒事を早く済ませるべく、サディアスはミリアのもとへ向かった。
「ミリア、もう少し真面目に勉強してくれないか?」
ベッドの上で膝を抱えている妻に、優しく語りかける。
「そ、そんな。私だって頑張ろうと思っております。ただ、体調が優れないときに勉強をしても、頭に入りませんし……」
目を泳がせながら弁明する。仮病を使い、妃教育から逃げているのは本当のようだ。
そんな子どもらしいところも可愛いと思う。
だが、見過ごすわけにはいかない。ミリアが真面目に打ちこまなければ、連帯責任でサディアスも叱責される。
「まったくというほどではないだろう? ほんの少しずつでいい」
「……」
サディアスの言葉は、ミリアの心には露ほども響かないようだ。不満そうな目つきで睨まれる。
「で、では頑張ってくれ」
ミリアの頬に口づけをして、サディアスは逃げるように部屋をあとにする。
(私は私で忙しいのだ)
近々、他国の豪商を我が国に招く予定になっている。いくつもの国と契約を結んでおり、さらなる発展が見込まれる超大物だ。
その会長一家との会食を取りつけることに成功した。向こうも、こちらと接触する機会を窺っていたのだろう。
この近隣の諸国で、いまだ契約を結んでいないのは我が国だけ。
絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。
最高級の食材を用意し、一流のシェフに調理させる。ワインも我が国随一の銘柄を用意させ……
「ん?」
執務室に戻ろうとすると、その途中でアニュエラを見かけた。侍女を引き連れ、どこかへ外出しようとしているようだった。
微笑を浮かべたその横顔が気に入らない。つい話しかけてしまった。
「待て、どこへ行くつもりだ」
「殿下やミリア様と違ってすることもありませんし、田舎町に遊びに行こうと思いますの。それでは失礼いたします」
うやうやしく頭を下げて、アニュエラが静かに去っていく。
品のある見事な所作だ。後ろ姿ですら美しい。
いまだにカーテシーですら、完璧にこなせないミリアとは違う。そこまで考えたところで、サディアスはぎくりとした。
(バカなことを考えるな! アニュエラがミリアより優れているなどと……)
たしかに、ミリアは同世代の娘に比べて幼稚なところがある。だがアニュエラのように、癇に障る物言いはしない。
だいたい、今田舎町に遊びに行くなど、いったいどういう神経をしているのだ。
教育係の件で、王宮が騒ぎになっているのは知っているはずだ。自室でおとなしく引き籠もっていればいいものを。
会食の件が落ち着いたら、アニュエラの処遇を真剣に検討しなければ。
サディアスは小さく鼻を鳴らした。
第二章 商会の娘
一か月後。
豪奢な造りをした一台の馬車が、王宮の正門をくぐった。
そこから降りてきたのは、壮齢の男女と美しい顔立ちの少女だった。
クレイラー商会の会長夫妻と、そのひとり娘である。
「此度は、遠路はるばるご足労いただき感謝いたします」
文官とともに、一家を出迎えたサディアスはうやうやしく腰を折った。
「こちらこそ、ご招待いただきありがとうございます」
会長もにこやかに会釈をする。
最初の掴みは完璧だ。サディアスは自信に満ちた笑みを浮かべる。
(それにしても……)
会長の娘をまじまじと観察する。
艶やかな黒髪に菫色の瞳。どちらも、この国ではあまり見かけない色彩だ。それに加えて、まっすぐ伸びた鼻筋と柔らかな印象を与える垂れた目尻。
「お初にお目にかかります、サディアス王太子殿下。私はアリーシャと申します」
サディアスはごくりと唾を飲んだ。
娘に対して不思議な欲求が芽生える。彼女にもっと近づきたいような、彼女を手に入れたいような……
「あの……どうかなさいましたか?」
熱視線に気づいたアリーシャが、不思議そうに尋ねる。
サディアスはそこで我に返り、ぎこちなく笑った。
「い、いえ。美しい方だと思っただけです」
「まあ、ありがとうございます」
正直な感想を述べると、アリーシャは気恥ずかしそうにはにかんだ。陶器のような頬に、うっすらと赤みが差す。
ミリアともアニュエラとも違うタイプの美女だ。サディアスは胸の高鳴りを感じずにはいられなかった。
「では、早速ご案内いたします。こちらへどうぞ」
文官を先頭にして、王宮の廊下を進んでいく。
豪商といえども、王宮に立ち入る機会は少ないのだろう。アリーシャは珍しそうに周囲を見回していた。
微笑ましい気持ちになり、サディアスは頬が緩みそうになる。
それにしても、先ほどからミリアの姿が見えない。自分とともに、会長一家を出迎えるようにと言っていたはずなのだが。
(だが、これはこれでいいのではないか……?)
以前に比べたら大分改善されたが、ミリアの食事作法はいまだに怪しい部分がある。スープは音を立てて飲むし、ナイフとフォークを使うときもカチャカチャとうるさい。
万が一、食事中に粗相でもされたら、会談に影響が出かねない。
しかもクレイラー商会の本拠地は遠く離れた小国で、独自の言語を第一言語として使用している。
ミリアがそれを習得しているとは思えない。
そもそもこの国で習得している者は、どれほどいるだろうか。サディアスもこの日のために急遽覚えたくらいだ。
(アニュエラならあるいは……)
アニュエラは近隣諸国の言語を、ほぼ会得していた。教育係や侍女が大層褒めていたのをよく覚えている。
彼らの言葉は、サディアスをひどくいら立たせた。
『アニュエラ様がついていれば、殿下もご安心ですね』
侍女長からそう言われたときは、愚弄するなと叫びたくなった。
あんな女がいなくても、やり切ってみせる。サディアスは気を引き締めて、食事の席に着いた。
宮廷料理人が腕によりをかけて作った前菜が、テーブルに並べられていく。
そのあとはポタージュ、魚料理、肉料理……
普段、王族でも滅多に口にできない食材をふんだんに用いたそれらに、会長が感嘆の声を上げる。
「味、食感、香り、見た目、食材……どれをとっても見事な料理の数々です。このような手厚いもてなし、感謝いたします」
「こちらこそ、気に入っていただきありがとうございます」
サディアスは柔和な笑みを浮かべ、感謝の言葉を述べる。
そして、視線をさりげなく会長からアリーシャへ移す。彼女もサディアスを見ていたようだ。視線が交わった。
互いに笑みを零しながら、サディアスは内心で動揺していた。
あの視線には見覚えがある。
あれは自分に想いを寄せる乙女の眼差しだ。間違いない。
(これは……参ったな)
突然降りかかった難題に、サディアスは苦笑した。
自分にはすでに妻がふたりもいる。さすがに三人目を迎えるわけにはいかないだろう。
過去には多数の側妃を娶った王もいたが、妃同士の確執が多発したそうだ。そして最終的に、国王が暗殺されるという結末を迎えている。
あまりに惨めで滑稽な最期だ。同じ轍を踏む気は毛頭ない。
(だが……彼女は魅力的だ)
サディアスは、アリーシャの赤い唇に目が釘づけになっていた。唇同士で触れ合い、その柔らかさと味を存分に味わいたい。
込み上げる衝動を、ワインとともに胃の中へ流しこんだ。
会食は滞りなく終了した。
契約に関する会談は三日後に行われる。明日明後日はこの国を観光したいとのことだった。
「私が案内人を務めましょう」
サディアスは笑顔で申し出た。
「いえ、殿下にそこまでしていただくわけにはまいりません。どうかお気になさらずに」
「あなた方を我が国にご招待したのは、この私です。お任せください」
会長にやんわりと断られても、サディアスは諦めない。
観光する予定と聞いていたので、事前にその準備を行っていたのだ。高位貴族御用達のレストランも、貸し切りの手配を済ませている。
たしかに詳しい話も聞かずに勝手に準備したのは、こちらの落ち度だ。だがその辺の案内業者よりも、自分のほうが彼らを満足させられる。
ふたりの問答に終止符を打ったのはアリーシャだった。困ったように眉を下げながら言う。
「申し訳ありません、殿下。明日明後日は、私の友人に観光のガイドをお願いしているのです」
え、とサディアスは思わず声を漏らした。
「この国にご友人がいらっしゃったのですか?」
「はい。以前から文通をさせていただいております」
「そうですか……」
笑顔で言われてしまっては、サディアスは引き下がるしかない。
友人と言うからには女性なのだろう。いや、女性であってほしい。そうに決まっている。
「あら? 殿下はご存じないのですか?」
「え?」
そのとき、コンコンと扉をノックする音が鳴った。何かあったのかと、サディアスは眉をひそめる。緊急のとき以外は、文官や侍女の立ち入りは禁じていた。
「アン様だと思います。食事が終わったころを見計らって、こちらにいらっしゃるとのことでしたので」
アリーシャが声を弾ませる。
アンとは誰だ。
サディアスがさまざまな人物を思い浮かべている間に、扉はゆっくりと開いた。
そして、ひとりの女性が悠然とした足取りで入ってくる。
「アニュエラ……!?」
サディアスは驚愕のあまり、目を剥いた。
「君は何をしているんだ! さっさと自分の部屋に戻れ!」
サディアスは声を荒らげながら、アニュエラにつめ寄った。
すると少し迷惑そうにアニュエラが答える。
「何って……私の友人に会いに来ただけですわよ」
「友人?」
とてつもなく嫌な予感がする。頼むから外れてくれと、サディアスは信じてもいない神に祈った。
だが、神はサディアスに味方しなかった。
「アン様、お久しぶりでございます」
アリーシャがうれしそうに笑う。サディアスと話していたときよりも、ずっと可愛らしい表情をしている。
よりによって、アニュエラなんかに。
サディアスは沸き上がる怒りと嫉妬心で、奥歯をきつく噛み締めた。
◇ ◆ ◇ ◆
アニュエラは友人アリーシャに挨拶を済ませ、自室に戻った。早く明日の準備に取りかかりたい。
だが、当然のようについてきた夫が、それを許そうとしない。
「ふざけるな! 今すぐにガイド役を降りろ!!」
サディアスの怒号が室内に響き渡る。どうしてそんなことまで指図されなければならないのか。アニュエラの答えはもちろん決まっている。
「お断りしますわ」
「側妃の分際で、私に逆らうつもりか!?」
「側妃にも殿下に逆らう権利はございます」
「なんだと!?」
サディアスの顔が赤く染まる。
本当に沸点の低い男だ。
「そもそも、なぜクレイラー商会との関わりを黙っていた!? 本来は私に報告することだろう!」
「あら、ごめんなさい。とっくの昔に、ご報告したと思っていましたわ」
アニュエラは悪びれることなく言った。夫を見るその目は冷たい。
アリーシャと文通を始めたのは、たしか四年ほど前だっただろうか。一応サディアスにも話したはずなのだが、すっかり忘れているようだ。
(まあ、無理もないでしょうね)
当時のクレイラー商会は創立したばかりで、まだ無名の存在だった。それがたった数年で、その名が広く知れ渡るまでに成長したのだ。類稀なる経営手腕である。
「それに、ガイドの件はアリーシャ様がご依頼くださったことです」
「どうして、君のような女性を……!」
「気の置けない友人に頼むのは、普通だと思いますけれど」
「それは……そうだが」
さすがに何も言い返せないようだ。しおらしくなったところで、アニュエラはひとつ忠告することにした。
サディアスではなく、友人のために。
「ちなみに、アリーシャ様のことは諦めたほうがよろしいかと」
「な、なんのことだ」
しらを切ろうとしているが、アニュエラの目はごまかせない。
「彼女には、想いを寄せている方がいらっしゃいますの」
「は?」
サディアスはぽかんと口を開けた。顔から表情が抜け落ちている。
「商会の従業員の方だそうです。とても仕事熱心で誠実な方とお手紙につづられていましたわ」
「従業員……ということは、まさか平民か?」
「ええ」
アニュエラは笑顔でうなずいた。
これで、アリーシャのことは綺麗さっぱり諦めるだろう……と、思っていたのだが。
「どうしてそのような男と!? 彼女は会長の娘だぞ! もっとふさわしい相手がいるはずだろう! 貴族や王家に嫁ぐべきだ!」
現実を受け止められないのか、サディアスが悲痛な叫びを上げる。しかも、本音がダダ漏れだ。本気でアリーシャを狙っていたと判明して、アニュエラは青筋を立てた。
いい加減にしてください、バカ王子。
「クレイラー会長は優秀な従業員の中から、後継者をお選びになるご予定です。そして彼は、その第一候補ですわよ。アリーシャ様のお相手には十分ふさわしいと思いますわ」
「だが……!」
ここまで言っても、まだ納得できないらしい。まるで聞き分けの悪い子どもを相手にしているような気分だ。
アニュエラの語気は、いささか強くなる。
「とにかく、アリーシャ様にご自分の感情を押しつけるのはお止めください。お願いいたします」
あの女は何もわかっていない。
サディアスは廊下を歩きながら、アニュエラの話を脳内で反芻していた。
(アリーシャが従業員の男を好いていたのは、以前のことではないのか?)
あの熱を帯びた視線は、決して気のせいではない。多くの令嬢を見てきた自分には、いや自分だからこそわかる。
(今、アリーシャの心の真ん中にいるのは私だ)
サディアスはそう信じて疑わなかった。
結局、会長一家はアニュエラの案内で国内を巡った。
近ごろアニュエラが頻繁に外出していたのは、このためだったらしい。初めからサディアスの出る幕ではなかったのだ。
「とても有意義な二日間だった。アニュエラ妃には感謝しております」
会談が始まる前に、会長は感想を述べ始めた。
どうやら田舎町を中心に巡ったらしい。サディアスは深く謝罪した。
「申し訳ありません。私の妻が、そのような辺鄙な場所にお連れしてしまって……」
「いいえ。我々は仕事柄市街へ出向くことが多いので、たまには静かな場所でのんびりしたいと、妻や娘とも話しておりました」
「そ、そうでしたか」
「それに、素晴らしいワインとも巡り合えました。小さな工房で作られているものですが、世に広く出回っていないのがもったいないほどの美味しさです、土産に五本ほど買ってしまいました」
「それはそれは。私も今度、購入してみようと思います」
アニュエラに手柄を横取りされた気分だ。サディアスは会長との会話に花を咲かせながら思う。正直、悔しくてたまらない。
しかし、田舎を案内してくれと自分に頼まれたとして、はたして会長たちを、これほど満足させられただろうか。
(いや、アニュエラは事前にどのような場所を回りたいのか、リクエストを受けていたのだろう。同じ条件であれば私にも……)
974
あなたにおすすめの小説
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。